フルーツバスケット
「亡くなった人、若しくは謎の番号から携帯に恐怖のメール・メッセージや着信がある」というオカルト話を時々聞く。
その着信やメールの履歴を後で確認すると何故か消えている、というオチがつくことも多い。
履歴が残っていた場合でも、掛け直したら「この番号は現在使われておりません」とかね。
映画着信アリとかに象徴されるように、電話絡みの怖い話は比較的スタンダードな部類なのだと思う。
その手のオカルトを一度経験した事がある。
当事者としては結構不気味だったのだけど、この話は誰に話しても笑われる。
ある日の事だ。仕事帰りにふとスマホを確認すると、母から「帰りにバナナ買ってきて」というショートメールが届いていた。
仕事帰りに食パンや牛乳といったちょっとした物のお使いを頼まれる事はよくあった。
余りにも頻繁なのでこういう簡単なお使いメールの時は返信しない事も多い。
そのショートメールに気付いた時には既に地元の駅に到着していたのもある。
急いでそのまま目の前のスーパーに入ると、特売の安いバナナを1袋買う。
帰宅して、夕飯の支度をしていた母に「はいバナナ。買ってきたよ」と渡すと母はちょっと不思議そうな顔を見せた。
「あらありがとう、どうしたのいきなり?あなたバナナ好きだったっけ?」
私は驚いた。
「いや、母さんがバナナ買ってきてっていうメールしてきたじゃん。母さんこそどうしたの?」
母はまだ若いと思ってたけどまさか何かの病気では、と不意に不安になる。
元々ゆったりした性格ではあるが、ほんの数十分前に送ったメールを忘れるとは思えない。
私は自分のスマホに届いたメールを母に見せようとした。
何故かそのメールは消えていた。
バナナとスマホを手に呆然とする私を見て母も不思議がって、自分の携帯をチェックして見せてくれた。
しかし私にそんなメールを送信した形跡は一切なかった。
一瞬母が私をからかっているのかと思ったけど、母が特に好きというわけではないバナナをわざわざ買ってこさせる意味がわからない。
変な事もあるわねえ、気持ち悪いねえ、と話していたら高校生の弟が部活から帰宅した。
「あ、バナナじゃん貰っていい?めっちゃ腹減った」
弟はがさつにビニール袋を開けてバナナを1本もぎ取る。
「…すぐ夕飯だよ?」と言ったけど弟は「これくらい大丈夫大丈夫」とバナナを食べながら部屋を出て行った。
夕飯の後、母は律義に仏壇に1本バナナをお供えしていた。
「うーん、だってなんだか薄気味悪いから」
そのバナナ事件以来、どんな些細な用事だとしても母からのメールには極力返信するようになった。例えたった一言でも。
何故バナナだったのか。
今でも不思議で仕方がない。
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