第10話

しばらくの間、焼けたトーストを食べたり新聞をめくったりしていた。やがてそれにも飽きて、本棚から推理小説で薄い物を何冊か引っ張り出し、読み始める。

 一冊読み終わった頃、ベッドがもぞもぞと動いた。

「おはよう」

 声をかけると、北澤が不機嫌そうな顔でこちらを見た。

「・・・あまり寝られなかった」

「そりゃね。一回起きるとね」

「お前のせい!」

 僕を指差す。

「悪い。もう起きてると思ってたから」

「休日は寝坊するもんだ」

そこで僕が持っている小説を見る。

「それ何? 」

 もう話題が変わる。僕は苦笑しながらお前の本だろ、と表紙を彼の顔の前までぐい、と突きつけた。

「ああ、これね。面白かったろ」

「うん」

 彼はにっと満足そうに笑い、起き上がって伸びをする。少し焼けた、しなかやか手足。やや細身の体は、同じ二十七歳とは思えない。高校生のようだ。黒髪だから、余計若く見えるのかもしれない。大きな瞳がきょろきょろと動き、僕を見る。

「三日泊まるんだっけ」

「うん。月曜は祝日だから。良かったかな」

「ノープロブレム」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る