第六章 ―夢魔の館―

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 第六章 ―夢魔の館―


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『現在時刻』


 時刻を確認してみると、【10:46】だった。


『ゆっくりし過ぎたかな……?』


 当初の予定よりも時間が遅くなってしまった。

 明るくなったら、ここを発つ予定だったのだが、レイコのパーティメンバーだけでなく、村人たちまで使い魔候補となったので、いろいろと時間がかかってしまったのだろう。

 早くしないと、暗くなる前に『エドの街』に戻れないかもしれない。


 僕は身体を起こした。


「ああんっ……」


 僕に抱きついていたサクラコが声を上げた。


「そろそろここを出よう、もう昼前だ」


 僕は立ち上がり、『ハーレム』の扉を戻して自動清掃機能を発動させた。

 浴場内の水滴や体液が綺麗に消え去った。


『装備1換装』


 浴場の引き戸の前で『装備1』へ換装する。

 今日は、いつもの魔術師スタイルではなく、近接戦闘用の装備にした。


「おお……、凛々しいでござるな、主殿あるじどの

「ステキですわぁ……」


 背後からイリーナとサクラコが僕の格好を見て賞賛してきた。


『後ろ姿なんですが……』


 後ろからだとマントくらいしか見えていないと思うので、ちょっと複雑な気分だった……。


 僕は引き戸を開け、廊下へ出てから、入り口に向かう。

『ハーレム』の扉を再召喚してから、扉を開けて『ロッジ』へ戻った。


『ロッジ』の中央まで進んで振り返ると、イリーナを先頭に全裸の女性たちが『ハーレム』の扉から次々と出てきた。

 僕は、直視しないようにしながら、彼女たちに座るよう指示する。

 レイコたちは、最初に座っていたテーブルの自分の席に座った。

 村人たちは、『ロッジ』の入り口からみて奥側のテーブルに4人ずつ分かれて座ってもらう。

 左側のテーブルには、手前側の左にサクラコ、右にユリの母娘、反対側にショウコ、スミレの母娘が座る。

 右側のテーブルには、手前側の左にアザミ、右にマドカ、反対側にアヤメ、イズミが腰を掛けた。


『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』……


 それぞれの席の前に『サンドイッチセット』を召喚する。


「「わぁ……」」


 村人たちが声を上げる。彼女たちに刻まれた【エルフの刻印】は、食欲はあまり湧いてこないが、目の前に出されると人間だった頃の感覚がよみがえり食欲を刺激されるのだろう。僕もそうだったから気持ちは分かる。

 簡単なものだけど、オークが作ったものよりはまともな料理だろうし。


『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』……


 ついでに『コーンクリームスープ』も一緒に出す。朝食――時間的にはブランチ――とはいえ、サンドイッチだけでは、物足りないだろう。


「どうぞ、召し上がってください」

「「いただきまーす」」


 僕も自分の席に戻って食べ始める。

 フェリアとルート・ドライアードは僕の背後に立ったままだった。

 フェリスとルート・ニンフは、向かい側で食べ始めている。


「フェリア、ルート・ドライアード、一緒に食べよう」

「ハッ!」

「御意!」


 彼女たちも席に着いて食べ始めた――。


 ◇ ◇ ◇


 食事を終えた後、エスプレッソに似たコーヒーをすすりながら、僕は目を閉じる。


【工房】→『装備作成』→『レシピから作成』


 素材を購入して『回復の指輪』を6個作成した。

『回復の指輪』を作成した僕は、目を開ける。

 見ると全員、食べ終わっているようだ。


「レイコ」

「ハッ!」


 レイコが立ち上がり、僕の右斜め後方に来る。


主様ぬしさまなんでございましょう?」


『トレード』


 僕は、振り返り『回復の指輪』6個と10万ゴールドを渡す。


「主様……これは……?」

「その指輪を一つ装備して、残りは君のパーティメンバーが僕の使い魔になった時に渡して装備させて」

「このお金はどうすれば……?」

「レイコたちが独立して活動するときの資金だから、好きに使っていいよ」

「ですが……」

「使い魔へのお小遣いだから気にしないで」

「あっ……ありがとうございます!」

「ホントに気にしなくていいから。今後、レイコたちが戦ってモンスターを倒しても全て僕のお金になるんだから、その前払いだと思って」

「ハッ! 畏まりました!」


 僕は、残りの冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がった。


「じゃあ、フェリア、ルート・ドライアードは全身鎧を装備。フェリスとルート・ニンフも戦闘用の装備に換装して」

「ハッ!」

「御意!」

「了解ですわ」

「ええ」


 4人は起立して装備を換装した。裸体が白い光に包まれて装備をまとった姿となる。


「他の人は、ここで待機していて」


 レイコのパーティメンバーと村人たちにそう告げて、僕は『ロッジ』の扉を召喚して外へ出た。

 4人の使い魔たちが外へ出たところで、扉を閉めて帰還させる。

『オークの神殿』の前には、オークの見張りが居ない。まだ、復活していないのだろう。


「じゃあ、【マニューバ】を使って一気に移動するね。【インビジブル】と【トゥルーサイト】も忘れずに起動しておくように」


 続けてフェリアに指示を出す。


「フェリア先導を頼む」

「ハッ! 畏まりました!」


【インビジブル】【トゥルーサイト】【マニューバ】


 僕が自己強化型魔術を起動すると、全身鎧を纏った甲冑姿のフェリアが飛び立った。

 その後を追って僕は空へ舞い上がった。

 太陽は、あまり高く上がってはいなかった。昼の11時を回っているわりに低い位置に感じる。

 ふと、左のほうを見ると、地平線に近い位置に白い三日月が見えた。

 満月だったら手にかざした一円玉くらいのサイズだろう。元の世界で見た三日月によく似ている。


【テレスコープ】


 視界を拡大して見てみた。正直なところ月の正確な表面模様を知らないので、地球の衛星の月かどうか判別はできない――そもそも三日月なので見えている部分が少なすぎる――が、僕の記憶にある月と非常に似ていることだけは分かった。


「ご主人サマ……?」


 僕が移動しないので、フェリスが僕に声を掛けてきた。

 見るとフェリアも向こうで僕が来るのを待っているようだ。


「ごめん、月が見えたから見ていたんだ」

「そうでしたの」

「もういいから、移動しよう……」


 フェリスが僕の前を飛行した。

 スカートが捲れ、ノーパンの股間が目に入る。

 僕は、慌てて目を逸らしてフェリスに追いついて聞いてみる。


「100年前もそうやってノーパンで飛んでたの?」

「フフフ……さぁ、どうだったでしょう?」

「覚えてないの?」

「ご主人サマは、どちらのほうがいいですか?」

「ええっ? そんなことを聞かれても困るよ……」

「フフフ……可愛いことをおっしゃいますのね……」


【マニューバ】で30分ほど飛行すると、富士山のふもとにある『妖精の国』へ通じる洞窟へ到着した。

 ここには、約四千体のトロールが棲息しているのだ。


『ロッジ』


 洞窟の入り口付近に『ロッジ』の扉を召喚する。

 扉を開けて中に入り、食器を片付けてから、レイコのパーティメンバーと村人たちに外に出るよう指示する。


「あのっ……あたし達、裸なんですけど……?」


 ミナが抗議してきた。


「ごめん、あまり見ないようにするから、僕の使い魔になるまでは裸で居てくれる?」

「……分かったわ」


 そう言って僕は、彼女たちと一緒に外に出て『ロッジ』の扉を帰還させた――。


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