第5話 出会い

「セノンさんは先に部屋に入っていていいよ! 私はロビーのところにいた男の人と話をしてくるから!」

「わかった。気をつけろよ」

「はい! また夜会いましょう!」

 一香は笑顔でセノンに手を振っていた。セノンは軽く手を振り返して二階にある自分の部屋に行く。

 セノンは階段を上り自分の借りた部屋へと入る。

 彼が部屋の扉を開けると中は一人暮らしができそうなくらいの部屋の大きさだった。中には主にベッド、大型テレビ、パソコンがある。

 セノンは一番初めにベッドに腰を掛けた。そのまま、手を少しスライドさせ、コマンドメニューを開く。

 セノンは出てきたコマンドの一番下を押しセカルドからログアウトしようとしたその時のことだった。

 宿屋の一回から大きな悲鳴が聞こえる。その声が一香の声に聞こえたセノンはそれに気が付くとログアウトを取り消し、すぐに一階に向かう。

 セノンは階段を一段一段駆け降りるのではなく一気に一番上から下まで飛び降りる。

 すると、そこには四人の男女が立っていた。

「セノンさんは良い人すぎます」

 一香は今までセノンと過ごしてきた時間の時とはまるで違う。一香は長い棍という武器を持ち構えていた。

「まったく、甘いですね。セノンさんは。何でもっと疑わないんですか?」

 セノンに挑発的な態度をとってきたのは一香合わせた三人の子供たちのボスといわれる男で先ほどは宿のマスターをやっていた人だ。

 いかにもいかつそうなサングラスをかけており、両手にはナックルダスターというものがつけられていた。

 セノンは自分のフードをかぶり顔全体を陰で覆い完全に自分の世界に入った。

 四人は赤い目をしたセノンを目の当たりにして少し後ずさる。

「お前たち、三対一だ! 恐れる必要なんて全くない! いけ!」

 男は一香たちに命令をする。

 その言葉を聞いたセノンは一回の瞬きの間に両側の腰に掛けていた拳銃を構え、リロードまでも済ませた。

 その後、彼は容赦せず子供を一発ずつ撃った。放たれた銃弾は子供たちの方に命中した。

 すると、子どもたちのHPゲージは一瞬にして残りわずかの色、赤になった。

「マジかよ。もう死ぬぞ?」

 三人の子供一人がボソッとつぶやく。彼は日本刀を手にしたが驚きにより手から滑り落ちる。

「死にたくなかったら降参したほうがいいよ? まだ、個人ランキングは入ってるしそんなに舐めないほうがいいと思うけど?」

 セノンは少々機嫌が悪かった。そして、少し煙を漂わせている銃はボスといわれる男のほうを向いていた。

「ったく、お前ら、あとからわかってるよな? 俺に恥をかかせたこと――」

 男は子供たちに一回殴ろうとした。しかし、セノンが銃を一発撃ち阻んだ。

 その銃弾は腕に打ち込まれたが、男のHPゲージは全く減らなかった。

 そう、男はチートという技術を使用していたのだ。

「はぁ、チートは法律で禁止されていることは知っていますよね?」

 セノンはあきれた表情で男を睨む。

 男にはセノンの言葉は届いていない。そんな男は容赦なくセノンに飛び掛かる。

 しかし、チートを使っていてもセノンのは攻撃が入らない。それに加えて、セノンは男に攻撃を確実に入れていく。

 セノンの攻撃は着々と男の体力を減らしている。セノンの銃の腕前はすごいものだった。銃弾は男以外場所への流れ弾は一つもなかった。

 二人の距離感は全く縮まらないまま男の残りHPは赤色へと変化した。

 その途端男は武器を外し大きな声で叫んだ。

「どうか、通報だけはやめてください!」

 セノンはその言葉には耳を傾けないが動きは止めた。

「ならお前に一つ問いをする。それにこたえられなければここで始末しお前の人生はここまでということになる。死ぬ準備は良いか?」

 男は手足を震わせている。全く話そうとしない。

 そんな男を見てセノンは一発の銃弾を顔すれすれに打ち込んだ。

 それに男はビビッて声を出す。

 この男は死ぬことを拒む理由はいくつかある。そもそも、プレイヤー同士の殺し合いはイベントが発生した場合や互いの承認があった場合、正当防衛の場合だ。対人戦闘で負けるとプレイヤーランキングにかかわってくる。しかし、この男の場合はチートという最悪の技術を使っているためセカルドの永久追放が約束されている。

 セカルドは今の日本を回す戦力の一つでこれができないだけで生きていくのが不便になることが多々ある。

「それで、質問はなんだよ!」

 声は震えていたが度胸だけはあるようだ。しかし、何の躊躇もなくセノンは銃弾を放つ。

「質問は死ぬ準備は良いか? っていうことだよ」

 セノンは男の最期を見届けてからフードを外し小声で言った。

「それで、お前たちはこれからどうするんだ? あの男はもうこの世界は来れないだろうな」

 セノンは両手に持っていた銃を腰に戻しながら言った。

「私、セノンさんを裏切ってごめんなさい。あの、ほんとは裏切ってこんなことする気なかったんです。でも……――――」

 近藤一香は泣いていた。心の奥からこみあげている思いが顔をぐちゃぐちゃにしていた。

「いいよ。別に。仕方ないことだろ? まぁ、この借りはいつか返してもらうとするし。それより君たちはまだ子供なんだ。これから頑張ればいい未来も待っていると思うんだが」

 セノンはこの子達三人には大きくなってもらいたいという願望があった。それは、この子供たちは見た目はまだ中学生ぐらいなのにみんなボスの言うことには忠実でしっかりとやってこなせていたという事実があったからだ。

「私、本当にセノンさんについていきたいです!」

 一香は泣きじゃくっていた時とは一転してこれからを見据えるいい顔へと変わっていた。

 また、隣にいた日本刀を落とした男の子も深々と一礼をして言う。

「あの、さっきは武器なんて構えてごめんなさい。あと、僕もこれからはもっとセノンさんみたいなかっこいい男になりたいです。どうか、僕も連れて行ってください!」

「おいおい、人に物を頼むときはまず名乗れ」

 セノンは白い歯を見せながら言う。

「あ、ごめんなさい。俺、向井政次むかいまさつぐって言います。どう呼んでいただいても光栄に思います!」

 政次は日本刀に似合う侍のような恰好をしている。熱い眼差しからは二人の少女を守らなければいけないという思いが見られる。

 セノンはそれに察して政次の耳元で小声で言う。

「二人もかわいい子がいたらそりゃよる気が出るよな」

 すると、政次は大股に後ろに下がる。

「あれ、顔真っ赤だぞ?」

 セノンは政次はを少しからかう。

「それで、君はどうするんだい?」

 セノンは政次はに言うだけいって話を戻し、最後にいた女の子に話しかける。

「あ、あの、私もみんなと一緒がいいので……」

 その女の子は少しもじもじしているがセノンにとって理由なんてどうでもよかった。

「なるほど。一緒に旅をするのに理由なんてなんでもいいよ。それで、名前はなんていうの?」

 セノンは女の子に目線を合わせて話しかける。

「わたし、松風瑠美まつかぜるみです。よろしくおねがいします」

 その少女は杖と本を両手に構えている。また、白色をベースに寒色系の色でラインがあるローブを着ている。薄い紫色の髪はかしあたりまでのびている。

「わかった。なら、三人に聞くけどこれから僕はギルドランキング一位になるていう目標を掲げていろいろな世界を旅したいんだけどみんなはどうかな? リアルの世界が忙しいのなら無理にとは言わない。けど、君たちならこれから先やっていけると思うんだ。改めて、どうかな?」

 セノンは三人にを見渡しながら話を進める。

「私はついていきます! 今いるみんなでギルド作れたらきっと一位になれると思います。セノンさんも強いですし!」

 一香はさっそくやる気に満ち溢れている。

「わたしも行きます。これからは上を目指したいです」

「わかった。三人の了承を得たということでとりあえずはこの四人のメンバーでギルドを作っててっぺん目指しますか!」

 セノンは話をまとめてコマンドメニューを開き新しいギルドを作成しようとした。

 しかし、話はまだ終わていなかった。

「ちょっと待ってください。僕まだ返事してないですけど?」

 政次はまとまった話を掘り返す。

「あ、ギルドは断るのか。わかった。残念だけどリアルの事情もあるしな」

 セノンは真面目な顔をして政次に問いかける。

「いや、ギルド入りますって!」

「そうか」

 セノンは必至な政次の答えにそっけなく返事を返した。それに一香と瑠美はにっこりと笑った。

「セノンさん! 笑われちゃったじゃないですか?」

「さぁ、また泊まれる宿でも探しますか。夜ごはんもセットがいいな」

 セノンがまた勝手に話を進める。

「ちょっと、またそのくだりをするんですか?」

 政次は大きな声を上げているが、この度は一香と瑠美にも声が届いていない。

「そうですね! どこ行きますか?」

 一香がセノンが開いた地図をのぞき込むとそれに続いて瑠美もうなずき地図を見た。

「ちょっとぉ! セノンさんってば! さっきからひどいですよ? 僕も相手してくださいよ?」

 セノンは後ろで暴れていた政次を一度見るがまた地図をみて宿屋を探した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る