&6 異世界への搬入

 頂上の神社を出発してからは、地図を持つ巧の後ろに少女を背負ったハルートが続く。頂上付近は少し岩場になっていたが、歩きにくいほどではなく、それを過ぎれば木柱の階段になる。途中、他の登山者に出会うことがあり、「手伝おうか」と言われることが多かったが、あまり大人数でもしょうがない(実際は少女が異世界人で、彼女の力がないと会話ができない)ので断り続けた。

 頂上から1合分下りたことを表す石柱があるところで彼らは止まる。巧の持つ地図では、ここから森の中には登山道から外れ、森の中に入っていく必要がある。


「登山道を外れるから、気を付けないと迷うことになる。タク、頑張ってよ」

「努力はするけどよ……大体のところまでしか分からなさそうだぞ。もっと範囲が狭いやつだったら行けたかもしれないが、これじゃ―――」

「大丈夫です。近くまで来たら……私の記憶で、大体の場所がわ、かるから……お願い」


 ハルートの肩越かたごしに少女が声を飛ばす。顔色も赤みを見ることがほとんどなくなって、今にも気が無くなりそうになる。


「タク、急ごう!」

「了解だ」


 全員が決心して森の中に入っていく。道と言える場所ではないので少し歩きにくくはなっていたが、けもの道があったのでそれを通って進む。途中、少女の言うことに従い進んでいくと、周りが5m程開けた場所にたどり着き、彼女の言うとおりにそこで止まる。


「確か、ここだった……はずです。その地図を、こ、この開けた所の、中心あたりに、置いてください」

「わかった。中心だな」


 巧は一人前に進み、大体中心になる部分に持っていた地図を置く。

 置き終わって戻ってくる彼を少女は見ると、小さくとなえ始める。


「我……今、帰還する」


 途端とたんに地図に火が付き、一瞬にして燃え尽きる。そして、その代わりという感じにその上に当たるところへ周囲に現れた光が集まる。頂上で彼女が使った力の時とは違い、光はさらに大きくなり、人が通れそうにまでになる。

最初は白く見えていたそれは、次第に色を変え、中に明かりがある部屋を見ることができた。


「この先が、目的地、です」

「この先が異世界ってことか。よく本で読むようなことだけどよ、なんとなく感動だな」

「まさか僕たちが本当に体験することになるとはね」

「異世界に行ったら『私たちの世界を救ってください!』的なことが定番ていばんだよな。今回は違うけど」

「まあ、あくまで創作物そうさくぶつダし。そこまで本当になったら、僕も向こうの世界で無双できるンじゃないかな」

「そうだな。それ、いいかもな」


 異世界について簡単に感想を述べていると、いよいよ彼女は気を失ってしまったそうで、ハルートの肩を掴んでいた手から力がなくなっていく。


「おい、早くいこう!」

「よし、向こうに誰かいてくれるといいが」


 彼らは、部屋が見える光の中に足を入れていく。違和感を感じることなく、入っていくと、すぐに外から見た景色が広がっていた。

 石造りの部屋で、机と変な大きい機械が置かれている。そして、机の椅子に1人、黒い服に身を包んだ初老の男が何かを読んでいたようで、本らしきものを机に置き、立ち上がっていた。彼の顔には、『どちら様?』というような顔をして2人を見る。

 ハルートが思いに、この男が少女の言う知り合いなのだろう。 

 男は先ほどの光を通ってくると思った人と違ったことで、巧とハルートへ近づいてくる。


「Eα>o¥☆γ?」

「……これって」

「あぁ、言葉が通じなさそうだな。お前の背にいる子だけしか今は話せなさそうだ」


 男は把握が仕切れず、なおも言葉を飛ばしてくる。2人には話す術の少女が気を失っているからどうしようもない。ハルートは単刀直入たんとうちょくにゅうに彼女を見せてどうにかしようとする。

 ハルートは男に背が見えるように回り、少女が目に入るようにする。最初はなんだと思っただろうが、それがなにかすぐにわかったのであろう。彼は少女に近づき、顔を覗く。状況を把握できたそうで、2人にジェスチャで着いてくるようにあらわす。巧とハルートはそれに従うことにして、男の後をついて部屋を出ていくことにした。そして、続くように巧が全員分の荷物をもって部屋を出ていこうとする。通ってきた光に視線を向けると、それは小さくなって消えていく。


(これって本当に帰れるよな? 話的はなしてきには『帰れなくて、その世界で頑張る』がありそうなことだが)


 一抹いちまつの不安を覚えながら、彼も部屋を後にした。

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