40話 俺の話術は策士以上
長い一日が終わり、ようやく俺は一人になる時間を与えられた。さっさと休もうと布団に潜りこみ、
誰だよ、もう、夜だぜ?
さっさと眠りたいんだけどな……。眠る事すら許されずに徹夜でハクハまで移動して、ようやく、休息を許可されたんだ。
つまり徹夜で一日頑張ったのだ。
それなのに……。
寝たふりをしてやり過ごそうと思ったのだが、ノックする音は次第に大きくなっていく。もはや、ノックと言うよりは扉を壊しに来たのではないかと思うほどの爆音。
眠れるわけがない。
俺は夜は僅かな光りも気になるほど神経質なんだ。
「あー、なんだよ! もう、分かったよ!」
睡眠を邪魔された俺は、荒げた口調と共にベットから飛び出し、扉を開けた。
「誰だよ、こんな時間に!」
叫ぶ俺の前に顔を見せたのは、三人のオジサマ方だった。
……いや、マジで誰だよ。
俺はてっきり、ユウランなのかと思っていた。もしくは、大穴で池井さんが俺を訪ねにきたのかも知れないと思ったが、どちらの予想も外れた。
正解は、顔すらも見たことのない屈強な戦士だった。
鎧を着ているところを見ると、彼らはハクハの戦士――つまりは騎士ということか。
三人とも、年齢は40歳くらいだろうか。
皆、疲れた目で俺を見ていた。
「えっと……どなたでしょうか?」
「……俺たちは『
それは鎧で分かっている。
俺が聞きたいのは、今、なんでここに来たのかと言うことだ。殺しに来るのは構わない。しかし、時間外に来るのはルール違反だろう。
もしかして、寝込みを襲いに来たのか?
なんとずるがしこい。
こういう時はさっさと退散を願おう。
急いで扉を閉めようとするが、一人の男がそれを許さなかった。名もない兵士とは言え、やっぱ、筋力勝負は不利だ。
俺は諦めてそっと手を放した。
諦めの早い男である。
扉から手を退けたことで、騎士たちは入室の許可を得たと思い込んだのか、ずかずかと円了もなしに俺の部屋に入ってくる。
まあ、借り物だからいいけどさ。
三人は外を警戒をして扉を閉める。そして、誰にも聞かれたくないと声を潜めて言う。
「なに、この場で君を殺そうってわけじゃないから、安心してくれ……。そんなことをしたら、俺達がシンリ様に殺されてしまう」
「そうなんですか……?」
だったら今すぐ帰ってくれ。
だが、彼らにも目的はあるようだ。騎士たちが人の目を盗んでまで訪ねてきた理由。
それは、
「だからさ、君に提案があるんだ」
俺にへの提案だった。
「……提案?」
「ああ。君にとっても悪い話じゃないよ……?」
うわー、滅茶苦茶胡散臭いー。
俺、ハクハの人間の言葉を余り信じられないんだけど。そもそも、
俺はそんな甘い言葉には乗りませんよ!?
帰ってくださいと、セールスに来た人間を突き返すように「興味ないんで」と断ったが、引かなかった。
こいつら、戦士よりセールスマンの方が向いてるんじゃないのか?
「話を聞くだけでもいいんだ。そうしたら、我々も諦めるからさ!」
「……本当でしょうね」
どうせ帰って貰えないならば、さっさと話だけでも聞いておさらばだ。
話半分に聞いて突き返してやるぜ!
「では、より興味を引いてもらえるように、君に取っての得を話そうか」
俺にとって得すること?
それは殺さないでくれることが一番なんだけれど、でも、そうしたら、この三人の目的が果たせなくなる。
やはり、分かり合うことは不可能だ。
さっさと退散してくれ。
話を半分聞くまでもなく答えがでた。
だが、オジサマ方は提案に自信がるのだろう。
怯むことなく言った。
「俺達の願いを聞いてくれたら、センジュ様に合わせてあげます」
「センジュ様って……!? 池井さんに会わせてくれるのか! ……でも、そんなことが出来るんですか?」
俺は池井さんを守るためにここにやって来たのだ。彼女をハクハから連れ出せれば、命令に従う理由はなくなる。
人質がいなくなれば、こっちのモノだ。
ま、だからこそ対策をされてるんだろうけどな。
万が一の可能性とは言え、ユウランは、カラマリ領が池井さんを連れ出すことを警戒しているのだ。
どこにいるのか分からなければ、連れ出しようもないからな。
ま、俺が一人でハクハから連れ出せる可能性は低いが、それでも念には念を入れているようだ。まあ、ハクハ領、そういう警備面は、ザルっぽいもんな。
来るものは拒むけど、去るもの追わずって感じかな?
大将のシンリは、自身が戦うことと、残虐な遊びを考えはする。が、それ以外には興味はない。自分が楽しめる事だけに特化した戦闘能力だ。
他の幹部は――、
カズカは最初から狂っているので問題外。
ミワさんはやる気がないから問題外。
となると、残ったユウランが面倒を見ている感じか。でも、それもサキヒデさんやジュウロウさんに比べると、数歩劣っている。
……毎度のことながら、サキヒデさんを褒めるのは尺だけど!
「ええ、出来ます。
「……」
俺は自由に生活をさせてもらっていたが、池井さんは違うのだろうか?
世話と言うからには、監禁――とはいかなくてもそれに近い目に合っているということなのか?
土通さんも先輩もその辺は何より自由だったからな……。
「興味が出てきたみたいですね……」
「まあね……。で、池井さんの居場所を教える代わりに、明日、あの下らない遊びが始まったら、俺を殺させろってわけか」
「話が早くて助かります」
さて。
どうしたもんか。
正直、このままシンリの提案した『経験値ゲーム』に参加しても、池井さんに会わせて貰えないだろうと、一日目にして俺は感じていた。
それに、いつまでも殺されるままなんて嫌だしさ。
ならば、ここでおじさま方の提案を受けたほうが、条件はいいか……。
しかし、「はい! 是非、お願いします」というのも、相手が主導権を握っているようで嫌だな。ならば、ここは俺が握らせてもらうか。
「……分かった。ただし、条件がある」
「条件……?」
「ああ。先に池井さんに合わせてくれ。実はさ、ユウランにもこのまま『経験値』として頑張れば合わせてやるって言われているんだよ」
「そんなの――嘘に決まっています」
いや、俺もその可能性は6割はあるだろうなとは思っていたけど、でも、それ、お前たちが言っていいのか?
ユウランはあなた方より立場が高いんでしょう?
ああ、だからこそか。
自分達より若くして幹部にいるユウランが憎いのか。
……なんだろう。
このおじさま戦士達が、『優秀な部下に抜かれた上司』に見えてきた。
だが、俺が言いたいことを自分から言ってくれるとは有り難い。
「そう。嘘かもしれない。けどさ、俺からしたら、御三方の提案も
「……」
俺の言葉に何かを考える。
考えると言うことは、交渉の余地があると言うこと。ここは畳みかけるのが吉だ。
「同じ条件だったら、立場が上なユウランの方が信用できるんだよなー。それに人の睡眠を邪魔するなんて、常識外れもいい所でしょ?」
「それは……」
「だから、ほら、先に合わせてくれるだけでいいんだ。なんなら、今からでも構わない」
「今すぐには……」
「そっかー、なら、残念だ。この話は無かったことにしよう」
なんてな。
いきなり、面会させて貰えるだなんて思ってない。
条件が悪いことを相手に印象付けて、俺に取っていい話に転がそうとしてるのだ。
「少し待ってもらえないか?」
三人がこそこそと話を始める。
相談してるのか。
うむ。
いい感触だな。
落ちるまでもう一押しか。
「いやー、実は他の人からも似たような提案受けてるんだよねー」
白々しい嘘を付く。
だが、彼ら自身が極秘で来ている身だ。
「……分かった。その条件を飲もう」
「マジか!?」
はっはー。俺すげー。
サキヒデさん以上の策士を名乗ってもいいんじゃないか?
実は俺、交渉の才能あるんじゃないの?
『交渉人 沙我 良太』として映画作れるんじゃないの!?
「確かにあなたの言う通りだ。だが、今すぐにという訳には行かない。明日、またあのお遊びが始まったら案内する」
「出来るのか……?」
味方の一人が心配そうに聞いた。他の騎士たちの眼を欺き、池井さんの元に辿り着けるのか心配なようだ。
だが、リーダーと思えし男は力強く頷く。
「大丈夫だ。見張りもいなくなるはずだし、幹部たちもあの場所に行くとは思えない。もしいたとしても俺達が、上手く誘導すれば少しの時間はなんとかなるさ」
「……」
うーん。
必ず会えるわけではないか。しかし、居場所が分かるだけでも儲けもの。例え失敗したとしても、ただ殺されるよりはマシか。
多くを求めて何も得ないよりは、確実に結果を得たほうがいいか。
「分かった。いいだろう」
「本当か!? 良かったー。これで俺達はシンリ様たちに殺される心配がなくなるな!?」
「……」
幹部たちに殺されなくて喜ぶ。
恐怖政治を目の当たりにして、少し複雑になる。
そして、それは成功しているわけだし。
「では、明日お願いします」
三人の騎士は去っていった。
彼らが入って来た時とは正反対の気分だ。意気揚々と手を振って見送りまでしてやったぜ。
オジサマ方も苦労しているんだな。裏で手を廻して、年下の間の手から逃れようとするんだもん。どこの世界も出来の良い部下を持つと大変なんだな。
その、まあ、頑張れ。
俺も、そうならないようにしないとな……。
ともかく、俺は俺だけの『話術〈ちから〉で池井さんに辿り着く方法を入手した。
見たか!
俺はただの『経験値』じゃないんだよ!
やれば出来るんだよ!
今度、カラマリに戻ったら自慢をしてやろうと、俺は得意げに眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます