第4章:アルブ戦争

24, 火種

 護衛の休憩中、元仕事仲間のマリーと一緒に御飯を食べていた時だった。


「近頃アルブとイルルで貴族達の諍いが起こってるらしいわよ」

 彼女が噂話として話し出した。


「へぇ? なにそれ?」

「アルブ南部とイルル東部ね。正しくは。アルブ南部の最高権威ギロディス侯爵がイルルに手を出したらしいのよね」

「……ギロ? あの髭のおっさん?」

「そうそう。それで、結構すったもんだになってるらしいわよ南部は」

「……南部、全部?」

「え?」

「サリーナ・マハリンも?」

「え、わ、わかんないけど。多分そうなんじゃないの? 一番イルルに近いし」

 マリーは首を傾げる。

「……その諍い、ひどいのか?」

「さぁ……?新聞には出てるだろうけど、なんせ私字読めないし、詳しく知らないなぁ」

「……ありがとう」

 立ち上がった。

「え、ちょっと、スザンナ!? 注文したパイまだ来てないわよ?」


 そんなことはどうでもいい。私は走り出して、一番近くの新聞屋に飛び込んだ。


「おじさんっ今日の新聞は!?」

「おうおう、どうしたんだ慌てて。なくならねぇよ。急がなくても」

 新聞屋の主人は新聞を手に取って言った。

「ありがとう」

 コインを置き、すぐに店を出て新聞を開く。大丈夫。文字は読めるほうだ。


「アルブ……アルブ……」

 字を追う。

「! これだ」


 必死に文字を読む。字を読むことは何とかできるけれど読むのに時間はかかる。

 そこには、マリーの言うとおり、貴族間の諍いが起きていること。戦線はアルブとイルルの境目で、今か今かと火種を燻らせていることが書いてあった。



「そわそわしてるな。スザンナ。どうしたんだ?」

 午後。仕事に戻ったら同じ警備仲間のビドーが問いかけてきた。

「や、べつにそわそわしてるわけじゃないんだ」

「してるぞ?」

 目ざとい奴だ。取り繕うのはあきらめた。


「な、ビドー、アルブ南部の諍いのこと知ってるか?」

「あぁ、貴族たちの権力争いだろ」

「あれってひどいのか? 新聞じゃ、よくわからなかったんだ」

「俺も知らないよ。でも多分、それなりにひどくなってるんじゃないかな」

「どうして?」

「どうしてって、彼らの権力争いは爆発こそ今の今までしなかったけれど、五年くらい前から続いてる。ギロディス侯爵とカザンブール公爵を中心にね」

「五年」

 長い。

「それが爆発したんだ。南部とはいえアルブは武民の地方だからね。剣を取るだろう。戦いが始まってしまえばどっちかが倒れるまで止まるもんじゃないよ」

「……どっちかが」

「アルブ南部の貴族たちも巻き込んで、戦争が大きなものになるのは時間の問題だろうね」


 ざわめいた。心臓が。

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