第43話 見合いへ
「ところで、さっきから鳴ってるのだけど、いい加減に出たら?」
と、友明から言われてるが何か嫌な予感がする。
出たくない…という気持ちで無視してたら、友明には「ブーブー煩いの」と睨まれるし。
すると、いきなり目の前にiPhoneが差し出された。
友明に持たせたまま画面をスワイプして宛名の確認をする。
「ちゃんと自分で持ってください。腕がだるいのよ。眠いんだから」
専務からだ。
そこで思い出した、そういえば今日は見合いの日だったことを。行きたくないから昨夜は遅くまで仕事をしていたんだ。時計を見ると18時を過ぎている。
自然と溜息が出る。
はぁ……。
どうしよう、どう言えば良いんだ?
悩んでると、鳴っていた電話が切れた。
着信履歴を見てみると、専務の名前がズラッと並んでる。
うぅっ……。
なにか妙案は、ないだろうか。
しばらく経つと、また鳴ってきた。
まったく、もう…。仕方ない、怒られるだけ怒られよう。取引中止になっても他の銀行にすれば良い。よし、覚悟は決まった!
「もしもし」
『やっと繋がった。どこに居られるのですか?今日は何の日なのかご存知ですよね』
「悪かったと思ってるよ」
『院長!それだ…』
「もともと乗り気でなかったのは知ってるだろう。でも、形だけでも行こうとしたんだよ。行って、断ろうと」
『それなら、そうすれば良かったのに。どうして』
「会ってしまったんだ」
『え?』
「ドイツで会った彼女に」
『マルク坊やに誘われて行った先で会われたという、その美女ですか?』
「ああ、そうだ」
『・・・・・・』
「頭取には、謝らないといけないな」
『その頭取から、伝言を預かっております』
「え?」
『明日の月曜日の12時、今日と同じホテルのレストランで再度見合いをしたい、との事です』
「あしたぁ?」
『院長…、声が大きい』
ビクッと、身体を揺らしてこっちを振り向く友明が目に入る。
「うるさい!」と声に出さずに口が動いてる。
「明日って、まさか… それを了承したのか?明日は…」
『ええ、了承しました。そして、明日の11時からの打ち合わせには代理として副院長に行ってもらうようにしました』
「書類は私が持ってる。それに、あそこのボスには何度も何度も足を運んで、やっとのことで承諾してもらっての打ち合わせに繋がったんだ。ほかの人間が行ってどうする」
『それなら、どうあっても今日は見合いに行くべきでしたね』
「それなら今夜だ」
『え?』
「今夜、これから見合いのセッティングをしろ!明日の11時なんて冗談じゃない」
『ちょっと院長、お待ちください。今夜は、もう』
「うるさい!まだ19時前で私は腹が減ってる。謝罪するのにも早い方がいい。
それに、明日行くのは副院長ではなく、この私だ。いいな!」
『いんちょ』
「誰に向かって言ってる?私は院長だ。これは院長命令だ。とっととセッティングしろ!」
そう言い切り切ってやる。
ガチャ。
はあぁ…。
あー、まったく幸せ余韻に浸ろうとしてたのだけどな…。
「悪いな、騒がして。腹が減ってる状態で怒鳴ったから、益々腹が減ってきた。なにか」
「別にいいですけど、音量には気を付けてくださいね。食事はホテルで食べられるのでしょう。ガツガツとガッツイテ食べてると、普通の女性は嫌がるものです」
そこで気が付いた。
なるほど、そういう手で断られるというのも有りだな。
「でも、何か簡単な…」
ムグッ!
「それ、美味しいでしょう。よく母が作ってくれたものなんですよ。
餡子を丸めて、薄焼き卵でキャンディっぽく包んだものです。いつも冷凍保存して、よく食べてますよ。卵一つで6個ほど作れますよ」
「それはいいけど、一気に3個を口の中に入れるというのは入れ過ぎではないか?」
「それぐらい一口で食べた方が、食べた感がありますよ」
友明に手を出す。
「ん?なんですか?」
「鍵を」
「どこの?」
「ここのだ。見合いが終わったら戻ってくる」
「返してもらいますよ。なにしろ、私が持ってる鍵もスペアなんですから。ここは父親の持ち物なんだから、勝手に誰かにあげるということは出来ません」
「そうか、それもそうだな。それじゃ、借りる」
「はい。お気をつけて行ってらっしゃい」
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