185.ただの孫馬鹿

 

「「フォックスさん!」」

「ふゅぅ!」

「よ、元気そうだな?」


 久しぶりにお会いするフォックスさんはちょっとお疲れ気味ではあったけど、さっきまでお仕事だったのかな?


「残念ながら現在進行形で仕事なんだよ」

「へ?」

「聞きたそうなことが顔に書いてあっからなぁ?」


 僕は、本当に隠し事が出来ないみたい。


「お仕事、と言うとレストラーゼさんの護衛ですか?」

「そっちはさっき交代させられてな? フィルザス神様がそいつら全員伸したから誰も使いもんにならんくなったんだ」

「「え」」


 フィーさんが『お願い』って言ってたのは強行手段と言う名の成敗?だったんだ。

 と言うことは、今もレストラーゼさんの頭を軽く叩き続けてるあのハリセンで実行したに違いない。

 以前一回しか見てないが、セヴィルさんを張り倒したくらいだもの。


「っかし、先先代にもバレちゃうとはなぁ?」

「フォックスさんは、知ってたんですか?」

「セリカちゃんが知らないのも無理ねぇよ。俺は、暗部でも特別な地位にいるもんでな? カティアちゃんの秘密は唯一知ってんだ」

「そうですか……」


 僕も式典の時に聞いてなきゃ焦ったけれど、事前に知っている人だから安心はしている。

 だけど、


(レストラーゼさんは、やっぱり別だもの)


 ラディンさんの時は親身になってくれてたけど、それは事情を知らなかった一個人として。

 その正体が元神王様でエディオスさん達のお祖父さんとわかってから接触がなかった分、次からどう接していいのか迷っていた。


(だって、本当に……本当に、せ、セヴィルさんと結婚したら、この人が僕のおじいちゃんに⁉︎)


 なんだよそれ!とか久々にツッコミ親友の調子を思い浮かんでしまうが、だってそれしか思い浮かばない!

 セヴィルさんにはきちんと告白されて、僕自身はまだ気持ちが曖昧ではっきりしてない状態。だけど、御名手と言うのはフィーさんに認められてるから実質的な婚約者。

 その事実を、セヴィルさんやエディオスさんのお身内の方に知られれば、どう言う反応が返って来るか不安にもなるが、同時に家族にもなるって事実にどきどきしてしまう。

 そのうちの一人にこうして知られてしまった今、レストラーゼさんはどう反応するのだろうか。

 さっきのだけじゃまだ半信半疑なところがある。


「反省、してるの? れーすーとー?」


 聞きたくても、まだ進行形でフィーさんがお説教中です。

 あの雰囲気の中、率先して割り込める人はフォックスさん込みでこちら側にはいない。


「……反省は、しておる」


 レストラーゼさんの言葉に、僕らはごくりと唾を飲み込んだ。


「じゃが……じゃが」

「レスト?」

「か……」

「か?」

「孫達のように可愛い子が本当に孫になるかもしれんのじゃぞ⁉︎ いくらか予想はしておったが、事実と知れば喜ばずにおれる、へぶ⁉︎」

「……ぜーんぜん、反省してないねぇ?」


 堰を切ったように語り出したレストラーゼさんの言葉を、最後の方にハリセンでフィーさんがはっ倒しました。

 当然、レストラーゼさんは床にお顔をごっちんこ。


「はぁ……レストだからまだこれくらいで済むけど、ディオ達だとどーなるか。絶ぇ対、言うんじゃないよ?」

「……何故じゃ」


 まだ懲りてないのか、レストラーゼさんは突っ伏したまま聞き返した。


「ディオはまだぽややんしてるからいい方だけど、ディアの方が大変なんだよ⁉︎ 特にセヴィルの母親なんだから問い詰めてここに来ようとするだけで済まないんだからね?」

「……そう、じゃった」


 あ、レストラーゼさん動かなくなっちゃった。


「……せ、先先代にああも啖呵切れるのって、やっぱフィルザス神様しか無理だな」

「フィーさんくらいですよね……」


 見た目中学生でも、唯一神って存在であるから余計に。


「あ、フォックス居たんだ?」

「気づいてなかったんスか?」

「これ言い聞かせるのに集中してたしねー?」


 これ、と指したレストラーゼさんは昔ツッコミ親友が教えてくれた『ごめん寝』って姿勢で突っ伏したまま。

 お歳だから腰に来ないか心配だけど、フィーさんが近づけないようにオーラを放ってるから遠目にしか無事を確認出来ない。


「あ、御名手について話しててもいいよ? これはもう仕方ないけど、結界張ってあるから外には聴こえないよ」

「俺が入った後っスか?」

「まあ、君くらいは来るかなぁって思ってたし」

「一応仕事っスからね」


 フィーさんが神様だからか、砕けた物言いではあっても敬意はちゃんとされてるみたい。

 エディオスさんは一応仕えるべき人でも、子供の頃から見てきた相手だからお父さんか親戚のおじさんって感じだったもの。


「……なんじゃ、フォックスは知っておったのか」


 レストラーゼさんがむくりと起き上がって、服のシワをパンパンと払った。


「陛下には口止めされてましたしね。暗部でも、俺しか知りません……が、今回のことであと何人かは知っちゃいましたが」

「それは大丈夫だよー? あの子達にはこれ叩きつけたと同時に記憶削除しておいたから」

「……それは、どーもっす」


 さすが神様。なんでも有りなんだ。


「ならば、秘匿にせねばならぬ事情は儂が聞いても良いのじゃろ? でなければ、それを叩きつけて儂の記憶からも抜き取るのはフィーには容易かろうに」

「まぁね?」


 そう言ってから、フィーさんは手品のようにハリセンをどこかに隠してしまった。


「エディ達が隠し続けてても、ただの客人……しかも、成人以下の幼子をずっと城に置き続ける理由にしても限界がある。上の子達もそろそろ何か探って来るだろうしねー……だから、カティアと少し交流のある君ならまだいいかなぁって。あと、カティアの目も見ちゃったでしょ?」

「あ」


 そう言えば、普通に過ごしてたから変装魔法なんてかけてない。

 レストラーゼさんも普通に接してくれてたから、すっかり忘れてた。


「そうさの。その目は奇異より神聖化の証として見られる可能性が高いな? 完全に排除出来とらんのは悔やまれるが、カティアちゃんを利用しようと狙う輩も出て来んと限らん。そこは、今の儂よりもエディらの仕事だからな」

「それをさせねぇように、俺らも動いてるっスよ」

「そうじゃな。セリカも戻って来て、何もないわけがないからのぉ……ああ、すまぬっ、セリカ。そう泣くでない!」

「え?」


 僕も気づかなかったのでセリカさんを見れば、大粒の涙をポロポロと溢れさせていた。


「す、すみません……自分の事は父達に注意されてたのですが、カティアちゃんの事を思うと」

「ぼ、僕ですか?」


 僕なんかの事で泣く程だろうか?

 セリカさんは少し泣かれてからハンカチで綺麗に涙を拭った。


「ええ、そうよ。ゼルお兄様の御名手と知られる前からお兄様が唯一気を許した幼子として注目されているし、式典中にはイシャールお兄様達をお手伝い出来た神童とまで広まっているのよ? 只者でないと知れ渡ってる今、カティアちゃんにだって魔の手が伸びないとも限らないわ」

「し、神童だなんて大袈裟ですが……」


 中身を除けば、ただの子供料理人でしかないと思うのだけれど。


「いや、セリカの言う通りじゃよ」

「レストラーゼさん?」


 これにはフォックスさんも苦い顔をされていた。


「その歳でティラミスや他の料理をそつなくこなせる技量。しかも、大半が料理人ラディンとして名を知られている儂以上のモノばかりじゃ。フィー、この子は何者なのじゃ? ゼルの御名手にしては外見が中身と不釣り合い過ぎる。本当は、セリカくらいの女性ではないのか?」

「最後は正解。元に戻すにも、封印が厳重になったから戻せないんだよ」

「ほぅ?」


 フィーさんも当てられたのと、結界が効いてるから話すことにしたようだ。


「これは特に他言しちゃダメだよ? カティアは僕の兄様の一人、蒼の世界出身の子なんだ。そこからひと月くらい前に僕の神域に元の名前も封じられたまま異界渡りして来てね? ちょうど来たエディにも協力してもらってこの城に連れて来て、セヴィルとの御名手の儀式をやったんだ」

「なんと、異邦人じゃったのか?」

「色彩なんかは元々この色じゃなかったらしいけど、それは置いといて。御名手は確実だよ。僕が誓約を宣言してもいい」

「何、それは疑っとらんよ。そうかそうか。蒼の世界の者ならばあれだけの馳走は出て来てもおかしくない」


 レストラーゼさんは何度か目を丸くされても、一つも否定することなく自然に受け止めてくれたみたい。

 やっぱり、神様のフィーさんの言葉だからかな?

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