第19話:幕間:とある管理人のカチカチカチ

 カチカチカチカチ。真っ暗な部屋の中、液晶モニターのみが光を放っている。

 どれだけのクリックに、このマウスは耐えられるのだろうか。

 この数時間ですでに1つのマウスが壊れ、床に打ち捨てられている。


_________



 大物新人プレイヤーがスペックスからデビューするという噂を目にした瞬間から、私はただひたすらに更新ボタンをクリックし続ける機械となった。

 誰よりも早く新人とのプレイを体験し、自ら運営するサイトへとレビューを投稿したい。噂によると、オーナーであるあの協会長自らがスカウトしたとか。これは期待大よ!

 私の女優アクトレスランクはA、今までに相当な経験と時間とお金を積んで来た。

 期待の新人プレイヤーと言えども、最初は当然F。

 私のアクレトレスがランクAであっても、ランクFのプレイヤーが相手では大好物である異世界・異種族シチュエーションは選べない。

 それでも何故私は更新ボタンを押し続けるのかって?


 これも一重にプレイヤー達に対する愛よ!自己顕示欲でしょ?と言われればもちろん否定はしない。

 私がみんなを育ててあげるのよ。ほら早く私を踏み台にして、ランクの階段を駆け上がるのよ!

 そして私はサイトにこう書き込むの、あのプレイヤーのデビュー相手は私なのよ!と。



 カチカチカチカチ、座り続けて10時間近く経った。その間一度としてパソコンの前を離れなていない。

 大丈夫、あと20時間以上は戦える。ご飯?いらない後でいい。風呂?プレイに向かう直前でいい。

 今は何より予約、私は予約を狙うだけの機械なのよ!



 そしてついにその時が来た、目に焼き付いた画面が一部揺らぐ。



 キターーー、プロフ公開オープンキターーー!予約!予約!最短の予約!明日⁉よっしゃー!内容?なくて結構!!男女がただ出会うだけで物語は進むのよ!私がリードしてあげちゃうわ!大丈夫よ心配しないであなたはただ座っているだけでイイのよ?予約確定キターーーーー!!!!!



 ふー、ふー、落ち着け深呼吸、一瞬意識が飛んでたみたい。

 大丈夫私はAランクアクトレス。予約は取れた、会うより先にサイトへ彼のプロフ情報をアップしなければ。それが私の使命だもの。

 まずはプレイヤーネーム、ん?何か変な名前ね、厨ニ病患者かしら?

 センスないわー、でもそこがイイ!かも。あ、ホッとしたら催してきた、トイレ行こう。


 さて次は、身長が……、ダメな寝るな!世界に先駆けて彼の情報をアップするの!それが私の使命なんだから!!!

 カチカチ、イヤー何でー⁉マウスが効かないじゃない!使えないわね、何よこんな物、壁に向けてとりゃー!


ガン!ガン!!バタっ。



_________



 壁に投げつけたマウスが彼女の側頭部目掛けて跳ね返り、彼女の意識を刈り取った。

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