11―59
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【テレフォン】→『アデリーナ』
『組織』のアジトへ向かう途中、僕は【テレフォン】の魔術を起動した。
「もしもし、アデリーナ?」
「……あっ、ご主人様! 何か御用ですか?」
「ソフィアに伝言を頼みたいんだけど、『組合』へ行ってくれるかな?」
「はい。何とお伝えすればよろしいですか?」
「これから、僕たちは『組織』のアジトへ向かうから、後始末をよろしくと伝えて。あっ、『プリティ・キャット』の近くにある死体は、僕たちを襲った『組織』の構成員だから、それも伝えておいて」
「畏まりました。では、急いで行って参りますわ」
「そんなに急がなくてもいいよ」
「そうなのですか?」
「うん。普通に歩いて行ってきて」
「分かりました」
急かさなかったのは、『組合』の者たちが来る前に引き上げたかったからだ。
街中で戦闘を行うわけだし、介入してくる『組合』の戦闘部隊と揉めたら不味いだろう。
元の世界で言えば警察のような治安維持部隊なので、戦闘行為自体を問題にするかもしれない。
問題になったとしてもソフィアが取りなしてくれるとは思うが、そういう状態にならないようにするのが得策だろう。
「じゃあ、通信終わり」
「はい、ご主人様」
僕は、【テレフォン】の魔術をオフにした。
「坊や、誰と話していたんだ?」
「貴様!? 主殿に対してその口の利き方は何じゃ!?」
「ヒィッ!? すっ、すいやせん!」
「別にいいですよ。アルベルトさんのほうが僕よりも年上ですし。それにカチューシャさんも最初の頃は僕のことを『坊や』って、呼んでいたじゃないですか」
「そうじゃったのぅ……では、罰として主殿の気が済むまで妾の身体にたっぷりとおしおきをしてくだされ……」
カチューシャは、淫蕩な笑みを浮かべてそう言った。
「べっ、別にいいです……」
「ふふっ、主殿の気が変わったらいつでも実行してくだされ……」
「……あの……
アルベルトがカチューシャにそう訊いた。
カチューシャのことを
「……無粋な奴じゃのぅ……まぁ、主殿のご命令とあらば仕方あるまい」
「ふぅ……それで……?」
アルベルトは僕に向かってそう促した。
先ほどの質問に答えて欲しいようだ。
「ああ、『ローマの街』に居る使い魔の一人に指示を出していたんです」
「使い魔……? それに離れた場所に居るヤツと話す魔法なんざ聞いたことがねぇな……」
「僕が作った魔法ですから」
「新しい魔法を作るとか凄ぇな……で、使い魔ってのは何だ?」
「召喚魔法で下僕になった人やモンスターです」
「オイオイ、そんなことが出来んのかよ?」
「この中では、カチューシャさんがそうですよ」
「うむ。妾は主殿の奴隷じゃ」
「マジかよ……」
アルベルトは、目を見開いて驚いている。
「グズグズしてないで、早く案内しなさい!」
アリシアがアルベルトにそう言った。
「ヘイヘイ、分かりましたよ」
アルベルトは、そう言って肩をすくめ、再び先頭を歩き始めた――。
◇ ◇ ◇
「アジトは、この先の角を左に曲がって暫く行ったところにある」
アルベルトは、立ち止まり真剣な表情でそう言った。
ここは、『プリティ・キャット』から一時間くらい西へ歩いたところにある廃墟のような建物が並ぶ場所だった。
地下迷宮への入り口があるところや『プリティ・キャット』の周囲にも廃墟が並んでいたが、こんなにゴミゴミしてはいなかった。
「そこの角を曲がってどれくらいなの?」
アリシアがアルベルトにそう尋ねた。
「あまり近づくと見張りに気付かれるからな。ここからだと歩いて5分はかかるぜ」
ふと、クリスティーナが僕の前にやってきた。
今は、僕が贈ったアダマンタイトの全身鎧を装備していない。
「ユーイチ、『組織』の人間に情けを掛けちゃ駄目よ」
「え? それはどういう……?」
「全員殺せってことだよ。な?」
「カーラは、言い方が直接的過ぎますわ」
「回りくどい言い方したって同じことだろ?」
『物騒な話だなぁ……』
僕は、平和主義者ではないので、自分達を殺そうと攻撃してくる者に対して情けを掛けようとは思わない。
しかし、戦意のない者や命乞いをする者まで殺せるかと言えば、それは無理だろう。
アルベルトにしたって、たまたま『組織』を抜けていただけで、これから戦う連中と立場はそう変わらないはずだ。
「でも、アルベルトさんみたいに命乞いをする人が居るかもしれませんよ?」
「そんなポーズに騙されちゃ駄目よ」
アリシアがそう言った。
「でも、アルベルトさんを殺していないのに、他の人は殺すというのは、筋が通らないのでは?」
「そうね。でも、一旦殺しておきましょう」
クリスティーナが口を挟んだ。
「後で蘇生するってこと?」
「アルベルトに判断させましょう」
「でも、蘇生猶予時間内に間に合うかな?」
「ユーイチ。『組織』の人間は、この街を食い物にしている犯罪者たちなのよ?」
「そうだぜ。皆殺しにしておいたほうがいいと思うぜ?」
「もし、見逃した男が後で罪もない人を殺したらどうしますか?」
「うーん、そうなったら責任を感じちゃうだろうね。ところで、『組織』って男しか居ないの?」
レティシアが男と言っていたのが気になって質問してみた。
「どうでしょう? でも、殆どが男だと思いますわよ」
「そうだな。女は、クレアだけだったぜ」
「クレアは、『組織』の人間じゃないわ!」
アリシアが強く否定した。
「脅されて協力させられてるみたいだったがな……」
「その何とかいう
カーラが小指を立ててそう言った。
『おっさんみたいだな……でも、何で小指を立てるジェスチャーが異世界にもあるんだ?』
起源は知らないが、日本以外で通用するとは思えない。
いや、日本でもこんなジェスチャーする人は、もう年配者にも居ないだろう。
僕の場合は、古い漫画で読んだことがあるから知っていただけだ。
「ああ、コンラッドの奴は飽きっぽいからな。売り飛ばす女には手をつけるが、手元には残さないぜ」
「酷い男ですわね」
「ホントですわ」
「『組織』の首領らしいクズね」
『組織』が人身売買を行っているという話は聞いていたが、実際に『組織』に居た人間から聞くと激しい怒りが沸き起こった。
「……女性を……何処に……売っているんですか?」
「ひいっ!? お、怒らないでくれよ……」
アルベルトが怯えた表情でそう言った。
どうやら表情に出ていたようだ。
「主殿の質問に答えぬか!」
「はっ、はい! 女たちは、商家を通じて他の街へ連れて行かれますっ!」
カチューシャに叱責され、アルベルトがそう答えた。
心なしか言葉遣いが丁寧になっている。
「他の街?」
「聞いた話では、『ナポリの街』や『チュニスの街』へ連れて行かれてるようですぜ」
「そうですか……ありがとう……」
「い、いえ……」
――ポン……
クリスティーナが僕の頭の上に右手を置いた。
そして、軽く頭を撫でる。
「ユーイチ……あなたが気に病むことはないのよ……」
「でも……」
「そうですわ」
「そうだぜ。『組織』を潰したら、売られる女は居なくなるしよ」
「ユーイチ、あたしたちで他の街の『組織』も潰して、売られた女たちを助けに行きましょう」
アリシアがそう言った。
「それは駄目だ! 危険だよ!」
僕やカチューシャはともかく、他のパーティメンバーたちにはまだ危険だろう。
『組織』は、ダークエルフを味方に付けているのだ。
「あなたが居れば大丈夫よ」
自信に満ちた表情でアリシアがそう答えた。
「…………」
確信に満ちたアリシアの態度に僕は反論できなかった。
おそらく、アリシアはオフェーリアや他の使い魔を戦力として考えているのだろう。
確かにパーティメンバーたちが蘇生猶予状態になったとしても僕たちが何度でも蘇生することは可能だ。
「ユーイチ、そんな先のことより、これからのことを相談しましょう」
クリスティーナがそう言った。
「……分かった。それで、これからどうするの?」
「それは、
どうやら彼女は、僕にこの先の作戦を提示してほしいようだ。
『僕は、この世界のことも、この街のこともよく知らないんだけどな……』
「アルベルトさん、『組織』に【トゥルーサイト】が使える人はどれくらい居ますか?」
「そうだなぁ……見張り役の魔術師が3人とクレアに貼り付いてるグレンという魔術師、それにコンラッドだな」
「コンラッドも魔力系魔術師なんですか?」
「いや、【トゥルーサイト】の魔術を封じた指輪を持ってるのさ」
「なるほど……」
コンラッドとかいう『組織』のリーダーは、マジックアイテムを使っているようだ。
【トゥルーサイト】を封じた指輪ということは、【工房】で作成したとしても材料費だけで2万ゴールド以上かかるだろう。
そんなマジックアイテムを所持しているということは、冒険者としての実力もかなりのものだと思ったほうがいい。
「じゃあ、僕とカチューシャさんとアリシアとアルベルトさんは、【インビジブル】で姿を消して別行動したらどうかな?」
「なるほど……
「それは妙案だな……」
「えっ……?」
クリスティーナとアルベルトが感心したようにそう言ったが、僕には何のことか分からなかった。
「ユーイチたちが姿を見せていては、『組織』の奴等が逃げてしまうものね。流石だわ。ユーイチ……」
アリシアが解説してくれたので、僕にもようやく事情が呑み込めた。
相手の強さが分かるくらいの冒険者の前に僕やカチューシャが出て行けば、相手はビビって逃げてしまうということだろう。
カチューシャだったら、先ほどのように背後から魔法で容赦なく攻撃するだろうが、僕には逃げる敵を背後から攻撃することはできないと思う。
「女の冒険者ばかりだったら、『組織』の野郎共も捕まえようと
「そんな男達に囲まれるのは嫌ですわ……」
心底嫌そうにレティシアがそう言った。
「あたくし、
自身の豊満な身体を抱くようなポーズをしながらグレースがそう言った。何故か嬉しそうだ。
「捕まりたいの?」
「嫌ですわ。ユーイチくんったら、意地悪なことを言わないでくださいな」
グレースが豊満な身体をくねらせる。
そんなグレースを呆れたように見ながら、アリシアが僕の前に来た。
「クリスたちを囮にして、あたしたちは、クレアを助けに行きましょう」
「分かった。じゃあ、カチューシャさんは、クリスたちの近くで支援して」
「妾は、主殿のお側を離れぬよ」
「でも、クリスたちが危険だよ?」
クリスティーナのパーティメンバーは、僕たちがPLしたこともあって、かなり高レベルになってはいるが、今回のような多勢に無勢のシチュエーションではまだ心配だ。エルフのレリアを戦力に入れても、ヒーラーのグレースがやられた時点で詰むだろう。
相手は、モンスターではない。狡猾な人間なのだ。
真っ先に回復役であるグレースを狙うと思われる。
「護衛であれば、配下の奴隷に命じられればよかろう?」
「でも……パーティメンバー以外の者を使うのは、どうなんだろう……?」
「ユーイチ、これは課外授業ではありませんわよ」
「そうだぜ、自分で制限を設けてどうすんだ?」
僕は、このパーティで行動しているときに他の使い魔を召喚して使役することに抵抗があった。
おそらく、ズルしているところを知り合いに見られるようなばつの悪さを感じるからだろう。
「そうだね……」
『ルート・ドライアード召喚』
白い光に包まれて甲冑姿のルート・ドライアードが現れた。
「主殿、ご命令を……」
ルート・ドライアードは、僕を見てから片膝を地面に付けるような恰好で
「ルート・ドライアードは、【インビジブル】で姿を消して、クリスのパーティメンバーが倒れたら、【リザレクション】で蘇生して。戦闘に参加する必要はないから。もし、複数のメンバーが倒れて【リザレクション】が間に合わない場合には、他のドライアードを召喚して蘇生するように」
「御意」
ルート・ドライアードが立ち上がった。
「見えなくなりましたわ……」
「やっぱり、魔力系は怖ぇな……姿を隠して背後から襲われたら、どうすることもできないぜ」
「確かに【トゥルーサイト】が使えないと、この先は危険だね」
【工房】→『装備作成』→『レシピから作成』
僕は、『トゥルーサイトの指輪』をレシピから4つ作成した。
『トレード』
「クリス、この指輪をレリアとアリシア以外に配って」
「ユーイチ、ありがとう」
――チュッ……
クリスティーナが僕にキスをした。
頬ではなく唇に軽くだ。
「わっ!?」
僕は、驚いて
「ふふっ、これくらいで大袈裟ね」
クリスティーナがそう言ってパーティメンバーたちが居る方を向いた。
「みんな、ユーイチから戴いた指輪を配るわよ」
「嬉しいですわ」
「ユーイチから指輪を貰うなんてな……」
「まぁっ、カーラったら、ユーイチくんから指輪を戴いて照れてますの? 可愛いですわ」
「特別な意味があるわけではありませんわよ? それにグレース。カーラが可愛いだなんて、どうかしていますわ」
「こっちにもエンゲージリングの風習があるの?」
「勿論ですわ。そのご様子だと『エドの街』にもあるみたいですわね」
『そう言えば、『エドの街』の組合長ベルティーナもこの指輪を渡したときにそんなことを言ってたな……』
そう考えると、これは『ローマの街』の風習であって、『エドの街』では、婚約するときに指輪を贈るという風習がない可能性もある。
「ユーイチ、ありがとうございますわ」
考え事をしていたら、レティシアがいつの間にか僕の目の前に来ていた。
そして、後頭部に手を回して顔を近づけてくる。
僕は、目を閉じた。
――チュッ……
軽く唇を合わせるようなキスをされた。
今度は、分かっていたので驚きはしなかったが、恥ずかしいことに変わりはなかった。
「じゃあ、オレの番だな」
レティシアと交代でカーラが僕の前にやって来た。
両手を頭の後ろに回してぎゅっと抱きしめる。
革鎧越しの大きな胸が僕の体との間で潰れる感触があった。
「さぁ、ユーイチ……」
カーラが顔を近づけてくる。
僕は、目を閉じた。
――ムチューッ!
「んっ、んーっ!」
こんなことだろうとは思っていたが、カーラはクリスやレティシアのような軽いキスでは済まさなかった。
「ちょっと、カーラ! 何をやっていますのっ!?」
――チュプッ……
カーラがレティシアによって引きはがされたようだ。
目を開けるとカーラと僕の唇の間で唾液が糸を引いているのが見えた。
「カーラ! こんなところで何するんだよ!?」
僕は、恥ずかしさを誤魔化すために声を荒げた。
「そうですわ。何を考えていますの!」
「悪ぃ、つい夢中になっちまったぜ」
「ああん、ズルイですわ。あたくしもユーイチくんに御礼のキスをしますわぁっ」
グレースが抱きついてきた。
「うわっ!?」
――チュッ、チューッ! チュプ、チュプ、チュプ……
「んーっ! んーっ! チュッ……」
グレースの柔らかい身体に包まれながら、濃厚なキスをされる。
のぼせたのか、頭がボーッとしてきた。
「なっ、なっ……なっ……なっ、何をやっていますのっ!?」
――チュプッ……
カーラのときと同じように僕とグレースの唇の間で唾液が糸を引いて落ちた。
「あらあら、あたくしも夢中になってしまいましたわ……」
「ふふっ、妾も主殿と接吻したいぞぇ?」
「オイオイ、お盛んだな。坊や」
「もう、いい加減にしてくださいよ。こんなことをしている場合じゃないでしょう?」
僕は、バツの悪さを誤魔化すためにそう言った。
「そうよ。早く行きましょう!」
アリシアも僕に同調した。
彼女は、一刻も早く妹を助けたいのだろう。
「アルベルトさん、『組織』の人は、このアジトに全員居るの?」
「いや、城壁の西門にある詰め所にも拠点があるぜ。他にも商家に出張してる奴も居るだろうな」
「商家にですか?」
「ああ、連絡役だな。商家から得られる情報もあるしよ」
「城壁には何人くらい居るんですか?」
「オレがあそこに居た頃は、28人だったな」
「アルベルトさんも城壁に居たんだ?」
「ああ、オレは魔力系の魔術が使えるからな」
「その28人は、全員魔力系魔術が使えたの?」
「まさか。さっきも言ったが『組織』に魔力系の魔術師は4人だけだぜ。オレを入れても5人だったよ」
「じゃあ、このアジトに居るのは、グレンという男だけですか?」
「いや、入り口にも一人居るはずだ」
「なるほど、【インビジブル】対策ですね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、最初の目標はその魔力系の魔術師だね」
「うむ。妾にお任せあれ!」
カチューシャがそう言った。
「レリアが倒したほうがよくない?」
「そうね」
「分かった。私がやろう……」
「なにゆえ、妾では駄目なのですかぇ?」
「何もない空間から魔法が放たれるところを見られたら、姿を隠しているのがバレるじゃないですか」
「死角から放てば問題ないと思うがのぅ……」
「念のためですわ」
「分かり申した」
レティシアの言葉でカチューシャは納得したようだ。
「第二目標は、回復系魔術師ね?」
クリスティーナがそう訊いた。
「うん、それがいいと思う。あと、ダークエルフは何人くらい居るの?」
「たぶん、居ないと思うぜ」
「そうなの?」
「ああ、さっきあんたらが倒した奴等だけだろう。普段は、連絡役のダークエルフがアジトに2人くらい常駐しているが、そいつらも襲撃に回されたようだ」
「もし、敵にダークエルフが居たら、ルート・ドライアードが倒して」
「御意!」
「じゃあ、行こうか」
「そうね」
「早く行きましょう!」
アリシアがそう言って、歩き始めた――。
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