5, 夕餉

 夜、夕食に誘われた。私は喜んでついていった。


「…………なんで?」

 疑問。

「なんでこんなにたくさんあるんだっ?すっごいなっ!」

「黙って席についてくれ」

「ごめんごめんっ。ここ、フェレスの家?」

「家じゃないよ。泊めて貰っているだけだ」

「ピティみたいな?」

「あぁ。そんなところかな」

「ふーん」

 食事は美味しかった。だけど多すぎて食べ切れなかった。


「今まで何をしてたんだ?」

 フェレスが訊いた。

「いろいろ。旅をしてた。都にも行ったぞ」

「ずっと一人で?」

「うん。アルブのしきたりなんだ。女は別に義務じゃないんだけどな。本当は10歳で旅に出るんだけどさ。じいさんがやっと許してくれたんだ」

「……いくつだスザンナ」

「13っ。もうすぐ」

「大変じゃないのか?」

「大変だよ」

 笑った。

「だけどすごく良い経験になった。強くなった気がするし、いろんな人にも出会えた」


 旅を思い返す。たくさんの想い出が胸を埋めた。無意識に微笑んでしまう。思い出は胸を温める。


「それで? これからは?」

「もうすぐ、13だからな。一年たつだろ。だからアルブに帰るよ。じいさんと手合わせしたいんだ。じいさんには勝ったことないからな。腕相撲すらっ」

「父親には勝ったことあるのか?」

「父さんはいない」

 フェレスは不意に黙る。

「なに?」

「いや。……母親は?」

「いるよ。でも病気がちなんだ。や、でも母さんもアルブの女だからなぁ。強いぞーっ」

「へぇ」

「なぁ、フェレス。お前の父親は? 伯爵っ。強いのか?」

「強いかどうかは知らないな。でも、良い父親だと思うよ。こうやって、勉強させてくれる」

「そっか」

 笑った。フェレスの父親を想像して、名前しか知らない伯爵を想像して微笑んだ。

 だけどフェレスは笑わなかった。

「母さんは?」

「母さんは普通。穏やかだけど、時々大丈夫かなって思う」

「つまり?」

「抜けすぎ」

「あははっ!」


 運ばれてくる料理に追加。フルーツだ。


「兄弟は? 私は兄と弟がいるんだ」

「へぇ。だからそんな喋り方なんだな」

「あぁ、これ? あはは、そうだな。育ての親はじいさんみたいなもんだからなっ。これ、じいさんの喋り方らしいぞ」

「もう少し女らしい喋り方はできないのか?」

「できるできる。それで? フェレスには兄弟がいるのかしら?」

「……気持ち悪い」

「なんて?」

「なんでもない。いるよ。弟が一人」

「へーっ。フェレス似?」

「父親似。俺は母親似」

「抜けすぎってこと?」

「違う」

 面白かった。フェレスと話すのは、何だかとても楽しかった。

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