悪魔の花嫁と蒼き死神

奏 舞音

プロローグ

『我は願う。この小さき国に大きな力を与えたまえ』


 不気味な静寂の中、朗々と響く声。

 古い神殿跡で、男が一人祈りを捧げている。

 彼は、小さな国の王だった。

 周辺国の圧力に押しつぶされそうな自国を、彼は憂いていた。

 そして、大きな力を求めた。

 彼が祈っているのは神ではない。神に捨てられた悪魔だ。

 彼の祈りで、長い眠りについていた悪魔は目覚めた。

 悪魔に力を望むならば、それ相応の代価を支払わなければならない。

 悪魔は小さな子どもの姿で彼の前に立ち、残酷な笑みを浮かべて言った。


 ――弱き国王よ。お前の小さな宝石を差し出すというのなら、望み通り周辺国をも呑みこめる強大な力を授けよう。


 国王にとっての小さな宝石は、生まれたばかりの娘。

 誰もが、王の娘を宝石に譬えた。ピンクパールの髪と、ルビーの瞳、パールのように滑らかな白い肌。

 将来はどれだけ美しい光を放つのか、国王も娘の成長を楽しみにしていた。

 しかし、彼は迷わなかった。悪魔の封じられた神殿に足を踏み入れた時点で、彼はなにもかも、捨てる覚悟はできていたのだ。

 国を憂う国王は、悪魔の条件に頷いた。


 そうして、周辺国に呑み込まれようとしていた弱小国は、自らを呑み込もうとしていた国々を瞬く間にねじ伏せ、強大な帝国となった。

 軍事力によって周辺国を従えたその帝国の名は、カザーリオ帝国。

 娘と共に心を捨てた国王は、冷酷非道の皇帝となった。

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