そうして、誰かの一冊に。
浅野新
プロローグ:北海道、3月
丸太のような太い脚がゆさゆさと雪をかきわけて進む。外国産の馬と比べると子馬かと思うほど小柄なのに、成人男子を一人乗せ、雪をものともせず軽がると歩みを進めるのはさすが道産子だと思わせた。時々小雪がちらつくぼんやりと薄いグレーの空と、ぐるりと見渡しても山はなく、民家も遠く雪に覆われたどこまでも平らの大地は、空と大地の境目がないライトグレーの世界を形作っており、自分が別世界にいる気分にさせられた。広い牧場の脇には道路があるはずなのに車も通らない。札幌からそれほど離れていないはずだと首をかしげながらも僕は二頭の馬と二人の人間だけの音のない世界に呆然と、しばらくして恍惚とした気分になった。
友人の訃報を聞いたのは昨年の秋の事で、翌年の三月、僕は彼の故郷である北海道にいた。
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