7―10

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 トロール狩りを終えた後、カナコのパーティメンバーとチハヤたちが驚きの声を上げる。


「凄い……」

「何なの……」

「ご主人様……」

「信じられない……」

「凄いわ……」

「強い……」

「あの数のトロールを……」

「…………」


 僕は、ドライアードやニンフたちを帰還するよう命じた。フェリアにも使い魔を全て帰還するよう命じる。


「フェリア、使い魔たちを帰還させて」

「ハッ!」


 この場に居るのは、僕、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2、カナコのパーティメンバーだけとなった。


 そして、僕たちはルート・ドライアードが裏口の扉を持つ『密談部屋3』に戻った。

 全員が入ったところで、ルート・ドライアードに裏口の扉を帰還させた。

 そして、『密談部屋3』の扉から『ロッジ』へ戻る。

 全員が『ロッジ』に入ったのを確認して、『密談部屋3』の扉を『アイテムストレージ』に戻した。


『夢魔の館・裏口』


 僕は、『夢魔の館』の裏口の扉を召喚した。

 場所は、先ほどと同じ『ハーレム』の扉の隣だ。

 そして、扉を開けて『夢魔の館』の地下へ戻る。


「あっ、ご主人様」

「「お帰りなさいませ」」


 リビングに居た使い魔たちが挨拶をしてきた。


「ただいま」


 僕は適当に空いている席にテーブルを背にして座った。


「使い魔になったばかりの人は、こっちに来て」

「「はいっ!」」


 元気よく返事をしてから、4人の女性が僕の前に並んだ。


「えーと、あなた達には他の娼婦たちと同じ刻印が刻まれているはずなんだけど、魔法は使えるようになってるかな? 『魔法を使う』と念じてみて」

「「はいっ」」


「あ……。凄い! 魔法が使えるようになっています!」

「あたしも……」

「私も……」

「あたしもです!」


 魔法が使えるようになったようだ。とはいえ、自分が使える魔術を確認していなかっただけかもしれない。


「【サモン】という魔術は使えるようになってる?」

「はい、【サモン1】と【サモン2】という魔法も使えるようになりました」

「なるほど……」


 これで確定だろう。使い魔には、遠く離れていても刻印を通して経験値が入るのだ。その逆はどうなのか分からないが、可能性としては、遠く離れた場所で使い魔が戦った場合、あるじである僕にも経験値が入ると考えてもいいだろう。

 それを確認するには、次の娼婦希望者たちを使い魔にしたときに、使い魔だけでトロール狩りに行かせて、僕は新しい使い魔たちと一緒にここに残って待ち、トロール狩りが終わった後に新しい使い魔たちが召喚魔法などの高位の魔術を習得するか確認すればいいのではないかと思う。

 つまり、別系統の使い魔同士は刻印で繋がっているわけではない。フェリアの使い魔とレイコの使い魔の間には直接的な繋がりが無いということだ。必ず主である僕を介して繋がっているので、僕に経験値が入らずに別系統の使い魔に経験値が入ることは原理的におかしいのだ。

 もし、遠く離れた使い魔の戦いによる経験が主に入らない場合には、僕と一緒の場所に居る別系統の新しい使い魔たちにも経験値は入らないだろう。逆に経験値が入っている場合には、使い魔たちにも入っている可能性が極めて高い。


「ありがとう、戻っていいよ」

「「はいっ」」


『さて、次はどうしよう?』


 そういえば、フェリアには叔母が居たはず。フェリスの妹だったか。

 エルフの集落に行ってみるのもいいかもしれない。


「フェリア、叔母さんが居るんだよね? フェリスの妹の……」

「はい。サーシャという名の叔母がおります」

「懐かしいわね。ご主人サマ、サーシャに逢いに行かれるのですか?」

「エルフの集落にも行ってみたいと思っていたんだよね。ただ、僕が行くのはマズいかな?」

「問題ないでしょう。エルフ達をご主人様の奴隷にするべきです」


 フェリアがまた危険なことを言い出した……。


「いや、それはエルフと人間の間にいさかいが起きるかもしれないから駄目だよ」

「どうしてでしょうか?」

「例えば、小さな村でただでさえ数が少ない女性が人間の使い魔になったら、村の男達がどう思うか分かるでしょ?」

「それならば、問題ありません。エルフには、もう女しか残っておりませんから」

「えっ? それは初耳なんだけど……?」

「申し訳ございません。以前にエルフのことを聞かれたときにお伝えしておくべきでした」

「いや、別に重要な情報ってわけでもないからいいけど……」

「いえ、私も失念しておりましたが、もっと早くお伝えしてエルフ達をご主人様の奴隷にすべきでした」


 フェリアの中では、エルフ達が僕の使い魔になることが確定しているようだ……。


「まぁ、使い魔になるかどうかはともかく、興味があるから、この後、行ってみようかと思うんだけど?」

「よろしければ、早速参りましょう」

「分かった」


 僕は立ち上がり、【フライ】で飛行して廊下へ通じる扉へ向かう。

 僕の後にフェリア、ルート・ドライアード、フェリス、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2、カナコのパーティメンバーが続いた。

 廊下に出て、『昇降場』で1階に移動する。

 1階の廊下に出て娼婦が待機する控室へ向かう。

 扉を開けて控室に入った。


主様ぬしさま!」

「これは、主殿あるじどの

「「ご主人様」」


 部屋の中には、レイコ、イリーナ、サクラコ、ユリ、サヤカが居た。


「お疲れ様」

「どちらに行かれるのですか?」

「エルフの集落に行こうかと」

「大丈夫なのですか?」

「まぁ、フェリスが居るから問題ないと思うよ。少なくともいきなり攻撃してくるほど好戦的じゃないでしょ」

「確かにエルフは理知的な種族ですし、友好的だと聞きますが……」


 僕は振り返って、カナコを見る。


「カナコたちは、ここから別行動して。前に依頼していた仕事を続けてほしい。もう、カナコたちは強くなっているから、近隣の村も回ってきて」

「分かりました」

「さて、ここからエルフの集落へ向かうけど、フェリアが先導して」

「畏まりました」

「【インビジブル】はどうしよう?」


 僕たちは、基本的に街の外では【インビジブル】を掛けている。


「問題ないでしょう。私もいつも掛けたままで訪問していますから」

「分かった。じゃあ、【インビジブル】は掛けたままで【マニューバ】で移動しよう」

「ハッ!」


『装備2換装』


 僕は、魔術師スタイルの『装備2』へ換装した。

 外へ通じる扉へ向かう。


「主様、お気をつけて」

「行ってらっしゃいでござる」

「「行ってらっしゃいませ」」

「じゃあ、行ってくるね」


 そう言って、扉を開けようとしたら、フェリアが割り込んできた。

 同時に僕の体が回復系魔術のエフェクトで光る。外に出るのでバフを掛け直してくれたようだ。

 僕は少し下がって、フェリアに先を譲った。

 フェリアがドアを開けて外に出た。

 それに続いて僕たちも外に出る。カナコたちも一緒に外に出てきた。


 見るとエントランスには、30人くらいの客が居た。


「あっ、ご主人様」


 近くに居たヨウコが僕に声を掛けてきた。

 周囲の客が僕の方を見て不思議そうな顔をする。

【インビジブル】で見えていないのだろう。


 僕は、ヨウコに向かって口に人差し指を当てて「シーッ、静かに」のジェスチャーをした。

 ヨウコは、驚いた顔をしてから口に手をやる。

 それを見たあと、フェリアを見てうなずく。

 フェリアが【マニューバ】を起動して浮かび上がった。


【マニューバ】


 飛行するフェリアを追って『夢魔の館』の入り口から外に出る。『夢魔の館』の玄関扉は基本的に開きっぱなしなのだ。

 入り口は大きいので、人が入って来ても上のほうを飛んで抜ければ、ぶつかることはないだろう。


 上空に出てから加速する。

 フェリアは、北東方向へ向かって飛行しているようだ。

 城壁を越えると、見る見るうちに隅田川と荒川が接近してくる。


 以前、レイコたちを救出に向かったときに渡った橋の近くで2つの川を越えた。

 その後、フェリアは街道沿いに東へ進路を変えた。

 レイコたちを救出に向かったときの分岐を北に行かず、東へ移動する。

 それから、3つの大きな川を越えたのを上空から確認した。

 中川、江戸川、利根川だろうか?

 左前方に山が見える。あれは筑波山だ。茨城県民の僕にはすぐに分かった。

 眼下は、森林地帯だった。元の世界では、こんな光景はあり得ない。


 フェリアが飛行速度を落とした。

 目的地が近いのだろう。

 少し左に進路を変更した。

 そのまま、しばらく進んだ前方の森に少し開けたところがあった。

 よく見ると森の中に低い壁が見える。

 エルフの集落は、壁で囲われているようだ。


 フェリアは、高度を落として、壁の近くまで飛んで、壁を越えたあたりに着地した。

 僕たちもその後に続いて着地する。念のため【インビジブル】はオフにする。

 壁の高さは、2メートルほどで厚みも10センチメートルくらいしかないようだ。『エドの街』にあるような巨大な城壁と違い、見た目はストーンウォールに近い。


 森の木々には、森の中のほうに向けて扉が付いていた。

 フェリスが作ったというフェリアたちの家のように大きな扉ではない。

 高さ2メートル、幅60センチメートルくらいの普通サイズの扉だ。


『それでも「エルフの扉」にしては大きいけどね……』


 元の世界では、木に付いた小さな扉を「エルフの扉」または「妖精の扉」と呼んでいた。物語では異世界に通じる扉として描かれていることもあるようだ。


 フェリアは、中央に向かって低空飛行で移動していく。

 僕たちもその後を追って移動する。


 暫くすると、向こうから二人のエルフがこちらに向かって走ってきた。

 スケートをするように滑って移動している。【ウインドブーツ】を使っているようだ。

 それを見たフェリアが停止した。

 僕たちも停止する。


「お前たちは何者だ?」


 片方のエルフが問いかけてきた。

 エルフにしては重装備だ。頭を覆うヘルメットはしていないものの、全身ミスリル製の鎧に身を包んでいる。左腕には盾を腰にはショートソードらしき剣を装備していた。


「久しぶりね、メリルレン、フィーネ」


 フェリスが前に出た。


貴女あなたは……フェリス? 生きていたのか!?」

「ええ、ここに居られるご主人サマのおかげでね」


 僕は、外套がいとうのフードを上げて前に出た。


「初めまして、ユーイチと言います」

「これは、ご丁寧に。私の名は、メリルレン。お見知りおきを」


 メリルレンは、騎士っぽい喋り方だ。そのため、レイコに似た雰囲気を感じる。

 しかし、容姿はフェリスと似ている。背丈も同じくらいに見える。

 その隣に並んでいるフィーネと呼ばれた女性は、フェリスと同じような格好をしているが、フェリスより少し背が低いだけで、彼女もフェリスと似ている。細身で小顔、輝くような明るいサラサラの金髪で髪型はロングヘアといった特徴がエルフの3人に共通している。

 ドライアードやニンフのようにクローンのような感じではないが、人間に比べると個々の違いがあまりないのだろうか。


わたくしは、フィーネです。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「では、集会所へ来てもらおう。いろいろとお話を伺いたいので……」


 メリルレンが僕たちを森の奥へいざなった。


 僕は、彼女の後について森の奥へと移動した――。


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