5.26「alice in rainyland」#21



帆船など知らなかったチェシャのほうが、こ

の帆を風に膨らませた船を上手に駈った。雨

の国を出るために風の言うままに船を走らせ

た。風が尽きるところに、この国の涯がある

。大きな宿屋はそう言った。雨も風も止むこ

とはない。私たちはたまに休み、食べ、話を

した。チェシャの話。私がいたところの話。





チェシャのパパの名前はトムだった。一人目

のトムだ。ママは猫人だった。ずっと前に二

人ともいなくなった。「ここはどこだろう」

チェシャが言う。「多分、今まで居たどこよ

りも居たいところ」私は答える。チェシャが

湖に飛び込む。水面に浮かんだチェシャは魚

を手にしている。辺りの水に血の赤が滲む。



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