第17話

 部屋をぐるりと見渡す。

 推理小説。アルバム。コーヒーカップ。青色のベッドカバー。全てが北澤の物で、北澤自身で、北澤の空間に、僕はいる。

 空間は、強烈さを持って。

「北澤」という、個の。

 僕は床の上にあった、水色のTシャツを拾い上げる。洗う物だろうか、洗った物だろうか。

 しばらく逡巡してから、本人に聞けばいいやと思いつく。

 Tシャツを見る。一度行った、カルフォルニアの空のような、鮮やかな水色。

 彼らしい。思わず笑みがこぼれる。

 そして。

 Tシャツに、顔をうずめた。目を閉じる。

 北澤の匂い。

 北澤の温もり。

 どれぐらいそうしていただろう。


 ふと、物音に顔を上げると、

 北澤が立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る