第5話 明るい暗い
とある道の真ん中。夕方。もうすぐ暗くなる。青い車が停まっている。周りに人はない、車のボンネットが開いている。ガチャガチャという音がしている。とある車がその車のそばを通り過ぎた。しばらく行ったところから折り返してまたこちらにやってくる。がっちゃがっちゃ。
「あれ、おっかしいな」
「見間違いだったんじゃない?小さいロボットが修理してた、なんて」
「ちょっと照らしてみるか」
ピカッと照らされた青い車。ボンネットがぱっかりと開いている。ちょっと前まで誰かがいじっていた様子だ。次に窓から中をのぞく。中には古いラジオと確かに小さいロボットがいたが、ピクリとも動かない。
「ほらやっぱり」
「そうかなあ。お、これくらいならすぐ直るぞ」
「あなた、ほんともうあきれた」
「すぐだって」
そうして男は戻っていった女をよそにカチャカチャと車をいじりだす。ペンライトを口にくわえて、しだいに暗くなっていくのもお構いなしに。
「よし!」
運転席に転がっていたロボットをラジオのそばに並べて、座席に座る。
「ちょっと失礼」
エンジンがかかった。
「「「やったー!」」」
「あれ?」
いろんな声が聞こえた気がする。まあいいかと男はその車から離れていく。自分の車に戻る途中、石ころにつまづいた。
「あ」
転がっていったのはペンライト。あっという間に暗い茂みに隠れて見えなくなってしまう。光っていれば別だが、暗くて小さな筒状の姿は一向に見つからない。
「なにやってんのよ、もう早く!お金にもならないのに」
「もう車は直ったんだ」
男はペンライトを諦めてイライラしている女の元へ。
「さあて、誰か戻ってくるのかな?」
「壊れて捨てってたのかもしれないわよ」
「大事に乗っていたようだからそれはないな」
「はいはい」
男は一瞬振り返って、動かない青い車を見る。そばの茂みがピカッと光って青い車も答えるようにピカッと光った気がした。なんとなくブレーキランプをチカチカとさせてから発進した。
「ひょっとしたらひょっとするのかも」
「もうあなたのせいで真っ暗になっちゃったじゃない」
「はいはい」
〇〇〇〇〇〇
「いやレディ、いい人もいるもんだね」
「最後あの人ピカピカして帰ってったね」
「中であんたたちがうるさいからよ。あれはバレたわね」
青い車の中は賑やかだった。
「あ、そうだ」
ロボットは車を降り、茂みの中で光るペンライトを拾った。
「あなたって誰!?」
「俺はロボット。君はすごくいいね!暗くても明るくなる!」
「電池がないと光れない。でもあなたすごい!」
「俺はちょっと他と違うだけさ。魔法のオコボレがかかるだけ」
「自分で光れる、電池がないとダメだけど、すごい!」
「あれなんでさっきご主人さまに探されてたとき光らなかったんだい?」
ピンクのペンライトは怒りだす。チカチカと光量を変えて光る。
「あの人おっちょこちょいですぐものをなくすの!それに口にくわえるの!見てよ土でベトベト、まあ時々は拭いてくれるんだけど。私なんて何代目のライトかわかったもんじゃないわ!」
「そうなの」
「青い車とロボットとラジオしかいないなんてすごい!」
「俺らと来る?」
「もちろん」
ロボットの手の中に収まったペンライトは、一緒に青い車へと向かう。ドアは自然と開き2つを迎え入れる。ラジオのララが低い男の人の声で話し出す。
「我らぼっさんとゆかいな仲間たち。ようこそ新しい仲間よ!今宵は宴じゃ!!」
「ララくん、楽しい曲かけてよ」
「ロボ、自己紹介しないの?」
「なにこれすごい!」
「ヒカリちゃん、この青い車はレディ。俺のことをいろんな所へ連れてってくれる」
「運転してくれなきゃ動けないけどね、よろしく」
「そしてこのうるさいのがララくん。いろんな曲をかけてくれたり、いろんな声で話してくれる」
「うるさいは余計」
「俺はぼっさんとかロボ、とか呼ばれてる。よろしくねヒカリちゃん」
「ヒカリちゃん?」
ペンライトは何も話さない。チカチカもピカピカもしない。ロボットが心配そうに、電球のある頭をのぞきこむ。するとピカーっと急に光が車の中を照らす。
「うわあ、びっくりした」
「ヒカリちゃんって私?」
「そうよ。ロボはテキトーに呼び名を付けるのよ、私も勝手に付けられたわ」
「私、ヒカリ!名前ってなんて素敵なの!すごい!」
車の中で光ったり暗くなったり、音楽に合わせてチカチカとする。ロボットはヒカリと名付けられたペンライトをドリンクホルダーに立てた。
「もう電池がなくなったのかって心配したよ」
「はっ!?」
それから急に光らなくなるヒカリ。ララがアンテナでつつく。はしゃいですいませんと申し訳無さそうな声だけだった。
「浮き沈みの激しい子だね」
「ごめんなさい、うれしくって」
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