13, 綺麗
「今日襲ってきたやつらだけどさ」
服を着替えながら切り出す。カーテン越しのフェレスにむけて。
「……もしかして伯爵の家、誰かに狙われてるのか?」
「狙われてる……?」
「んー。実は、私伯爵家の護衛だってんで他にも二回襲われたんだ」
「どこで?」
「ブロイニュ」
沈黙。
「や、別に思い当たる節がないならいいんだけどさ。ただお金持ちだから狙われただけかもしれない」
「アングランドファウスト家として狙われたのであれば、考えられるのは政敵の貴族になるが、今日倒れてた連中はなんの紋章も掲げてなかったな……」
「匿名?」
「それかただの野盗だ」
「匿名だったら、性質悪いな」
「まったくだ」
「喧嘩売るならさ、堂々と名乗ればいいのにっと」
着替えを終えて、しゃっとカーテンを開く。
「どうだ? サイズ、あってるか? ワンピースなんて初めてだから、着方が良くわかんなくってさ」
「…………あぁ」
「よかった」
微笑んだ。
「俺は嫌いだな」
「え? 似合わないか?」
「そういう誇りのない真似をする人間だ」
「……匿名希望で襲ってくる奴のこと?」
「あぁ。俺は、嫌いだ」
フェレスは彼らのことを軽蔑してるようだった。
夕餉。
フェレスと一緒に部屋に入ると、クシスが待っていた。
「綺麗ですね、スザンナ」
クシスが微笑んで褒めてくれた。
「あ、本当に? や、ビラビラの服しかなくってさ。一番動きやすそうなのを貰ったんだ。でもこの裾、多分後で切るっ」
「……そうですか」
クシスは笑ったが、あの時絶対呆れてた。
しかし、対照的な兄弟だなと思った。
クシスはにこにこと、嘘か本当かわかんないような笑顔を常に顔に貼り付けてる。一方でフェレスは決して微笑んだり笑ったりしない。
「なぁフェレス。いつまで此処にいるんだ?」
「一ヵ月半ほどだ」
「あ、そうなのか? じゃあ、私はその頃にはバルガンにいるなぁ。思えば一年って結構長かったな。楽しみだ」
「祖父に会うのが楽しみ?」
「そりゃあもう。手合わせが楽しみ」
「母親は?」
「うん。元気だといいなっ」
「兄や弟も、バルガンに住んでるんだったか?」
「や、兄ちゃんはいないよ。もう。3年前に村を出て行ったから。多分どこかで働いてるんだろうな。時々お金もって帰ってくれる。弟も多分今年旅に出る年だからな。あえるかなっ。すれ違いかもな」
「そうか」
そこに食事が運ばれてきたので、たくさん、美味しくいただいた。
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