第7話家族が揃いました
【売り場】
「パパー!」
〈走って遊に飛びついて抱っこする建都。ニコニコして健都を見る遊〉
「パパぁ?」
〈目を丸くして遊と健都の顔を見比べる愛里〉
「建都、また大きくなったんじゃないか?重くなったぞ」
「パパと中々会えないから、そのうち大人になっちゃうよ」
「もう健都ったら、パパじゃないでしょう」
春陽ちゃんに呼ばれて売り場に戻ってみると、お客様って美都さんと建都君だった。
「(何だ、違うのね。でもとっても優しい顔。本当に子供好きなんだ)」
「Lapisの支店が出来たって、宴達から聞いて一度来てみたかったのよ」
そうか、宴さんと素子ちゃんはこの前来てくれたけど、美都さんは初めてだったね。
「猫カフェ?」
「そうなんだ」
「どうしてまた石屋さんが猫カフェなのよ?」
「虐待されて処分されそうだった野良ちゃんの一家が居てね」
「放っておけなかったんだ、天空路さんらしい」
「本当にどうして動物を虐待するのかしらね?」
「あら、こちらどなた?」
「獣医さんだよ」
「え?もしかして宴んちのクリスタルの先生?」
「そうそう」
「遊の周りは素敵な女性が多いね、羨ましい限りだ」
「あら、イケメンギャルソンの羊里さんが良く言うわよ」
「イケメン執事ならぬイケメン羊なんて言われてるけどな、俺」
なんて言いながら羊里君はランチの支度をしてくれた。
愛里さんリクエストのサラダもちゃんと作ってくれて、美都さん達も一緒に食べる事にしたんだ。
「ニャー(美味しそうな匂いがするぞ)」
「ミャー(お腹空いた)」
「ミャー(僕達にもちょうだーい)」
「タマ、テーブルには乗っちゃいけないんだよ」
チビ君達はもうわかってるけど、タマは来たばかりだからね。
「ほら、お前達の飯はこれだぞ」
羊里君が、さっき夢が丘ハムさんで頂いたササミを煮てくれた。
猫用だから、何も味をつけないんだ。
「うニャうニャ(美味い美味い)」
〈自分は食べないでチビ達が食べるのを見ているタマ〉
「タマ。沢山有るんだから、いつもみたいにチビ君達に譲らなくても良いよ」
タマはいつも子供達に先に食べさせて、自分は我慢してたんだよな。
ちょっと戸惑ってるけど…
「あ、食べた食べた。どうだ?美味いだろ?うちの賄いは。俺が作るんだからな」
なんて猫達に言ってるけど、羊里君la merではギャルソンなんだよね。
でも、さすがにあそこに長く居ると、料理も上手くなるよね。
「宴もね、猫飼っちゃったからまた結婚が遅くなるわねー」
「え?何で?」
「独身一人暮らしでペットを飼うと中々結婚出来ないらしいわよ」
「猫の好きな人なら問題無いと思うけど」
「じゃあ、天空路さんだ。アハハ」
「え?僕?」
「(もう、本当鈍感なんだから。宴が天空路さんの事好きだなんて、私の口からは言えないでしょう)」
「えーっ?僕のパパにならないの?」
「建都君。おじさんがパパになってやろうか?」
「あーら、羊里さん。それ本気?」
「僕やだ」
「あれま、嫌われちゃったか」
羊里君は誰にでもこうなんだよな。
だけど麻友さんの事まだ好きみたいだね。
麻友さんの方はどうなんだろう?
もう関係ないって言ってるけど、何か有るとすぐ羊里君の所に行っちゃうんだよな。
優しいから、放っとけないんだろうけど。
午後は手術が有るからって、愛里さんは帰った。
ポンちゃんの手術も午後からみたいだ。
入れ違いに…
え?来たの?
「遊ちゃん。猫ちゃん達のご飯を持って来たの。車まで取りに来て」
「あら、おばちゃま」
「え?天空路さんのお母様?」
「うん、そう」
【駐車場】
母の車に行ってみると、トランクの中にぎっしりカリカリやら缶詰めやらオヤツやら詰まっていた。
「おもちゃまで有るぞ」
「だって、チビちゃん達も居るでしょう?」
はあ、こんなに沢山…
本当お母さんて、いつもこうだよな。
これだけ詰め込むの大変だっただろうに。
「僕も手伝う!」
「良し、じゃあこれ持って」
建都君や美都さんまで手伝ってくれて、皆んなで運んだ。
【店内】
「あら、あんまり変わってないのね」
母は、店の中を見回してそう言った。
思い出の場所を取ってはおいて、って言ってたけど、工房を作って天然石の売り場スペースを作ったぐらいで、他はそれほど変えてないからね。
「チビちゃん達はどこ?」
「サロンの方に居るよ」
「猫カフェなのに、ここに居なくて良いの?」
「ポンちゃんが今日避妊手術で病院だから、ママが居なくてちょっと戸惑ってる感じ」
【サロン】
母がサロンに入ると、チビ君達は少しびっくりして隠れちゃった。
「はぁ〜い、おもちゃ有るわよ〜」
おもちゃに釣られて最初に来たのはチビトラ。
この子は好奇心旺盛で、わりとすぐに懐いてくれたよな。
チビタマは怖がりで、少し時間がかかったね。
今もおもちゃで遊ぶチビトラを、ソファーの陰から見てる。
と、思ったら、お尻を振って狙ってるポーズ。
飛び出して来た。
「可愛いわね。このぐらいの時はやんちゃ盛りで一番可愛いのよ」
そうそう。
大きくなったら寝てばっかりだもんな。
【店内】
「この席よ。ママがいつも座ってたの」
それからまた母の思い出話しが始まった。
美都さんは興味津々で聞いてるけど、僕はタコ耳だよな。
「コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
「オーナーは紅茶を」
羊里君が飲み物を運んで来てくれた。
「羊里さん、もうla merには帰らないのー?Lapisに居るって宴達から聞いてびっくりしたわよー」
「今月一杯はここに居て、来月は帰る予定なんだけど…」
「けど?何か嫌そうな言い方ね」
「………」
「あら、それならここに居たら良いじゃない」
出た。
お母さんは簡単に言ってくれるよな。
「そうしたいのですが、旦那様に「今月一杯手伝うように」と言われて来たもので…」
「私からパパに話して、もうしばらく居られるようにしてあげるから、そんな寂しそうな顔しないの」
「ありがとうございます!」
良かったね、羊里君。
お母さんが言えばパパは「ダメ」って言わないもんな。
【夢が丘動物病院】
「ポンちゃん、良く頑張ったわね。明日は帰れるからね」
〈ポンちゃんは避妊手術を終えてケージの中で眠っている〉
「本当に気の強い子ね。まあ、野良ちゃんだったんだものね、それぐらいじゃないと子育て出来ないわよね。初めての子供良く育てたわよ。二匹産んで二匹ともちゃんと育てたんですって?偉いぞポンちゃん」
【Lapis夢が丘店】
バイトの二人、今日は大学で何か有ったらしくて、いつもより遅く来た。
春陽ちゃんは年が近いから、すぐに仲良くなったな。
そう言えば、女の子が沢山居る職場って人間関係が難しいって聞くけど、うちは大丈夫だね。
「本店には、パワーストーンのアクセ沢山有るんですか?」
「ええ、有るわよ」
「明日美さんも作るんですか?」
「オーナーが作るのを私達も手伝うの」
「え?オーナーっていつもこっちに居るのに?」
「最近はそうね。だから、私達が作ったり、オーナーがここで作ったのを持って行ったりしてるのよ」
そうだよな…こっちも落ち着いたし、本店に顔出さないと。
しばらく羊里君が居てくれる事になったしね。
【帰りの電車】
「ねえお兄ちゃん。獣医さん…素敵な人ね」
「ああ、そうだね」
「(「そうだね」ですって。何よ)」
「愛里さんとこは、ボランティアで保護猫の治療してくれるから助かるよ」
「愛里さん、って仰るのね」
「うん」
【天空路家】
「ただいま〜」
「ニャー(パパちゃん抱っこ)」
「ニャーニャー(僕も僕も)」
〈いつものように遊に飛びついて抱っこするLapis。遊はLapisを肩に抱く。Rutileは遊の足に手をかけてニャーニャー鳴いている〉
「Rutileちゃんは私が抱っこね」
春陽ちゃんが家までついて来た。
夕食食べて帰ろうか?って言ったら「Lapis達が待ってるから帰りましょう。私作るわ」って。
Lapisが懐いてるの春陽ちゃんだけなんだよな。
Rutileは麻友さんにも懐いてるけどね。
【Lapis夢が丘店】
〈翌日〉
「オーナー、こんなの作って来たんですけど」
「どれどれ?うわー、これは良いね」
麻里愛ちゃんが、猫達の紹介を作って来てくれた。
写真とそれぞれの名前の由来なんかが書いて有る。
「ポンちゃんは、冬になると毛が長くなってタヌキみたいだからポンなんだね」
「みんな稲さんがつけたんです」
「おにぎり顔のタマは…」
「「うちのタマ知りませんか」って言うのに居そうだからって」
なるほどね。
チビタマは父親のタマそっくりだからチビタマで、チビトラは見たまんま虎猫で手足がソックス履いたみたいに白くて、胸の所も白いんだよな。
【夢が丘駅近く】
ポンちゃんどうしてるかな?
不安になってないかな?
野良ちゃんしてたんだから、またどっか連れて行かれるんじゃないか心配になるよね。
【夢が丘動物病院】
「あ、いらっしゃい。ポンちゃん、お迎えが来たわよ」
「お家に帰ろうな」
「今日はもう終わりだから、私も一緒に出るわ」
【Lapis夢が丘店】
「ポンちゃん置いたらご飯付き合いなさいよ」
ポンちゃんをキャリーバッグから出すと、少しフラフラした。
女の子の避妊手術は大変だもんな。
「ポンちゃんのそばに居てやりたいんだ」
「じゃあ、私も。大丈夫だと思うけど、何か有ったら私が居た方がすぐ処置出来るし」
「夕食は?」
「コンビニで買って来る?」
「何か適当に作ろうか?」
「出来るの?」
【カウンター】
「これは料理したうち入らないわね」
「ま、まあ、切ったりはしたけど…」
「切っただけとか、並べただけ?」
「確かに…」
そう言う愛里さんは料理するのかな?
素子ちゃんは「包丁よりハサミの方が良い」なんて言ってたけど、愛里さんはメスで切ったりして。
「呑みに行こうと思ってたのに」
「有るよ。ワイン開けようか」
〈遊はワインを振る舞ったら、ポンちゃんの様子を見に行った〉
【サロン】
まだチビ君達がまとわりついたら、しんどいんじゃないかな?
と、思ったら…
くっついて寝てる。
その方が安心するんだね。
二人(?)を抱くようにして寝てる。
その横にタマ。
【店内】
僕が戻ると、ワインの瓶がカラになっていた。
何だか物足りなそうだね。
「もう1本呑む?」
「他のお酒無いの?私チャンポンしないと気が済まないのよ」
「生ビールなら有るよ」
ビール中ジョッキ、あっという間にカラだね。
まだ呑みたそうだけど…
「もう遅いから送って行くよ」
「(なーによ、帰れって言うのね「泊まって行け」とか言わないんだ)良いわよ、一人で帰れるから」
「でも…あ、ほら、危ない」
〈立ち上がるとフラっとする愛里を抱きとめる遊〉
「あっ…」
「大丈夫?」
「うん(って、いつまでそうしてるのよ?でも何だかこの人の腕の中って優しくて安心する)」
何か良い匂いがするな。
お化粧の匂いとかはちょっと嫌だけど、これは…
何だろう?
エッセンシャルオイル?
「(もう少しこのまま居ても良いかも)」
〈香りが気になる遊。確かめようと顔を近づける。と、その時〉
「ねえ」
〈と上を見る愛里の顔と遊の顔が近づいてもう少しでkissしそうな感じ。そのまま動けない二人〉
「……」
「……」
「痛い痛い」
「え?何?」
「チビトラだ」
〈チビトラが遊の身体に爪をかけて登って行く〉
「抱っこか?珍しいな」
「え?抱っこさせない?」
「だいぶ慣れたけど、まだ抱っこはさせないんだ」
活発な子なんかは、抱っこ嫌いな子も居るしね。
自分から抱っこなら良いけど、こちらから抱っこされるのは嫌がったりするよね。
さて…
愛里さんはポンちゃんの様子を見てるぞ。
「大丈夫そうね」
「そう。良かった。ありがとう」
「いえいえ」
「送って行くよ」
「良いわよ。ポンちゃんのそばに居てあげて(すっかり酔いも覚めちゃったわよ。酔いも夢も覚めたわ)」
「本当に大丈夫?」
「近くだから大丈夫よ。そんなに心配しなくたって。あ、保護猫カフェよね?」
「うん、そうみたい」
「「みたい」って、貴方オーナーでしょう?」
何だかそんな事になってるよね。
保護猫っていつか里親さんの所に行っちゃうから寂しいよな。
「今度保護したらお願いするかも。じゃあね」
「えっ?」
あ、帰っちゃった。
今日春陽ちゃんがうちに泊まってLapis達を見てくれてるから、僕はポンちゃんのそばについて居てやろう。
シャー!って言うかな?
〈寝ているポンちゃんをそっと撫でる遊。ポンちゃんは少しビクッとして顔を上げる〉
「びっくりしなくて良いよ」
〈遊はポンちゃんを優しく撫でている〉
やっと触らせてくれたね。
病院から帰って来て、疲れてるのも有るんだろうけどね。
チビ君達はタマにじゃれて耳や尻尾を齧ってる。
「こらこら、ママはしんどいんだから静かにね」
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