3.「えっ、頑張ればできますよ?」
翌日、商人組合の館に来たツカサは受付にて報酬をもらった後、館の出入り口に立ち、館の前に集まっていた領兵・傭兵の一団を眺めた。領兵が五十名ほど、傭兵が四十名ほど、他には有力商人の私兵と思われる一団の、合わせて百名ほどがいるようだった。
(これでタイルワームが二体とシールドワームで対応しきれるのかしら・・・?)
とりあえずライトを探すことにし、商人の私兵と思われる一団の中に、こざっぱりした格好の小太りのオジサンと、マテリアライザーと思われるフード付きの外套を着た者、腰の両側に片手剣を差した者らと共にいるライトを見つけた。ちょうどライトもツカサを見つけたようで、ツカサを手招きしながら、
「ツカサ! こちらが依頼主のアプリルの商人、ガレラデさんだ。ガレラデさん、昨日話した連れのツカサです。」
と紹介してくれた。
「初めまして。ただいま紹介にあずかりましたツカサと申します。マテリアライザーをしております。モンスター討伐の間、よろしくお願いしますわ。」
「アプリルに本拠を置く商人のガレラデです。若い身空で傭兵を、しかもマテリアライザーとは、さぞ腕が立つのでしょうな。しかもお美しい。どうですかな、この件が片付いたらご一緒に食事でも?」
互いの自己紹介の後、ガレラデは私を上から下まで眺めた後、好色さを前面に押し出しつつも、特にいやらしさを感じさせない風でツカサを誘う。するとライトが素早くツカサとガレラデの間に半身を入れ、半眼でガレラデをみつつ、
「これは俺のものです。あげませんよ?」
と宣言したが、
「お前のものではないっ!」
ツカサに後頭部にチョップをもらっていた。
「はっはっはっ、冗談ですよ。商人としてアプリル-エリクシル間の街道が安心して利用できないのでは商売になりません。」
ガレラデはそこまで話したところで声のトーンを落とし、
「と、言うのは建前で、目的は他にもあるのですがね。詳しくはライト君に聞いてください。」
ツカサとライトにだけ聞こえるように話した後は元のトーンに戻し、
「私はもちろん討伐には付き合いません。此度はよろしくお願いしますよ。」
ライトの肩をたたきながら去っていった。
ツカサがライトに詳しい話を聞こうとしたところ、ガレラデと一緒にいたフードマテリアライザーと双剣の二人が近づいてきた。フードを後ろに下ろしながら、
「俺はグフ、マテリアライザーだ。こっちはザク、剣士だ。」
と軽い自己紹介ののち、
「タイルワームを倒した後、砂漠に入り巣に向かう。そこからがメインの仕事だ。」
「深いところまで行くの? 砂漠装備は必要?」
これがガレラデが言っていた他の目的というモノか、と考えつつツカサは問いかけたが、
「街道から徒歩で二時間程度だ。ソコは砂漠じゃない。討伐後に勝手に街に戻るなよ。」
と言い残し離れていった。ツカサはすぐに問いかける。
(カレン、場所はわかる?)
(『街道・砂漠・徒歩二時間・砂漠ではない、それらから推測しますと、唯一岩山となっている箇所がヒットします。そこのことかと。』)
(ありがと、じゃ。・・・せっかく”外殻vs
時間になったのか、討伐隊として集まった者らが移動し始めたので着いていくと、外門を出たところに馬車が二十台ほど待機していた。討伐が想定されている場所までは馬車を使って移動するようだ。ただいろいろなところからかき集めたらしく大小さまざまな馬車が混ざっているようだった。
どうやら商人組合の案内人が来ていたようで、順番に馬車に割り振っている。待っていればいずれどれかの馬車に乗ることになるのだろうと思っていたが、ザクという剣士が近づいてきて、
「・・・専用の馬車がある。・・・こい。」
と案内してくれた先には、他のかき集められた荷物を運ぶことを前提にした馬車とは違い、明らかに領主・役人や有力商人といった金持ちが利用するであろう華美な装飾が施された高級そうな馬車が一台。御者とグフが話しており、ザクはすたすたと乗り込んでいき、話を終えたグフも乗っていった。ツカサとライトは討伐隊の白い目を一身に受けながら、できるだけ平然とした顔を取り繕いながら乗るのだった。
見るからに無口そうな剣士ザクはともかく、フードマテリアライザーのグフも一切口を開こうとしなかったため、ツカサもライトも会話するのが憚られ目的地まで馬車内は無言で通したのだが、目的地に着いて降りた後、ツカサはライトに少し離れた場所に引っ張られ、
「あ゛ー空気重かった、なんか話してくれよ!?」
「そんなこと言っても特に話すことないし? 街出てるわけだから気を抜くわけにもいかないし?」
「お前のウィットに富んだ巧みなトークで場を盛り上げくれれば良かったのに!」
「相手によるわよ。あの二人じゃ乗ってこないだろうし、こちらでだけ話してても変なことを口走って突っ込まれるのもめんどくさいし。・・・大体”ウィットに富んだ巧みなトーク”って何よ?」
「キレッキレの突っ込みとそこから発展していくお前の話術だよ。」
(私の会話をどう認識しているのだろう、こ奴は・・・)
無言の移動時間は軽いライトにはかなりの苦行だったようだ。
他のメンバーも馬車からすべて降り、商人組合の案内人が案内を始めている。
「タイルワームが現れる場所はこの先徒歩でしばらく進んだところとなっています。馬車はこの場で待機しますので、討伐に参加される方は私の後に続いてください。」
馬車が襲われる可能性があるため、だいぶ手前で討伐隊を下ろしたのだ。
ぞろぞろと歩く討伐隊。三十分ほど歩いたところで、砂漠と街道に巨大なものが這いずった跡がいくつか見受けられた時、
「この地点が数回タイルワームが発見された場所となります。いつ現れるかはわかりません。現れ次第、討伐開始となります。私は馬車の待機場所に戻り皆様のお帰りを待ちます。ご健闘を祈ります。」
と言い残して商人組合の案内人は去っていった。
残った討伐隊は、領兵はまとまって、傭兵は三々五々ばらばらに戦いの準備を進めている。
領兵は全員同じで、大型の盾と、盾を持つ側の腰に片手剣を吊るし、盾と反対の手にはハルバードを持つという、割と重装備なスタイルだ。攻撃に耐え力押しで進んでいく前提だろう。それに比べ傭兵たちは、当たり前だが皆装備はまちまちだった。盾を持つものはあまりおらず、片手剣、両手剣、槍、メイス、弓などを持っている。ヒットアンドアウェイで戦うことが予想される。
(タイルワームは巨体を生かし身体全体と、大きな牙を持つ口で攻撃を仕掛けてくる。大人数が集まっても攻撃手筈の確認や戦術についての会話もない。これでは戦いになっても連携もあったものではないわね。)
とツカサが考えていたところ、領兵の隊長と思しき者が、
「皆そのまま聞けーい。私は領軍第一部隊の隊長を務めるトレイルだ。領兵と傭兵で連携しタイルワームを撃破しなくてはならん。かといって細かな連携はできぬであろう。よって、我々領兵が正面にて攻撃を受け止める。傭兵たちは両側にて、隙をついて攻撃して欲しい。あとマテリアライザーが何人かいると聞いている。我々領兵の後ろから中・遠距離攻撃を仕掛けてほしい。異論或る者はいるか?」
と大きな声で言ってきた。
(一応考えるものはいたのか。取れる手段としてはそのあたりが妥当でしょうね。しかし・・・)
ツカサが手を挙げ発言を求め、
「今の対応はタイルワームが一体の時の話ではないでしょうか? 二体以上同時に現れた場合は如何するのでしょうか?」
と疑問を投げかけた。しかし周りの反応は緩いものだった。
「ははは、随分と慎重な奴がいるな、さすがは女といったところか。考えすぎだろう。」
「タイルワームが複数いたら、すでにモンスターハザードが起きて、アプリルかエリクシルのどちらかが攻撃されてるって。」
「一体だろうが二体だろうがまとめて片付けるのみよ、がっはっは!」
討伐隊は人数が人数であり、さらに傭兵は腕に自信のあるものが集まっているためか、楽勝ムードが蔓延している。さすがに領兵は厳しく訓練されているためか軽口は挟まないが、苦笑しているものが多い。
(まったく男って・・・。どうして一度痛い目見ないとわからないのかしら。)
横にいたライトが
「俺のツカサになんて口をききやがる。せっかく心配してくれたというのに。良し、ちょっと
と、剣呑なことを言い出したので、
「お前のものではないと言うにっ! というかヤメて、あとが大変なんだから。」
と何とか引き留める。そんなんことをしていると先の隊長が
「まぁ心配なのはわからんでもない。もし複数現れたときは、個別に相手をする方策を練ろうではないか、臨機応変にとなるがな。」
と言ってきて、話は終わりとなった。複数存在することを知っているがそれを言うわけにもいかないツカサは、
(いざとなったら私が一体相手すればいいのよ。”外殻vs
と考え、一転し機嫌良くなったのであった。
さて、討伐隊はタイルワームの出現を待ったのだが、なかなか現れない。到着したのが昼前で、各自昼食を取っていたが、ダラけムードがはびこってきていた。中には「現れたら起こしてくれ。」という、ツワモノ迄現れたぐらいだ。
傭兵にはエルフの吟遊詩人が混じっていたようで、武器と共に持ってきていたであろうリュート片手に謡いだしていた。
♪我らを創りしモノたちは 我らを導きしモノたちは 或る時我らを残して消え去った 或る時空に舞い上がり消え去った
♪夜空が夜空である頃は 我らは生かされているだけだった
♪夜空が光が満ちし時 夜空に陽が現れし時 我らは剣を盾を持ち 生きることを始めた
・・・
謡い始めた時は、
(武器のほかにリュートまで持ってきてるなんて、戦闘には邪魔以外の何物でもないでしょうに。何考えているのかしらあの吟遊詩人は・・・)
と考えていたが、詩を聴いていたツカサは頭を抱えた。
(ちょっとカレン、情報統制はどうなっているのよ。割と当たってるじゃない・・・)
(『”人の口に戸は立てられぬという”ことわざもあるように、全ては封鎖しきれないものです。遠い過去の話ということで、聞き流されている様子ですし、放置で良いとしています。』)
(聞いていたのと違うわね。ホントに良いの?)
(『では今から、その詩を知っていると思われる吟遊詩人と、それを聞いたと思われる者を全て殲滅しますか? 人口が激減しかねませんが・・・?』)
(ソレやるとここにいるモノが全て対象になるでしょ!? 嫌よ、たった一人の生き残りを演じるなんて。)
サラッと脅されたツカサは、返す刀で流しつつ
(まぁ良いわ。確かに聞き流されているだけでしょうし、深く考える者いないでしょうし。いたとしても確認する術は・・・ないわよね?)
(『ないと思います・・・よ?』)
(なんで貴方が疑問形なのよ!?)
(『冗談です。ありえません。』)
(なんか変な方に成長してない!? もうっ、良いわこの話は終わりっ。じゃ!)
と話を打ち切った。
陽が傾き今日の戦いはないかと思われた頃、振動と共にソレは現れた。
領兵も傭兵も慣れたもの、ダラケた雰囲気は一瞬で消え去り、戦うモノたちの顔に変わった。・・・が、すぐに驚愕の顔になった。
「普通よりデカいのが二体だと!? 誰ださっきフラグぶったてた奴は!!!」
一斉にツカサの方を見る領兵&傭兵たち。
「ちょっと、私のせいだって言うの!? 可能性の話をしただけでしょ!!!」
(皆で一斉にこっち見るなんて、意外と連携取れてるじゃない・・・。)
百名からの視線に耐えかねたわけではないが、先ほど考えたことを思い出したツカサは、軽い怒りと楽しみを内包した笑みを浮かべ
「・・・わかりました。片方私が相手をします。誰も邪魔しないように! 良いわね!!!」
と宣言すると、領兵の隊長が仲裁するつもりで
「おいおい、奴らも本気じゃないと思うぞ? 売り言葉に買い言葉で無理をせんでも・・・。」
と救いの手を差し伸べたが、
「貴方、隊長さんだったわね? 片方はお任せしますので、先に倒してくださいね? 私一人より後に、なんてことになったら・・・指さして笑って差し上げますわよ?」
取り付く島もなし。ついには
「では片方を引き離します。皆さん、右のをもらっていきますわ。左のを相手して差し上げてください。くれぐれも邪魔しないように!」
と言うやいなや
「マテリアライゼーション!」
「アセンブリー」×5
「コンバージョン」×5
「
五つ同時にマテリアライズを放ち、強引にタイルワームを引き離した。それを見た傭兵の中のマテリアライザーらが
「「「複数同時だと!?」」」
驚愕の顔でツカサを見る。ツカサはというと真顔で軽く首を傾げ
「えっ、頑張ればできますよ?」
「「「できねぇよ!」」」
そのやり取りを腕を組んで眺めていたグフが笑い出し
「クックックッ、確かにできなくはないな。できないというやつは精進が足りんのだろう。そら・・・」
と言いながら
「マテリアライゼーション!」
「アセンブリー」×5
「コンバージョン」×5
「
左のタイルワームに実践。ツカサは冷たい微笑と共に
「ね、できるでしょう? 頑張りなさい。」
と言い残し、自分の持ち場である右のタイルワームのもとへと駆けていくのだった。
タイルワーム討伐において結局、ツカサとグフ以外のマテリアライザー達は役に立つことはなかった・・・。
ツカサに
「おい野郎ども、女にあそこまで言われちゃ捨て置けねぇ。絶対に先に倒すぞ!」
「「「おぉー!」」」
先ほど立てた戦術などなかったかの如く全員がアタッカーとして攻撃を行い、力づくで硬いタイルの外装を割り、またタイルの隙間をこじ開けダメージを蓄積させ、領兵&傭兵が一段となって史上最短でタイルワームを撃破したのだった。
ザクは勢いに乗ってか一緒になって参加していたが、グフは少し引いたところで
そのころツカサは怒りなどすでに忘れ、楽しそうに
「ちょっと強めの、
「あらやっぱり硬いわね、レベルアップ
「凹んだかしら? パワーアップ
「惜しいわね、グレードアップ
「あと少し? ハイパー
「もう少し? ウルトラ
「えーい全力の、
わけのわからない修飾を付けた
ちなみに、二人で行動する限りツカサを守るため、ツカサの近くに控えることにしているライトは手持無沙汰だった。
領兵&傭兵達は、先に倒した余裕から地面に身を投げ出しながらツカサの戦いぶりを眺めていたが、楽しそうにタイルワームを弄ぶ(彼らにはそう見えた)姿をみて、誰からともなく「冷笑の魔女」と呼ぶようになったと言う。
二体のタイルワームを撃破し、既に夜となっており、もしかして三体目が・・・と警戒していた討伐隊であったが、夜が明けるまで何も起きなかった。そこまで待ってようやく、討伐は完了したものとして達成が宣言された。
討伐は完了したため、馬車が待機しているところまで戻ることになったが、傭兵達はタイルワームを解体し始めた。タイルワームの外装は硬く、盾や鎧のパーツになりうるのだ。解体されたそばから外装を持って移動し始めた。一人数枚の割り当てがあるのだが、重量があるた、一人一枚となった。準備に費やした費用はあれど達成報酬でもともと黒になることが想定されており、一枚でも十分なのだ。さらには領兵までもがもらっていっていた。
依頼は半分を終えたところであり、一緒に戻るわけにはいかない。疲れた身体を引きずる様に討伐隊の面々が引き揚げ始めたころ、グフ、ザク、ツカサ、ライトら四人とガレラデの私兵たち数名は固まって皆が移動しきるのを待っていた。
討伐隊の皆を戻るよう指示していた隊長が、動こうとしないツカサたちを見つけ話しかけてきた。
「討伐は完了したぞ、戻らないのか?」
「私たちはまだ別の依頼が残っているの。だから一緒には戻らないわ。私たちの乗ってきた一番派手な馬車ともう一台くらいは残しておいてね。」
「依頼の発起人からの直依頼か? 了解した。ではな、気を付けるんだぞ。」
「隊長さんたちもね。遠足は家に帰るまでが遠足なんだから、街に帰り着くまで気を抜かないでね。」
「アホぅ! わっはっはっ、ではな!」
と言い残し、討伐隊最後のメンバーと共に馬車のほうに移動していった。
「では我々は行動を開始する。」
グフが宣言し、行動を開始した。
(結局シールドワームは現れなかった。これから向かう巣にいるということ?)
歩きながらツカサは考えていたのだった。
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