第8話 福山博人Side

 一日おきで通ってるカフェ『Home』。

 今夜も行けるだろうな、と思っていた。

 そしたら、救急が来た。

 悪いが、患者優先だ。

 今夜は飲みに行くのは諦めよう。


 オペも終わり、1人で部屋で黙祷していた。

 あんな状態でやってきて間に合わなかった。

 もっと早く来てたら…。

 なぜ、真っ先にここに来させなかった?

 何故?


 家に帰る気もなかったし、何もしたくなかった。

 こういう日は、飲むに限る。だが、病院には酒は置いてない。

 行ってみようか。別に彼が居なくても良い。

 そう思ってたら、彼はまだ居た。

 そうか、彼は23時だったな。

 濃いめの、強めの酒を頼んだ。

 メニューにはない、私だけの酒だ。


 それはブルーを基調とした優しい雰囲気を持つ、カクテルだった。

 飲み終わった後の舌には、微かに甘味が残る。

 お代わりをした。

 私の表情に出てたのだろう、何か物足りなさが。

 今度は少し強めのカクテルを作ってくれた。

 飲み終わった後に、ピリッとした辛味が残る。

 うん、私にはコッチの方がいいな。

 そして、大好きなチョコレートを頼んだ。

 チョコを口に含みカクテルを飲む。

 落ち着いてきた私は、彼に愚痴っていた。

 「オペで…、死なせてしまった」と。

 もちろん、何らかの返事を期待してたわけではない。


 すると、彼は答えてきた。

 「どの様な状態で運ばれたのかは分かりませんが、オペしてる先生のせいではないですよ」

 そうだろうか?

 人命を尊ぶ仕事をしてる医者としては、ありきたりな言葉を返された。

 でも、彼は医者ではない。バイトで、この店で働いてる若者だ。

 でも、今だけは…、この時だけは、彼の酒に癒されたかった。


 結局、5杯もお代りしてしまった。

 ほろ酔い気分でマンションに帰宅したのは深夜1時過ぎだった。






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