9.27「élément」




書物の最後のページを閉じて建物を出る。空

は優しい雲に覆われて、冷たくも温かくもな

い風が吹いていた。大気は昼を失い、夜に溶

け始めた。初めて足を向けた道は木立に縁取

られ、小さな川へと続いていく。読み終えた

本の世界。あちこちで、光に息を潜めていた

ものたちが、闇を纏う前の姿を見せていた。





―――――――――――――――――――🐈





良い小説を読み終えた後は、歩きながら余韻

に浸りたい。何回読んだかわからない、と薦

められた『異邦人』と現実の狭間で、神を持

たない全ての人が贖われたかのように錯覚し

ながら教会の前を通り過ぎた。感想を聞かれ

て、救われた気がしたと答えた。彼は、どん

なきもちで何度も繰り返し読んだのだろう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る