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 ――そんな話をしている間に目的地に近づいたようだ。


「ご主人様、そろそろ『オークのとりで』が見えてくる頃です」


 前方をよく見ると、森に囲まれた場所に遺跡のようなものが見えてくる。

 僕から見れば、『砦』というよりは、マヤ文明とかの遺跡に近い印象だ。カットされた自然石を積んだ石積みの建物は、手入れがされておらず、つたなどがからみついた外観だからだろう。

 高度を落とし、『オークの砦』の100メートルくらい手前で停止する。


 砦の入り口には、手前に階段があり、左右に2体のオークが警備している。

 オークの外見は、背丈こそ人間と変わらないくらいだが、恰幅かっぷくがよく、体の厚みや幅が一回り大きい。腹は出ているが、よろいの下の大胸筋だいきょうきんは大きく盛り上がっていて、見るからに力がありそうだ。


 肌の色は、少し日に焼けた人間の肌に近い色でRPGなどでよくある緑色の肌ではない。頭部は、豚の頭のような感じではなく、人間に近いが大きなつぶれた鼻が豚を彷彿ほうふつさせる。また、口に下顎したあごから牙が突き出ているのは、イメージ通りだ。


 装備は、鎖帷子くさりかたびらに金属の胸当てと腰にも金属の板が垂れた鎧を着ている。日本の甲冑の草摺くさずりと呼ばれるものに似ている。

 ブーツも金属製だ。何かのゲームで見た『ブロンズグリーブ』という単語が頭に浮かぶ。

 篭手こてもこれぞガントレットというイメージの金属製のものだ。

 僕が装備しているアダマンタイトの篭手は、フェリアから貰ったミスリルの篭手と似たデザインにしたため、ガントレットというよりは、手甲に近いデザインとなっている。

 胸当てなどもフェリアから貰ったものをベースにイメージしているので、形状はよく似ている。色は、素材によって基本色が違うので色違いだ。ちなみに、デフォルトカラーは、ミスリルは、チタン合金のような金色がかった銀色で、アダマンタイトは、青みがかった黒だ。また、【工房】では、装備の塗装もできるため、違う色に変更することも可能だった。

 頭には、ゲームではホーンドヘルムと呼ばれるような、両側に牛の角のような飾りが付いたかぶとかぶっている。

 右手には、海賊が使うような曲刀を肩の上に担いだような形で持っている。あの曲刀は、カトラスとかいうものだろうか。

 左腕には円形の盾を装備していて、その盾はコボルトが持っていたものよりもずっと大きい。金属製で、これこそラウンドシールドという感じだ。


【ワイド・レーダー】


 敵の数を確認してみると、入口の2体以外では、離れたところに2箇所の赤い光点が見える。

 どうやら、建物内の敵は探知できないようだ。内部が別の空間になっているからだろうか?

【ワイド・レーダー】の索敵さくてき範囲内には、他にも緑の光点がいくつも表示されている。おそらく野生動物だろう。


『離れた場所に居るのは、オークの斥候せっこうだろうか?』


【ワイド・レーダー】をオフにして念のためフェリアの意見を聞いてみる。


「【ワイド・レーダー】で確認したら、2箇所だけ離れた位置に敵が居るみたいなんだけど?」

「おそらく、ゾンビの残党ではないかと思われます。この辺りには、まだゾンビが残っていてもおかしくはありませんから」

「そういう『はぐれゾンビ』は、どうやって発生するの? 確かゾンビは、対象をどこまでも追いかけてくるんじゃなかったっけ?」

「いいえ、いつまでも追いかけてくるわけではございません。障害物などに引っかかった場合など、距離が離れて、周囲に対象が居ない状態がある程度続くと追跡を中止します」

「じゃあ、【ストーンウォール】で足止めできるんじゃ?」

「ある程度は可能ですが、前方に障害物があった場合、その障害物を攻撃する習性がありますので、そのうち【ストーンウォール】は破壊されてしまいます」

「なるほど」

「しかし、逃げる場合には有効な策です。わたくしも【ストーンウォール】を使ってゾンビの集団から逃げたことがあります。他にもゾンビに対しては、【グレイブピット】も有効ですわ」


 脱線してきたので、話を戻す。


「『オークの砦』には、オークは全部で何匹くらい居るの?」

「おそらく、2000体くらいでしょうか……」

「……それは、凄く多いね。広範囲攻撃魔法を連発したら倒せるかな?」

「同じ個体に何度か当てれば倒せると思います」

「MPがヤバくなるまでは、広範囲攻撃魔法を連発して数を減らそう」

「畏まりました」


 念のため、フェリアと簡単なブリーフィングを行う。


「じゃあ、まず最初に僕が陣地を【ストーンウォール】で作ろう。例によってV字型でいいかな。場所は、『オークの砦』の正面近くの広場だ」

「ハッ!」

「次にアーシュを陣地の奥に召喚するんだ。危なくなったら帰還させてくれ」

「ハッ!」


『そのうち、「イエッサー!」とか言い出しそう……』


 軍人のような彼女の受け答えにそんな感想が思い浮かぶ。


「それと今回は、【グレイブピット】を並べて足止めをしてみようと思う。【フレイムウォール】は効果が微妙だから今回も無しで」

「畏まりました」


 初めてゴブリン狩りをしたときに使った【フレイムウォール】だが、あれ以来、この魔術は使っていない。

【フレイムウォール】でダメージを受けていない個体でも刀で斬れば一撃で殺せてしまうので、あまり意味がないことが判明したからだ。もっと体力が高いモンスターが相手だったら有効なのかもしれないが、ノーマルオークの強さは、エルダー・コボルトやホブゴブリン程度らしいので今回は不要だろう。オーク・ウォーリアなどには有効かもしれないが、視界も悪くなるし、今回は【フレイムウォール】は使わない方針とする。


『MP消費量と効果時間の関係から見ても短時間に大ダメージを与えられるとは思えないんだよな……』


「あとは、個別の判断で【ファイアストーム】や【ブリザード】、【ヴォーテックス】のような広範囲攻撃魔法を使ってくれ。【ハイ・メディテーション】が起動したら、魔法攻撃は中止してMPの回復に専念しよう」

「ハッ!」


『フェリアの装備5換装』


 フェリアが戦闘用のメイド服姿になる。


「あっ……」


 自分の装備が強制的に変更されたため、フェリアが驚く。


「接近してきたオークには、メイド服で格闘戦をしてみて」

「ハッ! 畏まりました」


【戦闘モード】【ブースト】【グレート・シールド】【グレート・マジックシールド】【グレート・ダメージシールド】【ウインドバリア】【ホーリーウェポン】


 戦闘状態となり、自分にバフをかける。お互いに全系統の魔法が使える僕たちは、セルフバフ&セルフヒールが基本となっている。連携についても、僕のほうは特に何も考えずに戦っている。フェリアのほうは、僕の体力などを常に見張っているようだけど……。


【ストーンウォール】【ストーンウォール】


 作戦通り、『オークの砦』の正面に【ストーンウォール】をV字型に設置する。

 フェリアは、馬のアーシュをV字型に配置された【ストーンウォール】の奥に召喚した。

 それを見た僕は、V字型の入り口付近に着地して【フライ】を解除する。フェリアも僕の右斜め後方に降り立った。


【ストーンウォール】とアーシュを見て警備のオーク達が騒ぎ出したので、【インビジブル】を解除する。念のため【トゥルーサイト】は起動したままにしておく。フェリアが【インビジブル】を解除したかどうかは分からない。

 砦の中から、オーク達が続々と現れてこちらに向かってくる。


「フェリア、【グレイブピット】で足止めをして」

「ハッ!」


 フェリアが【グレイブピット】の魔術で複数の落とし穴を掘る。【グレイブピット】が発動したところは、地面の中から土がゴボゴボと吹き出してきたように見え、盛り土の真ん中に約2メートル四方の落とし穴ができる。【戦闘モード】中なので魔法の工程がスローに見えるが、実際には、数秒で落とし穴ができている。走っている前方にそんな速度で落とし穴が出来たら、まず避けられないだろう。


【グレイブピット】【グレイブピット】【グレイブピット】【グレイブピット】


 僕も【グレイブピット】を4箇所に展開する。自己強化型以外の魔術は、基本的に8個ずつ刻印を刻んであるので、更に4個の落とし穴を追加で作ることができる。

 オークの先頭集団が次々に落とし穴に落ちる。それを見た後続のオーク達は、【グレイブピット】で空いた落とし穴を迂回うかいして接近してくるが、


【グレイブピット】【グレイブピット】【グレイブピット】【グレイブピット】


 迂回路にも【グレイブピット】を設置してオークを足止めする。


『まだ、敵の密度が低いな……』


 広範囲攻撃魔法を使うにしても、もっとオーク達を密集させないと効率が悪い。


【ヴォーテックス】


 砦内のオークが出てくるまでの時間稼ぎとして【ヴォーテックス】で更に足止めを行う。

【ヴォーテックス】は、精霊系レベル5に分類される広範囲攻撃魔法で直径約3メートル、高さ約10メートル程度の小規模な竜巻を発生させることができる。

【グレイブピット】から出てこようとしているオーク達の真上に【ヴォーテックス】を発動させる。


 ――ゴォオオオーーーッ!


 物凄い風切り音が発生して、付近に居るオーク達が上空へ巻き上げられた。

【ヴォーテックス】は、術者の意志で移動させることができるので、こちらに近づくオークの集団へ向けて移動させる。竜巻の移動速度はそれほど速くはない。特に【戦闘モード】を起動している僕の目にはかなり遅く感じる。しかし、オーク達の移動速度も遅いので、余裕を持って巻き込むことができた。

 そうやって、敵集団を巻き込み上空へ飛ばしていると、スペルの効果時間が終了した。地上に落下して散らばったオーク達も竜巻が消えたのを見て、再度接近してくる。


 と、何十発もの矢が飛んでくるのが見える。どうやら、オーク・アーチャーのお出ましのようだ。

 矢は、【ウインドバリア】に弾かれて後方へ逸れるが、流れ弾がアーシュに当たらないように気をつけなければいけない。そういえば、アーシュにバフを入れていなかったのを思い出し、


【グレーターダメージスキン】


 ダメージスキン系のバフだけ入れておく。必要性が低いリアクティブヒール系は、MPが勿体もったいないので使わないことにした。


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 突然、敵集団のなかに直径10メートルくらいの炎の渦が出現した。

 フェリアが密集していた敵集団に【ファイアストーム】を使ったようだ。


【ファイアストーム】


 僕も【ファイアストーム】を起動する。発動位置のガイドが見える。フェリアが発動した位置とほぼ同じ処を狙って発動する。


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 オークの集団は、まだ死なない。


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 再度フェリアが発動した【ファイアストーム】を受けてオークの集団は白い光と共に消え去った。

 ノーマルオークは、【ファイアストーム】3発で倒せるようだ。厳密げんみつに言えば、フェリアの【ファイアストーム】が2発と僕の【ファイアストーム】が1発でだ。おそらく、フェリアの【ファイアストーム】のほうが威力いりょくがあると思うので、僕の【ファイアストーム】3発で倒せるかどうかは分からない。


 密集した別の集団を狙って、


【ファイアストーム】


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


【ファイアストーム】


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


【ファイアストーム】


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


【ファイアストーム】を連発する。3発目でオークの集団は消滅した。

 僕の【ファイアストーム】でも3発で倒せるようだ。


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 フェリアが新たな敵集団に【ファイアストーム】を放ったのを見て、


【ファイアストーム】


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 僕も【ファイアストーム】を続けて発動する。

 すると、MPが5割を切ったようで、HPが低下しMPが回復していく。

 調子に乗って広範囲攻撃呪文を連発したため、MPが5割を切って【ハイ・メディテーション】が自動的に発動したのだ。HPが5パーセントほど低下する度に【グレート・リアクティブヒール】が発動する。それを何度も繰り返してMPが満タンになった。


【グレート・リアクティブヒール】


【ハイ・メディテーション】が切れるのを待ってから、【グレート・リアクティブヒール】をかけ直しておく。

 HPは、【グレート・リアクティブヒール】のおかげで9割以上残っている。

 いつの間にかフェリアが僕を庇う位置まで出てきていた。僕に【ハイ・メディテーション】が発動したのを見て出てきたのだろう。僕のMPは、一旦は満タンになったものの、【グレート・リアクティブヒール】をかけ直したことで、7割ちょっとまで減っている。


 見ると既にオーク・ウォーリアとオーク・プリーストの大型種も出現している。

 ノーマルオークの背丈は、僕より少し高い程度だったが、オーク・ウォーリアは、2メートルくらいあるので、凄く巨大に見える。単に身長が高いというよりもオークをそのままの比率で拡大したようなサイズなのだ。防具こそオークと似たようなものだが、武器は両手持ちのウォーハンマーを装備している。当たったら痛そうだが、一対一なら攻撃を受ける可能性はゼロに等しいだろう。【戦闘モード】下で見たところでは、格下っぽい動きなので、こんな大振りの武器が当たるとは思えなかった。

 オーク・プリーストは、オーク・ウォーリアと外見が似ているが、武器はメイスと盾を装備している。メイスは、RPGで僧侶系が持っているものと似たデザインの金属製の武器だ。盾は、オークが持っていたラウンドシールドと同じものだろう。


 ノーマルオークとオーク・アーチャーは、その大半を広範囲攻撃魔法で殲滅せんめつできたようだ。フェリアは、残ったオーク・アーチャに対して【マジックミサイル】で攻撃しているようだ。


【マジックミサイル】


 僕も適当なオーク・プリーストに【マジックミサイル】で攻撃してみるが倒しきれなかった。


【マジックミサイル】


 試しにオーク・アーチャーにも【マジックミサイル】を使ってみると、こちらは一発で消え去った。

 そうこうしているうちに、オーク・ウォーリアが一体接近してきた。

 フェリアが間合いを詰めてメイド服のまま接近戦に入る。オーク・ウォーリアがウォーハンマーを振りかぶった瞬間にボコボコになぐる、何発も攻撃されたオーク・ウォーリアは、後退して体勢を崩し攻撃ができない。そこにオークの頭部をめがけてハイキックが飛ぶ。メイド服のスカートが捲れて青い下着が見えた。蹴り足をそのまま回転させ地面について、その姿勢から後ろ回し蹴りを放ちオーク・ウォーリアの顔面に炸裂さくれつさせる。この一撃でオーク・ウォーリアは、白く光って消滅した。


 僕がフェリアの戦いに見蕩みとれているうちに、2体のオーク・ウォーリアが僕に接近してきていた。


【マニューバ】


 僕は、【マニューバ】を発動して近接戦闘に備える。接近してくる2体のうち左側のオーク・ウォーリアに抜刀斬りを見舞う。【ホーリーウェポン】がかかっているので、刀身が少し光っている。コボルトやゴブリンを斬ったときに比べ、かなりの手応えがある。やはり、一撃では倒せない。刀に左手を添え、返す刀で袈裟斬けさぎりに斬り伏せる。この攻撃でオーク・ウォーリアは、白く光って消え去った。オーク・ウォーリアを倒すには、『アダマンタイトの打刀+20』で二太刀必要なようだ。しかし、思っていたよりは体力が低めなので、MPに気を配りながら、近接戦闘を続ける。


 この五日間、『コボルトの巣穴』と『ゴブリンの巣穴』に毎日通っていたため、【マニューバ】を使った近接戦闘にもかなり慣れた。もう、MP切れで醜態を晒すことはないだろう。それ以前に、MPが5割を切れば、勝手に【ハイ・メディテーション】が発動するため、MPを気にしなくても問題はないのだ。HPが5割切った状態でMPが5割切っても【ハイ・メディテーション】は発動しないので、HPとMPが低い状態のときは気をつけないといけないが、今のところ、そんなに苦戦するモンスターとは戦っていない。


 僕は、黙々と刀を振るいオーク・ウォーリアを倒していく、本来ならオーク・プリーストを優先して倒す必要があるのだが、回復される前に斬り伏せることができているので、特に問題はない。たまに一太刀目で回復されることがあったようで、オーク・ウォーリアに回復系魔術のエフェクトが見えることがある。しかし、回復魔法は、刻印を複数持っていないと連続で使えないため、斬る回数が少し増えるだけだ。


 オーク・ウォーリアの個体数は、ノーマルオークに比べれば少ないものの、かなりの数が居たようで、倒しても倒してもなかなか数が減らなかった。30分ほど経過した頃から目に見えて数が減っていくのが分かり、ホッとする。このまま何時間でも刀を振り続けることはできるだろうけど、何となく時間の無駄に感じてしまうのだ。


『どうせなら、もっと強敵とヒリヒリとした緊張感の中で戦いたいと言ったら、フェリアは反対するだろうな……』


 僕には、意外と戦闘狂の一面があったようで驚く。普通に暮らしていては、自分の隠れた性分には気づかないものなのだろう。


 オーク・ウォーリアの個体数がほぼゼロに近くなり、戦う相手がオーク・プリーストとなる。

 オーク・プリーストのHPは、オーク・ウォーリアとさほど変わらないように感じた。おそらく、オーク・ウォーリアのほうがHPが高いのだろうけど、『アダマンタイトの打刀+20』で二太刀という結果は変わらないからだ。


 それから、15分ほどで僕たちは残敵を掃討そうとうすることができた――。


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