汝、人狼なりや?

ソラ

汝、参加者也

 青年は目を覚ますと、見知らぬ一室のベッドの上であった。

「え……?」

突然の出来事に理解ができず、身動き一つしないまま数十秒困惑し続ける。

自身の記憶に手がかりを探してみるものの、思い当たる節はない。

それどころか昨日何をしていたのか、そもそも何時自分が寝たのかすら朧気で、言いようのない不安感に駆られ背筋を凍らせた。

「これ以上考えるのはよそう。とりあえず、だ。ここはどこなんだ一体」

青年は自分に言い聞かせるように敢えて口に出して、自らを奮い立たせていた。

 一通り部屋を見て回ったが、ここが何処なのかを示すヒントは見当たらなかった。

窓が一切無いことを除けば至って普通のホテルの個室の様な家具が並ぶ。

しかし、椅子、机、モニター、小物類に至るまで乳白色一色に染まり、なんの模様もない一面の壁は距離感を酷く歪ませている。

 調べ終え、沈黙を続けるこの部屋唯一の出入り口へと近づいたその時だった。

[みなさま、おはようございます]

[私、今回のゲームマスターを務めさせて頂きます、【クラウン】と申します]

その声は唐突だった。感情の起伏を感じさせない無機質な声に、不安の募らせた青年の神経は大きく揺さぶられる。

声に誘導されついさっきまで開かなかったドアをくぐると、その先には大きな空間が広がっていた。

[まずは正面の大きなモニターをご覧下さい]

老若男女、様々な人が広間に集まっていた。

[これからみなさまには、とあるゲームをして頂きます]

青年は状況を理解出来ぬまま、クラウンの声に耳を傾けるほか無かった。

[その名も、【人狼ゲーム】!]

モニターに大きくタイトルが現れる。

赤い背景に黒の文字で表示されたそれは不気味なホラー的演出であった。

[それでは簡単にルールを説明させて頂きます]

「ちょ、ちょっとまてよ!なんで俺がそんなもんに付き合わなきゃいけねーんだ!」

 抑揚が抑えられたクラウンの淡々とした説明を遮るように、1人の金髪男が声を荒げ、その勢いに数人の若い男女が同調する。

「そうよ!目が覚めたと思ったら知りもしない場所で、突然ゲームしろだなんて!意味がわからないわ。貴方頭おかしいんじゃないの?!」

[……]

理解出来ない状況、理不尽な要求、意図の読めない不安。ゆっくりと、今にも肩にもたれかかろうとする恐怖を払いのけるかのように、男女達は強い口調でクラウンを責立てた。

しかしクラウンはその言葉に反応することは一切なく、青年はかえってそれが不気味に感じていた。

思いつくばかりの事を言い尽くしたのか男女達の語気は次第に萎え、ひとり、またひとりと口を閉ざしていき、彼らもまたクラウンの不気味さを体感していた。

[ご満足頂いたところで、説明を再開させて頂きます。ルールへの質問は後ほど時間を設けておりますので、暫くお待ち下さい]

まるで何事も無かったかのように、説明が始まった。

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