237.煮込み料理にチョコ!

 







 ◆◇◆









 チョコがなんで煮込み料理!


 と思うも、僕は昨日食べたカレーを思い出してすぐに考えを改めてみた。



「フィーさん、これカレーの隠し味にするんですか?」

「ううん? 二日連続でカレーはしないよ? ちゃーんと煮込み料理! って言ってもキアルは全部使わないけどー」

「そ、それでもココルルのようなのを、煮込み料理にです、の?」



 アナさんがびっくりするのもわかる。


 料理をしない人にとっても、デザートメニューじゃなしに甘い物を料理に使うなんて考えられない事が多い。


 僕が口にした通り、カレーにも隠し味なんかに入れるのは日本で聞いた事があるけれど……やっぱり二日連続で同じメニューにはしないようだ。


 ただ、そうするとどんなメニューなのかが余計に想像しにくい!



「まずカティアにはー、マロ芋の皮むきお願い。アナもせっかくだから、これ・・使って皮むきしようか?」

「まあ、このように小さな道具でも?」



 フィーさんがアナさんに渡したのは、蒼の世界じゃお馴染みの皮むき道具『ピーラー』。

 包丁ほどじゃないけど、たまに手の皮も剥いちゃう事があるからアナさんには十分注意してから持たせました。


 お芋は全部土は洗ってあるので、僕は包丁、アナさんはピーラーを手にいざ!



「僕は肉の処理とかしてるからー」



 それと、僕には野菜を追加で切って欲しいとお願いして、大きな冷蔵庫に行ってしまわれた。


 野菜の方は、玉ねぎアリミンとセロリのようなの。これを1cm角のカットでいいそうです。



「素晴らしいですわ! 包丁も使わずに皮が綺麗に剥けます!」



 皮むきが楽しくなってきたのか、アナさんはウキウキでマロ芋の皮むきに熱中。僕も、体の大きさに合わせた包丁でスルスル剥いていくよ?



「まあ、カティアさんはそんなにも薄く、長く」

「一人で住んでた時も、ピーラーよりこっちが多くて」



 職場でも、修行の一環としてピーラー禁止で包丁で剥いていましたとも。


 用意されてたマロ芋は、変色防止とデンプンを抜くためにこれまたフィーさんが置いてくれてた水のボウルに入れておく。


 カットの指定はまだ言われてなかったので、ひとまずそんな感じで皮むきをしていった。


 アナさんと集中しながら作業を進めていけば、コンロの方から酸っぱくも甘くていい匂いがしてきたよ?



「この匂い……多分ダイラですね」

「セリカのクッキーですわね? あのクッキーは本当に美味しかったですわー」

「そうですよね!」



 あのお祭り以来は、結局食べられなかったセリカさんのジャムクッキー。


 お土産に買った分ももちろんいただいたが、枚数が限られてたので数枚しか食べてない。甘過ぎず、くど過ぎずのジャムにサクサクのクッキーがマッチしていくらでも食べかったくらいだが。


 それは今日たくさん食べられるのだから、嬉しくないわけがない!



「デザートは僕も少し作るんです……あ、忘れてた!」

「どうされましたの?」

「ディックさん達にも、デザート作るんでした!」

「まあ、それは大変ですわ。こちらは進めておきますのでお気になさらず」

「お願いします!」



 そんなにも難しくないから、フィーさんにも一度断りを入れてから取り掛かる。


 用意するのは、ディックさん達が好物の果物『プアル』以外に、ゼラチン、砂糖、水、生クリームにレモン汁。



「まず、プアルをピューレ用とカットして入れるのに分けて」



 かなり柔らかいから、切るだけのもほとんど手で出来ちゃうくらい。それをバットに分けて、ピューレは魔法で撹拌。


 ゼラチンを分量外の水でふやかしてる間に、ピューレにしたプアルを鍋に水と砂糖と一緒にさせて……だいたい60度くらいまで温める。


 そこにふやかしたゼラチンを、火を止めてから加えてよく溶かす。


 これを目の細かいザルで濾して、ボウルで冷ましてる間に器の準備!



(六十人くらいいるから頑張んなくちゃ!)



 見つかったのは、金縁がついたガラスの器。


 これはよく使うそうなので、軽く布で拭いてから調理台に全部並べる。ここからが時間勝負だ。



「先にカットしたプアルを底に入れて……」



 液を入れる前に生クリームをよく混ぜ込み、出来たらゆっくりとレードルで器に流し込む。



「まだまだ時間はかかるし、これを冷蔵庫……と行きたいけど」



 いくらフィーさんの家の大容量冷蔵庫でも入れておくのが大変そうだったから、ここは冷蔵庫温度の結界を張る事に。


 メインの料理が先に出来ても、また冷却の魔法で固めればいいから大丈夫。


 アナさんの手伝いに戻ろうとした時、彼女の方から声が上がった。



「いった!」

「アナさん!」



 どうやら、あと数個のところでピーラーで切っちゃったらしい。


 絆創膏はこの世界にもないし、僕は治癒の魔法が使えない。だから、フィーさんを呼んできて、急いで怪我を治してもらった。



「ほい、っと。やっぱりそれでも切っちゃうかー、アナもう見学しておく?」

「……そうですわね」



 セリカさんのクッキーも仕込みはほとんど終わってるし、手伝えてもあとはサラダくらい。


 せめて、野菜をちぎるのだけはお願いする事になり、僕はフィーさんと一緒に煮込み料理だ。



「まずは切ってもらった野菜とオラドネをオリーブ油リンネオイルでしんなりさせるまで炒めてー」



 その間に、僕は肉を焼くのをお願いされた。


 なんのお肉かはわかんないけど、見た目豚肉な感じ。


 これを全体的に焼き色が付くまで焼けばいいみたいです。用意してもらった台の上にしっかり乗り、慎重に焼いていく。



「そっちには、あとで赤ワインポワゾン酒入れるから」

「なんか、デミグラスソース作りに似てますね?」

「うん、ちょっと近いかも。けど、煮込んだ材料をカッツとか白いソースを乗っけて焼くんだよ。レイ兄様に教わったんだけど、結構美味しくてね」

「レイアークさんが?」



 意外にも、神様が自炊……。


 いやいや、フィーさん自身が料理作れるんだから、そのお兄さんが料理作ってても不思議じゃない。


 けど、セヴィルさんに似たお顔で料理……うん、不思議じゃなくても想像しにくいです。


 そんな雑談をしながらお肉を焼いていけば、いい色になってからフィーさんと交代。フィーさんはいかにもお高そうな高級ワインを瓶の半分くらい投入!


 アルコールを飛ばすと同時に鍋底の旨味をこそげ取るにはこの方がいいそうな。



「これを、僕が使ってた鍋にぜーんぶ入れて!」



 それと調味料各種に、トマトのペースト、さらにお水を入れてひたひたにさせたら二時間近く煮込めばいいそうだ。



「よーし、この間にソース作りしよう!」

「はい!」



 途中で時間操作はするらしいが、出来るだけ時間に任せて作りたいそうなので。その間に他の作業に取り掛かろうとしたら、扉の方からノックが。






 コンコン、コンコン。






「まあ、どちら様でしょうか?」



 アナさんが手すきだったので開けてもらうと、何故か彼女が大声を上げてしまった。



「さ、サイお兄様! どうなされましたの?」

「……いや、ちぃっと……聞き回りながら……走ってた」



 何か緊急事態!、と僕は慌てかけたのに、フィーさんに口を手で塞がれたので喚けない。



『大丈夫、きっといい事だから』



 小声とウィンクでそう言われると黙ってるしか出来ないじゃないですか。


 セリカさんも気になってるけれど、僕とフィーさんが見守る態勢になったのでこっちにやってきた。



「…………アナ、今少し出ても大丈夫か?」

「わ、わたくし?ですか?」

「少し、話がある」



(ふぉおおおおお、これはもしかしなくとも告白イベント!)



 叫びたかったけど、もちろんお口チャックしましたとも!



「いいよー? アナに頼んだモノは全部終わってるから」



 追い打ちをかけるように、フィーさんが外堀を埋めていかれる。


 当然、アナさんは肩を大きく揺らしてしまい、焦り出した。



「わ、わわわ、わたくし、お話、など!」

「俺にはあるんだ。じゃ、連れてくぜ」

「はいはーい。二刻以内には戻ってきてね? それくらい時間かかるから」

「充分だ。んじゃ」

「お、お兄様!」



 煮込み料理の時間は本当だから、フィーさん嘘はついてないもの。


 僕も一緒になって手を振っていると、サイノスさんは無理くりアナさんの肩を掴んで引きずりながら出て行ってしまう。


 残された僕達は、扉が閉まると一斉に喋り出した!



「これ絶対サイノスさんからの告白ですよね!」

「でしたら、フィルザス神様。御名手みなての習わし通りに、儀式も?」

「ふっふっふ。頃合い見計らって、僕ちょっと抜け出すけど。カティアは鍋の心配いらないから、セリカとお茶でもしてて?」

「はーい」

「わかりました」



 きっと、エディオスさん達が焚き付けてくださったに違いないけども。


 カップル成立になったら、計画が一部遂行出来ちゃう!


 セリカさんとエディオスさんは難しいかもだけど、出来れば成就してほしい。


 そう思いながら、フィーさんが出ちゃう前にセリカさんも加わってお昼ご飯を作っていく事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る