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 ――眠った瞬間に目が覚めた。


 あの後、僕はフェリアに部屋に連れ込まれ、ベッドに押し倒された。

 彼女は、出会ったときのように添い寝をして何処からか出した毛布を二人に掛けた。


 出会ったときと違うのは、フェリアの服装だ。あのときの彼女は、胸当てなどの鎧を装備していた。

 しかし、今回は浴衣姿でしかも下着を身に着けていないようなのだ。

 フェリアの柔らかい身体と体温を感じてドギマギしながら時刻を確認すると、深夜の12時前だったので、僕は『6時間睡眠』と念じてサッサと寝てしまった――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 そして、眠ったと思った瞬間に目が覚めた――。


「おはよう……」


 僕が目を開けるとフェリアが朝の挨拶をしてきた。


「おはよう、早いね」

「あたしは、眠ってないもの」

「え? どうして?」

「あなたの寝顔を見ていたのよ」

「……何で……?」

「そうしたかったからよ……」


 フェリアは、僕の左腕にしがみつくような体勢だった。

 僕の左手は、彼女の太ももに挟まれている。柔らかくスベスベした太ももの感触に僕は発情しそうになる。


【戦闘モード】


【戦闘モード】を発動したら、一瞬で冷静になることができた。全身に力がみなぎってくる。

 しかし、この状態だとフェリアを傷つけてしまうかもしれないので、すぐに【戦闘モード】をオフにした。


 左手を彼女の太ももの間から抜く。


「あんっ」

「ご、ごめん……」

「どうして謝るの?」

「いや、痛かったのかなって思って」

「ふふっ、急に手を動かすから驚いただけよ」


 僕の左手は、ヌルヌルとした液で濡れていた。


『汗……かな?』


「そろそろ起きようよ」

「そうね」


 フェリアは、そう言って毛布を捲ってベッドから降りた。


 フェリアの香りにクラクラしながら、僕もベッドから降りて立ち上がった――。


 ◇ ◇ ◇


 その後、僕たちはフェリアの家の玄関近くのテーブルが並んだ部屋に移動して食事をした。

 お腹は空いていなかったが、目の前に料理を出されると食欲が湧いてきたので、美味しく食べられた。


「それで、どんなモンスターと戦えばいいと思う?」

「今日は、昨日あなたが倒れていた場所の近くまで行って、ゾンビと戦いましょう」


 RPGなどでは、通常ゾンビはレベル1の冒険者の相手ではない。

 ジャイアント・ラットやジャイアント・バット、和製RPGではスライム辺りが相場のハズ……。


「ゾンビって、そんなに弱いの?」

「いいえ、個体の強さとしては、オークよりも上でしょうね」

「大丈夫なの?」

「ええ。1体だけならコボルトが最適なんだけど、巣穴から数百匹が一度に出てくるから危険なの。その点、ゾンビは昨日のように1体だけで徘徊していることが多いし、動きも遅いから大丈夫よ」


 強いのに狩りやすいなら、獲得する経験値も多いハズだ。経験値というものが存在すればの話だが……。

 ただ、昨日のフェリアの話では、刻印を刻んだ者は成長するという話だった。少なくとも、成長して使える魔法が増えるのは確実なようだ。


「一つだけ約束して」


 フェリアが真剣な顔でそう言った。


「な、なに?」

「絶対に無理をしないで。そして、あたしの言うことに従って頂戴」

「分かった」


 モンスターと戦うということは、命のやり取りをするということだ。

 ここが戦場なら、僕は新兵なのだ。経験豊富な古参兵であるフェリアに従うのは当然だろう。


「じゃあ、行くわよ」

「うん」


 フェリアが立ち上がり、装備を変更した。

 馬に乗っていたときの装備だ。


 そして、部屋を出た後、そのまま玄関から外へ出た。

 僕もフェリアに続いて玄関から家を出る。

 僕が外に出ると、フェリアは入り口の扉を閉めた後、何かしている。おそらく、鍵を掛けているのだろう。


 朝の森の中は、静かで清々しく薄暗かった。


「ついてきて」

「うん」


 森の中をフェリアと歩く。

 少し歩くと昨日、馬のアーシュから降りた場所に着いた。

 広くはないが、森の中に馬が走れる程度の道が続いている。


 フェリアが止まった。

 次の瞬間、道の真ん中に白い光に包まれてアーシュが召喚された。


「さぁ、乗って」

「う、うん」


 僕は、アーシュの左側に移動してあぶみに左足を掛けて、アーシュに跨った。

 昨日に比べると凄く簡単に乗ることができた。

 慣れたこともあるだろうけど、一番の理由は、刻印を刻んだことで身体能力が上がっているからだろう。


 空中に浮かんだフェリアが僕の後ろに乗って、アーシュの手綱を取った。

 背後から彼女に抱かれるような格好だ。少し恥ずかしい……。


「じゃあ、行くわよ?」

「うん」


 アーシュが走り出した。


「うわっ!?」


 昨日と違って、いきなりのダッシュに僕は驚く。


「大丈夫よ……」


 彼女が僕の耳元で囁いた。

 フェリアは、鞍に座ってはいない。

 僕と座高がそれほど変わらないため、座ると前方が見え辛いからだろう。

 少し空中に浮いた状態で僕の肩越しに前方を見ているようだ。

 アーシュが走った状態では、足音や風切り音で会話はままならないため、フェリアは僕の左耳の耳元に口を寄せて囁いたのだ。

 耳元で囁かれるのは、こそばゆくてドギマギしてしまう。


 それにしても凄いスピード感だった。

 おそらく、昨日は、僕がまだ刻印を刻んでいない一般人だったので、遠慮してアーシュを走らせていたのだろう。

 直接、風を体で感じているためか、自動車に乗っているときよりも速く感じる。


『バイクに乗ると、こんな感じなのかな……?』


 僕は、免許を持っていないし、オートバイにも乗ったことはないが、ノーヘルで薄着の状態でバイクを走らせているようなものだと思った。


 昨日よりもずっと速度が出ているのに、昨日に比べて乗り心地は悪くないと感じていた。

 これも刻印を刻んだことで、身体能力が上がっているからだろうか。アーシュが走る上下動に僕の下半身が追従しているのが分かる。訓練したわけでもないのに対応しているのだ。


 尻が痛いのを我慢して必死に耐えていた昨日と違って、今日は周囲の景色や風との対話を楽しむ余裕があった。


『楽しい……』


 僕は、馬に乗る楽しさが分かったような気がした――。


 ◇ ◇ ◇


 10分とかからず、フェリアはアーシュの走る速度を落とした。

 目的地に着くのだろう。

 前方は、少し上り坂になっていて、向こう側が見えない。

 アーシュの速度は更に落ちていき、今は歩くくらいの速度になった。

 そして、少し開けた場所でフェリアは、アーシュを停止させた。


「ここで待ってて」


 フェリアは、アーシュの手綱を僕に渡して、空中に舞い上がった。


「ちょ……」


 引き留める間もなく、彼女は空中を左前方に向かってスケートで滑るように走って行った。

 フェリアは、ミニスカートを履いているので、空中を走ると黒い下着が下から丸見えだった……。

 僕は、誰かに見られないかと余計な心配をする。

 おそらく、彼女は下着を見られても気にしないのだろう。


『……いや、彼女だけではなく、この世界の住人が皆そうなのかも?』


 モンスターが居て生死を賭けて戦うような世界では、下着を見られたくらいで恥ずかしがっていては、生き残れないのかもしれない。


【ウインドブーツ】の魔術を使っているようで、フェリアの疾走は凄いスピードだった。あっという間に丘の向こうに消え去ってしまう。

 馬のアーシュと一緒に取り残された僕は急に不安になる。


 ――フェリアが帰ってくる前にモンスターに襲われたらどうしよう?


 そんな不安を抱きながら、フェリアの帰りを待った――。


 ◇ ◇ ◇


 10分以上待った。

 すると、フェリアが丘の向こうから戻ってきた。

 高度を落として、僕のすぐ横から背後に回り込んだ。


「フェリア?」

「来るわよ」


 そう言って、彼女は僕の腋の下に手を入れて、僕を持ち上げた。


「わっ」


 僕はアーシュの手綱を放した。

 そして、クレーンゲームの景品のようにアーシュの左斜め前に降ろされる。


「さぁ、装備を換装して【戦闘モード】を発動するのよ」

「わ、分かった」


『装備1換装』


 僕は、戦闘用に組んだ『装備1』に換装する。

 僕の体が光に包まれミスリル系の武器や防具が装備された。


【戦闘モード】


「これを飲んで」


 フェリアが2つの小瓶を差し出してきた。

 緑の液体が入った小瓶と青い液体が入った小瓶だ。

 正直、飲みたい色の液体ではないが、魔法のポーションなのだろう。

 僕は、一つずつ受け取って飲んだ。

 ポーションは、意外と美味しかった。スッキリとした甘さの清涼飲料水のような味だ。


「今のポーションは?」

「『魔力回復薬』と『体力回復薬』よ」


 そういえば、フェリアに貰ったアイテムにもあったはず。

 でも、戦闘前に飲んでしまってもいいのだろうか?

 質問しようとしたら、フェリアが先に話し掛けてくる。


「戦闘の前に【ストレングス】と【アジリティ】を使ったほうがいいわよ」


 確か筋力と素早さを上げるための自己強化型魔術だ。


「分かった」

「来た」


 フェリアが来た方角を見ると丘を駆け下りて来る――【戦闘モード】を起動中なのでそれほど速度が出ているようには見えないが――人影が見えた。

 ボロボロの着物を着た女性だ。


「え? 女の人だけど……」

「ゾンビよ。もう、人間じゃないわ。殺してあげるのが彼女のためよ」

「……分かった」


【ストレングス】【アジリティ】


 僕は、ゾンビの女性のほうへ移動して【ストレングス】と【アジリティ】の魔術を起動した。

 少し体が軽くなった気がする。


【マジックアロー】


 ゾンビの女性を標的にして【マジックアロー】を起動する。

 既に射程圏内のようで、僕の前方1メートルくらいのところから、ゾンビに向けて真っ直ぐに線が走っているのが見える。


『発射』


 白い光の矢が僕の前方からゾンビに向けて発射された。

 ゾンビにヒットする。ゾンビは、少しだけ蹌踉よろけたものの、体勢を立て直して向かってくる。

【マジックアロー】がヒットした胸の辺りの着物に穴が空いたようだ。


【フレイムアロー】


 いろいろな攻撃魔法を試してみようと、次は【フレイムアロー】を発射する。

【マジックアロー】のときと同じように照準して発射すると、炎の矢が飛んでいき、ゾンビの女性の胸にヒットした。

 ボロボロの着物が燃え上がり、ゾンビの女性の乳房が剥き出しになった。


『しまった……戦いにくくしてどうするんだよ……』


 戦闘中に目のやり場に困るのは非常にマズイ展開だ。


【アイスバレット】【エアカッター】【ストーンバレット】


 魔法で倒してしまおうと、次々に魔法を発射する。

 しかし、残った着物の残骸を散らせるだけでゾンビの女性は死ななかった。

 ゾンビの女性は、僕の魔法攻撃で裸になってしまった……。


 ゾンビともなれば、弱い魔法では、倒せないのかもしれない。

 相手のHPが見えないので、どれくらい有効だったのかも分からない。

 自分の【体力/魔力ゲージ】を見るとMPが7割くらいまで減っている。

 魔法には、リキャストタイムがあるため、同じ魔法を再度使うためには、しばらく時間がかかるようだ。


 接近戦闘を行うため、更に前へ出る。

 ゾンビの女性の年齢は、30歳くらいに見えた。身長は、160センチメートルくらいだろうか。ショートカットの髪型で胸が大きかった。

 シミ一つない綺麗な身体をしている。陰毛なども無く、フェリアと同じように刻印を刻んだ女性の身体だ。

 フェリアほど完璧なプロポーションではないが、十分に魅力的な体つきだ。しかし、目に生気がなく虚ろな表情だった。


 裸の女性が相手では、戦いづらいかと思ったが、【戦闘モード】を起動しているせいか、あまり気にならない。

 冷静に女性の裸を観察している自分に驚く。


 女性は、右腕を振りかぶって攻撃してきた。

 思ったよりもずっとシャープな攻撃でヒヤッとしたが、【アジリティ】の魔術のおかげか何とか左に回避することができた。

 相手の攻撃を予測できたことも大きい。ゾンビの女性の攻撃は、腕を振りかぶることで所謂いわゆるテレフォンパンチになっているのだ。

 また、ゾンビの女性が腕を振りかぶった瞬間にどの辺りに攻撃が来るのか予測できた。

 もしかすると、【体術】のスキルの効果で攻撃が読めたのかもしれない。


 攻撃を躱されたゾンビは、体勢を崩している。


 ――チャンスだ!


 僕は、『ミスリルの打刀』を抜いて、そのまま攻撃した。

 居合い斬りのような抜刀攻撃だ。

 訓練したわけでもないのに自然と体が動いた。

 おそらく、【武器】のスキルによる恩恵だろう。


 ゾンビの女性の右脇腹に『ミスリルの打刀』の剣先がヒットする。

 ガツンという衝撃が刀に伝わった。

 そのまま、振り抜く。

 そして、左手を柄に添えて、右上から左下に袈裟斬りに二の太刀を見舞おうとした。


 ゾンビの女性は、振り向きながら左手を水平に振り回した。

 攻撃しようとしている僕の胸にゾンビの女性の左手が当たった。


 ――ガキンッ!


 僕は、その衝撃で後ろに吹き飛ばされた。


「ユーイチッ!」


 背中から地面に叩きつけられる。


【体力/魔力ゲージ】を確認すると、一撃で1/4くらいのHPが削られていた。

 4発喰らったらアウトということだ。自動起動するらしい【リジェネレーション】の魔術などで多少は回復していくため、4発では死なないだろうが、5発目で終わりだ。いや、確か一度は蘇生魔術が発動するとフェリアは言っていた。


 ――それなら、死に怯える必要はない。


 蘇生魔術が発動しても倒せなかったら、フェリアに任せればいいのだ。


『でも、それってカッコ悪くないか?』


 僕は、絶対に倒してやると思い、立ち上がった。

 今のは、調子に乗って連続で攻撃しようとしたのが間違いだった。

 慎重に戦えば必ず勝てるはずだ。フェリアは、そう判断してここに連れてきてくれたのだ。


 ――彼女の期待に応えたい。


 ゾンビの女性は、僕のほうへ向かって走ってきている。


【マジックアロー】


 近距離で魔法を当てる。

 魔法を喰らって少し蹌踉けたものの、ゾンビの女性は、すぐに体勢を立て直して攻撃してくる。


 ゾンビの女性が右腕を振りかぶった。

 僕は、先ほどと同じように左に回避する。

 そして、横薙ぎに刀を振るって攻撃を当てる。

 攻撃を当てた瞬間に後ろに飛んだ。

 ゾンビの女性が振り向き様に振り回した左腕が僕の前で空を切る。


【フレイムアロー】


 ――ボッ


 炎の矢がゾンビの女性に当たった瞬間、ゾンビの女性が白い光に包まれて崩れ落ちた。


『……終わった……?』


 僕は、呆然と立ちつくす。

 足下には、全裸の女性がうつ伏せに倒れている。


『人を殺した……。いや、彼女はゾンビだった。フェリアが言っていたように倒して眠らせてあげたほうが良かったはずだ……』


 僕は、刀を収めて【戦闘モード】を解除したあと、手を合わせて彼女の冥福を祈った――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ザザーッ……


 僕がフェリアの方へ移動していくと背後で音が聞こえた。

 振り返るとゾンビの女性が倒れている場所で地面から土がゴボゴボと吹き出している。


 ――ドサッ


 落とし穴の中に落ちるように女性の死体が地中に落ちた。

 地面には、四角い穴が空いていて、周囲に中の土と思われる土砂が積まれている。


 フェリアが穴に近づいて、足で土砂を穴の中に落としている。

 僕も手伝って穴を埋めた。


 ――ザッ、ザーッ……


 死体を放置すると腐敗するため穴に埋めているのだろう。もしかしたら、それ以外の理由もあるのかもしれない。

 フェリアに初めて会ったときにも草原の中でこうやってゾンビの死体を埋めたのだろう。


「埋葬するのは、死体が腐敗するから?」

「ええ、そうよ。それに、ゾンビになってしまった憐れな人たちを埋葬するのは当然のことだわ」

「なるほど……」


 僕は、もう一度、ゾンビになってしまった女性に手を合わせた――。


 ◇ ◇ ◇


 それから、少し場所を変えて、2体目のゾンビと戦った。

 2体目のゾンビは、男性のゾンビで灰色っぽい柄物の着物を着ていた。着物はよく見るとボロボロだった。

 長い間、野ざらしにされて、色褪せているように見える。


 先ほどと同じ要領で倒した後、フェリアが埋葬した。

 手を合わせて冥福を祈った後に魔術のリストを確認してみたら、精霊系レベル3の魔術が使えるようになっていた。


 レベル3の精霊系魔術が使えるようになって追加された魔術は、【ファイアボール】【ライトニング】【ウインドバリア】【エアプロテクション】の4つだった。

 まだ、解説を聞いていないが、【ファイアボール】と【ライトニング】は、ゲームでもよくある攻撃魔法なので、何となくイメージできる。


 フェリアに知らせようとしたら、彼女はそのまま空中に浮かび上がって走って行った。

 次の獲物を探しに行ったのだろう。


 僕は、フェリアの走り去った方向に少し歩いて、彼女を待つことにした。

 すると、彼女は、すぐに戻ってきた。

 ゾンビは、比較的近いところに居たようで、空中を走るフェリアを追って地上を走って来るのが見える。


【戦闘モード】【ストレングス】【アジリティ】


 僕は、【戦闘モード】と自己強化型魔術を起動して待ちかまえる。

 フェリアが高度を落として僕の後ろに回り込んだ。

 今度のゾンビも女性だった。

 髪の長い若い女性だ。


【ファイアボール】


 まずは、大技で攻撃することにした。

 使えるようになったばかりの【ファイアボール】を起動する。

 ゾンビの女性に向けて発射した。


 僕の前方1メートルくらいのところからバスケットボールくらいの大きさの火の玉が現れ、凄い速度でゾンビの女性に飛んで行った。


 ――ドォーンッ!


 バスケットボール大の火の玉は、ゾンビの女性にぶつかり爆発した。

 その爆発でゾンビの女性は、後ろ向きにひっくり返った。


 裸の女性が起きあがる。

 着物は、燃え上がって灰になってしまったようだ。


【ライトニング】


 すかさず【ライトニング】で追い打ちをかける。


 ――パリッ、ガガガーン!


 視界が一瞬青白く染まり、稲妻がゾンビの女性を貫いた。

 次の瞬間、女性が白い光に包まれて仰向けに倒れた。


 僕は、恐る恐る倒れた女性に近づいていく。

 ゾンビの女性は、大の字に倒れている。

 おそらく二十代半ばくらいの年齢だろう。

 死体には、腋毛や陰毛があった。明らかに普通の人間の死体だ。

 先の2回の戦闘では、死体はうつ伏せの状態だったし、死体を見るのは気が進まないのであまり見ないようにしていたのだ。


 僕は、手を合わせて冥福を祈った。

 顔を上げると同時に後ろからフェリアが僕を抱いた。


「なっ……」

「さぁ、少し下がって……」


 埋葬するのに邪魔だったようだ。

 僕は、フェリアに持ち上げられて少し後ろに移動させられた。


 ――ザザーッ……


 フェリアが女性を魔法で埋葬する。


 ――ドサッ


 僕は【戦闘モード】を解除して女性を埋めた。


 使える魔法を確認してみると、魔力系の魔術はレベル3の魔術が使えるようにはならなかった。

 何故、精霊系の魔術だけレベル3になったのかフェリアに聞いてみる。


「ねぇ、フェリア。どうして、精霊系の魔術だけレベル3の魔術が使えるようになったのかな?」

「それは、あなたの魔術に対する適性が魔力系よりも精霊系のほうが高かったからでしょうね」


 フェリアは、更に補足する。


「魔術の適性は人それぞれなの。確かに【エルフの刻印】では、精霊系魔術に対する適性が強化されるわ。しかし、持って生まれた適性も重要なの。あなたは魔力系の魔術も使えるから、魔力系の適性も高いわ。でも、【大刻印】で強化された精霊系のほうがより高かったということでしょう」


 つまり、魔術を使うためのステータスがあって、そのパラメータの初期値が僕の場合は、魔力系よりも精霊系のほうが高かったということだろうか?

 ただ、気になるのは、僕は今回の戦闘で魔力系の魔術よりも精霊系の魔術のほうを多く使ったということだ。


 今回の戦闘では、精霊系の魔術のレベルが上がる前に魔力系の魔術は、【マジックアロー】しか使っていないが、精霊系の魔術は、【ストレングス】【アジリティ】【フレイムアロー】【アイスバレット】【エアカッター】【ストーンバレット】を使った。

 明らかに精霊系の魔術を多用したことが分かる。


 ――熟練度制のようなシステムだとすれば、使った系統により経験値が入るのではないだろうか?


「フェリア、僕は今日の戦闘で精霊系の魔術を多く使ったんだけど、それは関係ないかな?」


 フェリアが驚いたような顔をした。


「そうね。もしかすると、あなたの言うとおりなのかもしれない。ただ、次のレベルの魔法が使えるようになるまでは凄く時間がかかるものなの。だから、精霊系の適性が高いということもあると思うわ」

「ゾンビを数体倒しただけで、次のレベルの魔法が使えるようにはならないってこと?」

「そうよ。100体でも無理でしょうね」

「なるほど……」


 確かにそれなら納得できる。


「どうする? この辺りには、もうゾンビは居ないようだけど、場所を変えて続ける?」

「いや、今日はもう止めておこう。MPが心許ないから……」

「MPって?」

「魔力のことだよ。マジックポイント」

「へーっ、物知りなのね」

「いや、僕の世界の用語だから、この世界では一般的じゃないだけだと思う」

「そうなんだ。じゃあ、帰りましょ」


 そして、僕たちは、アーシュに乗ってフェリアの家に向かった――。


 ◇ ◇ ◇


 フェリアの家に戻って、時間を確認してみると、まだ昼前だった。

 向こうで休憩して、MPを回復させて狩りを続ければ良かったかと思ったが、初日だし無理をする必要もないだろうと自分を納得させた。


 フェリアの家の玄関近くのテーブルが並んだ部屋に入った。

 フェリアが白い光に包まれて浴衣姿になった。


『装備2換装』


 僕も楽な服装に換装する。


「こっちに来て……」


 フェリアが入り口付近の左手にあるテーブルへ僕をいざなった。

 僕を長椅子にテーブルとは反対向きに座らせた。


 そして、フェリアは浴衣の前をはだけさせて、僕の後頭部に手を回した。


「フェリア、何を……ぶっ」

「さぁ、飲んで……」


 口に乳房が押し付けられた。僕に母乳を飲ませようとしているようだ。

 僕は、言われるがまま彼女の乳首を吸ってみる。


 ――口の中にフェリアの母乳の味が広がった。


「――――っ!?」


『なんだこれ……?』


 これまでに飲んだ、どんな飲み物よりもずっとずっと美味しかった。


 僕は、夢中になってフェリアの乳房を吸い続けた――。


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