44話 本当の気持ち
「そういや、佐々木さんに話しかけたりしたか?」
定期試験が終わり、一安心したと思えばこれだ。約1ヶ月、できる限り他人と距離を置き、高校生活を送っていた。練二は他の友達と仲良くしつつ、僕のところへ来てくれる。
そして、いろいろな気遣いをしてくれる。ここまで心配されたのは初めてだった。放っておけばいいのにと思う反面、心配されて嬉しくも感じた。今では、彼が唯一の心の支えになっていた。
「そんな......。僕とは不釣り合いだよ。近づいていい存在じゃないと思う」
「啓太ってさ、本当に真面目だよな。それに、過去のこと気にしすぎじゃない? もっとさ、欲望のまま生きろよ。亜香里のこと好きなんだろ? 青春したっていいじゃないか」
「そ、そうかな......」
少し気持ちが揺らいだ。かといって、話しかける勇気があるわけではない。
「でも、僕には話かける勇気なんてとても......」
「なら、俺が手伝うよ」
自信満々の笑み。練二と話しかけたらむしろ、彼に好意が向けられそうで怖い。
「いや、大丈夫。こんなところで勉強以外のことに熱中しない方がいい気がするから」
「本当にそれでいいのか? 今を逃したら他の人と結婚することになるかもしれないんだぞ?」
強制結婚制度。少子化防止のために作られた制度のことで、未来機関が使っている未来予知の技術で相性の良いパートナーが選ばれる。そして、結婚させられる。ただし、既に結婚相手がいるのであれば、その制度を無視することができる。
今しかできない恋。少しでも遅れれば先着者が現れるに違いない。諦めるのが妥当。忘れることが大事。
「選ばれた人ならきっと、僕と一緒にいても幸せでいられる人なんだよ。だから、僕は出来る限りの不幸を生まないために、その制度に従おうと思うんだ」
「......そんなことしたら後悔するだろ。たしかに、幸せになれるんだろうけど、今しかできないことだってある」
「たしかにそうだ。けど、彼女だって今しかできないことがある。それを邪魔するのはよくない」
「屁理屈言うなよ。まぁ、無理に話しかけさせるわけにもいかないし......。気が変わったら言ってくれ。手伝うからさ」
「そうだね。その時はよろしく」
素直になれない。心では佐々木さんと話したいと思っている。でも、頭では僕が不幸を運ぶことを恐れて近づきたくないと思っている。僕のくだらない欲望のせいで彼女を不幸にさせたくない。
こんな気持ち、邪魔でしかない。純粋であれば、まだ可愛がれる気持ちかもしれないが、僕のそれは明らかに下心も含まれていて、汚れている。
こんな僕を誰が許すだろうか。
「そうだ。最後に一つだけ忠告」
練二は急に険しい表情になった。
「佐々木さんはどうか分からないけど、佐々木さんの友達は性悪で有名だ。だから気をつけろよ」
「わかった。気をつける」
僕はその言葉をあまり気にせず右から左へと流した。だって、佐々木さんが性悪なわけがない。普段ばら撒く笑顔に裏なんてないし、そもそも友達と本人の性格に関係はないからだ。
今日はバイトの日であるが、最近は脳裏に佐々木さんがこびりついているせいでボーっとすることが多くなった。まさか、無心になれるはずのバイト中でも忘れることができないとは。恋は人を狂わせるというのは本当なんだな、と実感した。
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