42話 卒業式
1つ上の卒業生に紛れて椅子に座り、なんの違和感もなく卒業式は行われた。滞りなく進む式が、まるでここから出て行けと言って追い出しているようだ。
クラスメイトや知り合いがアーチを作り、その下をくぐって校門へ導かれる。特に惜別の情を交換する友達もいなければ、バイバイと手を振る友達すらもいない。
家の整理がまだ終わっていないからと自分に言い聞かせ、帰り道をひたすら歩いた。そして、アルバイトの時間まで荷物を整理した。
部屋も質素な家具のおかげでそこそこ見た目が良くなったころに、アルバイトの時間を告げるアラームが鳴った。
お客さんがほとんどいない店内を掃除する。あと5分もしないうちに満席になるのはいつものことだから、今のうちに掃除をするのだ。
「そういや、中学校は今日卒業式だったんですよねぇ? 飛び級するってのに、友達と一緒にお別れパーティー的なことしないんすか?」
先輩は机を拭きながらそう言う。正直、痛いところを突かれ、反応したくないのだが。
「僕、もともと友達少ないんで大丈夫です」
自分で言っておいて、勝手に傷つく。胸がチクリと痛む。なんだろう。最近はなんだか、自己嫌悪になる時が多い。自嘲気味な口調も、嫌なのにどうしようもない。
コーヒーのいい香りが店内に充満する。それに釣られて店へ入ってくるお客さんが増える。注文が入り、いくらか動けばいつの間にか店内はたくさんの人で賑わっていた。
次々と注文が入り、忙しすぎて他のことを考える余裕が無くなった。その時が、僕にとってどれほど貴重な時間であるか。
懸命に働けば、仕事が落ち着くまでは早いもので、気づけば店の閉店時間。帰り道は疲れが襲うのと同時に、自己嫌悪も最高潮になる。仕事をしている間楽だったことが嘘だったように、憂鬱が訪れる。
今にも闇夜に溶けてしまいそうなほど胸が裂け、生きている実感を失う。
僕はなんのために生きているのだろうか。このままじゃ、高校に行っても死んでいるのとなんら変わりないのではないかと思った。
「はぁ」
ため息はヒッピーな街に吸い込まれる。
卒業式の時に見た亜子と練二。彼らも僕と同じ高校に合格し、晴れて高校生になる。そんな彼らの卒業式はとても楽しく悲しいものに見えた。
亜子が友達と涙を流しながら楽しそうに会話する様子を思い出す。元々友達の少なかった亜子は中学校になって、明るく元気な美少女という立ち位置を確保した。僕が彼女の命を危険に晒した時、僕は恐ろしいほどの陰口をたたかれた。
練二は愛想の良さと面白い性格が異性問わずに好評である。そのため、たくさんの人に囲まれてワイワイしていた。
僕はこの2人が羨ましかった。ずっと1人だっから。でも、2人のようになるのは、もう無理だ。だから、この2人を見るたびに自分が嫌になる。自分を見失うというか、足を引きずられるというか。気後れしてしまうのだ。
制服を着た女子が前方から歩いてくる。こんな夜中なのにどうしたのだろうと思ったが、今の僕には話しかける勇気なんてなかった。
街灯の明かりに照らされ、彼女の顔が見えた瞬間――僕は彼女に恋をした。
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