どうしてこうなった
「師匠…」
「ん?その呼び方…しかし、私は君のことは知らないし…」
そう言ってヒイラは首を傾げる。
そんなヒイラに雄二は一気に距離を詰めると格闘スキル【
炎で出来た無数の拳がヒイラ目掛けて放たれるが、ヒイラは何事も無いかのように全て撫でるように軌道を逸らすと、炎の拳は全て雄二に跳ね返っていく。
雄二先生はそんな炎の拳を、自身の拳で霧散させていく。
「チッ、めんどくせえ奴だな」
「ははは、女性の誘い方が下手だなあ。もっと優しくするように習わなかった?」
そう言って笑うヒイラの腕は薄いオレンジのオーラを纏っていた。
炎系統最終スキル【
このスキルは、火属性の攻撃を完全に反射するというスキルで、ヒイラが1人でギルドを潰した際に活躍したと言われている。
「これならどう、だっ!」
雄二が軽快にステップを踏むと、雄二の姿がブレて5人に分身する。
脚術スキル【
とはいえ、ゲームなのでメインで動かしているキャラ以外の分身はAI操作なのだが。
雄二は分身と共に五方から同時に攻め、一糸乱れぬ連撃とはまさにこの事だろうと言える動きだった。
しかし_
「良い動きだね。だけど、私を倒すのにはちょっと足りないかな」
ヒイラが地面を爪先で二度と叩くと、地が割れ、マグマがまるで触手のように蠢き雄二の分身を刺し貫いて破壊し、雄二を砦の壁に叩きつける。
口から血を吐き出した雄二はグッタリとそのまま動かなくなった。
「安心して、気絶してるだけだよ」
心配になった一葉が駆け出そうとするとヒイラがそう言う。
その言葉にホッとした一葉だったが、直ぐに気を引き締め直すとヒイラを睨む。
「で、なんの御用で?」
「いやいや、クノウノ地下迷宮で変異体が発生したって聞いたからね。ちょっと様子見してみようかなーって」
そう笑うヒイラ、しかしその目は全く笑っておらず一葉の力量を図っているようにも見えた。
「ああ、変異体…ゴブリンキングですか。あれだったら討伐しましたよ」
「へぇ…誰がやったんだい?白い人?黒い人?それともヒゲの人?」
「僕ですよ」
「…いやいや、面白い冗談だなー。私はなんとなーく相手のレベルがわかるんだよね。君じゃ無理だよ、レベルが足りてない」
一葉はそんなヒイラの言葉に溜息を吐いて髪をかきあげる。
「師匠、いつも言ってるでしょ?強さの基準はレベルじゃない。大事なのは知識と経験だって」
「そのセリフ…まさか…!」
ヒイラが何かに気がついたような顔をすると一葉はニヤリと意地悪く笑う。
「改めてお久しぶりです。師匠、イチヨウです」
「…まさか、君とここで会うとは思ってなかった。だとしたら、君は消さなきゃならない。世界の為に、死んでくれ!」
そう言ってヒイラは火魔法スキル【バーストフレア】を放つ。
一葉目掛けて広範囲に広がった炎が迫る、しかし一葉は、4歩右に動いただけで後は何もせず、不敵に笑っていた。
当然炎は一葉を呑み込んでしまう、誰が見ても次の瞬間一葉は黒焦げになっている未来しか想像できなかった。
だが、現実は違った。
一葉はほぼ無傷でその場に立っていたのだ、服の端が焦げているのでダメージが通っていないわけではないのだが、それでも被害は皆無と言っても過言ではないだろう。
「なっ!確かにスキルは当たったはず!」
「スキル【バーストフレア】」
動揺するヒイラに一葉はそう言いながら近づく。
「スキルの効果範囲は左右7マスと広い。だけど、ほんとに高火力なのは3マス目まで」
「っ!うるさい!【ドラゴバスター】!」
そう言ってヒイラが剣を天に掲げると、剣が巨大な緑のオーラを放出する。
その剣を一葉目掛けて振り下ろすが、一葉はそんな竜すらも一撃で屠る一撃を僅かに身体を逸らすだけで回避行動を起こさなかった。
大地が砕ける音と共に粉塵が舞う。
圧倒的なオーラで叩き潰されたかに見えた一葉だったが、まったくの無傷で悠然と粉塵を払って進んできた。
「【ドラゴバスター】ℹ︎O内でも屈指の威力を誇るスキル。ただし、エフェクトの割に範囲が狭く、対個人ではあまり使い物にはならない」
「くそっ!【グランメギ_」
「速さが足りませんよ」
そう呟いた一葉はスキル【諸刃の砦の影】を発動。
全身から血液を噴出した一葉は神速でヒイラの懐に潜り込むと、オリジナルスキル【起死改生】を放つ。
見事にヒイラの顎を捉えた一撃、そんな攻撃を食らったヒイラのスキルは中断され、ヒイラ自身も仰向けに倒れた。
「くっ…!だけどこの程度で私を倒せると_」
「いやいや、倒せますよ。今、動けないでしょ?師匠」
オリジナルスキル【起死改生】、残り体力が低ければ低いほど相手をスタンさせる確率と時間が高くなる、というスキルだ。
悔しそうに睨みつけるヒイラの視線を受けながら、ヘラリとした顔で近づく一葉。
覗き込むような形で一葉が停止すると、ヒイラは目を閉じる。
「さあ、殺せ。私の負けだよ」
「58回目」
「え?」
何のことかわからない、と言った表情のヒイラにニコリと一葉は笑いかける。
「これで師匠の負け数は58回目ですね。僕に負けるのなんていつものことでしょ。それなのに殺せとか馬鹿なんですか?」
「なっ…!私の方が歳上なのに何で口の聞き方するんだ君は!そもそも師匠を敬おうっていう気持ちはないのか!?」
「だって敬う要素ないじゃないですか。皆無ですよ。てか、なんで僕があげたオリジナル使わなかったんですか?」
「それは…」
『その質問に関しては我が答えよう』
一葉の質問に答え辛そうにしていたヒイラに被せるようにして、そんな声が聞こえてくる。
一葉が周囲を見渡していると、ヒイラの影からオレンジ色の煙が立ち上ると、子供の様なサイズの人型を形作る。
次の瞬間、その煙が晴れるとそこにはオレンジの髪に褐色の肌、真っ赤な勝気な瞳を持った小さな男の子が立っていた。
「ふむ、初めまして、だな。異世界人よ、我は暁の魔王リエル。この娘と契約した由緒正しき魔王だ。よろしく頼むぞ、魔王代理よ」
一葉がよくわからない状況に固まっていると、リエルと名乗った男の子は偉そうに腕組みをしてそう言った。
一葉が助けを求める様にヒイラを見ると、ヒイラはスタンから回復したようで
「それで、どうして師匠はオリジナルを使わなかったのか教えてもらえる?」
「ふむ…口の利き方がなっていないが、まあよかろう。鍵の力…お主らがオリジナルスキルと呼ぶ力のことだが…この娘はそれを奪われているのだよ」
「…誰に?」
「その説明だが…先ずはお主の契約対象にあってもらわねばならん。そして、お主の契約対象だが…おい!出てこい!」
リエルがそう叫ぶと、一葉の影から赤色の煙が立ち上るとそこには赤い髪で真っ白な肌、整った容姿の金眼の中学生くらいの少女が控えめに立っていた。
突然の事に頭が混乱している一葉に赤い髪の少女は頭を下げる。
「は、初めまして!えっと、赤月の魔王テナです。これからよろしくお願いします?」
そう言って首を傾げるテナを見た一葉は天に向かって叫ぶ。
「どうしてこうなった!!」
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