想い出


 すでに、今年の春に卒業した思い出は霞み始めています。


 お世話になった先輩の顔や名前が思い出せなくなって、これは重症だなと自嘲的に鼻で笑う毎日です。


 昔、世話した後輩のことも。昔、自分が何をしたのかも思い出せなくなっていました。


 けれども、なぜだか悔し涙を流したことだけは妙に覚えているんです。


 なぜだか、ものすごく嬉しかったことだけは覚えているんです。


 仙台のコンサート前日に、顧問と一緒に行った寿司屋で他愛もない話をしたことだけを妙に覚えているんです。


 あの時の赤貝、ごちそうさまでした。


 思い出作りが、好きというわけではありません。


 でも、嫌いというわけでもありません。


 どうか、これから先。色褪せないくらいの濃い出会いと感動あれ。

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