第10話 どんなものも透けて見える薬

 ある研究所にて博士が薬を完成させた。

「ふむ、完成だな」

「やりましたね! 博士! 世紀の大発明です!」

 画期的な発明に立ち会えた感動からか、助手は興奮気味だ。

「これを飲むとあらゆる物質が透けて見え、これによってMRIやレントゲンを使わない健康診断が可能になり、破壊できない遺跡の調査など利用価値は無限大に広がる。しかし、このままでは危険だから、まだ発表はできないな。スズキ君、これを厳重に保管…した…まえ…」

「は、博士?! あれ、変だ、力が…入ら…な…」

 博士が助手に言い終わらないうちに、二人とも意識を失って倒れた。

 倒れた二人のそばにはマスクを付けた男が立っていた。それは薬の存在を狙う博士のライバルであった。

「フフフ、催眠ガスでしばらく眠ってもらおう。薬はいただくぞ。しかし、何でも透けて見えるのなら試しに飲んでみるか。そうすれば女湯はもちろん、ようじょの服の中もフフフ…」

 …ライバルは変態でもあったようだ。

「では、飲むか」

 そうしてライバルが薬を飲んだとき、博士達の意識が戻った。


「ん? ああ、さっきはおかしく…ああっお前は!」

 博士が慌てて薬を取り返そうとするが、ガスの後遺症でまだ体が思うように動かない。

「ふははは、遅いわ。既に薬は飲んだ」

「ああ、なんてことだ、それを丸々飲むとは」

「ああーっ! 薬が飲まれてしまったのですか!」

 遅れて意識を取り戻した助手も悲鳴をあげた。

「ふはははは、嘆いても無駄だよ。これで私はなんでも見透かしてしまうんだ。国家機密も、建物も中も、そしてようじ…あ、あれ!?」

 突如ライバルが動揺し始める。

「ばかな、何も見えなくなってきたぞ! 闇だ、闇しかない! 博士、騙したな!」

 何も見えなくなったらしく手を空中でばたばたとさせ、頭をせわしなく動かしている。その動作は突如視力を失ったものそのものであった。

 博士はためいきをつきながら言った。

「いや、お前さんが飲んだのは確かに物を透かして見る薬だ。ただ、その原液を大量に飲むと効きすぎるのだ。原子レベルで透けていくから建物の中はもちろん、地球上の物質を通り越し、惑星や恒星の光子も透けていく。そうなると闇しか認識しなくなるのは当然なんだよ」

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