068.アズラント将軍-②
「おはようございます」
でも、まずは先に挨拶だ。
「おはようございますカティアさん。ですが、何故サイお兄様と?」
「ここの角で俺とぶつかってな。んで、今まで話してた」
「まあ、そうでしたの。ですから、そのような体勢なのですね?」
「お前さんでも首痛てぇのはしょーがねぇが、もっとちんまいからな」
背がちみっちゃいのは現状しょうがないことだ。
それよりも、気になったことが別に一つ出来た。
「お兄様?」
アナさんがそう言っていると言うことは、サイノスさんも王族の縁戚さん?
さすがに兄妹はないと思う。でなきゃ、エディオスさんが王様だって言う方がおかしくなっちゃうからだ。
「あら、そうですわね。カティアさんにはまだサイお兄様をご紹介出来ておりませんでしたから」
「一昨日まで遠征訓練だったからな。そこはしゃーねぇよ」
「さっきも言ってましたよね?」
「ああ。戦争はないが、魔獣討伐なんかの為の訓練は事欠かせねぇからな。今回は遭遇しなかったが、若い連中らを鍛えんのに色々訓練するんだ」
戦争はないんだけど、軍人さん達のすることは色々あるんですね。
「サイお兄様はゼルお兄様ほど近くはありませんが、わたくしやエディお兄様との縁戚ですの」
なんか、エディオスさん周辺の幹部クラスさん達が身内で固められてないか? 僕にはわからないことだから深く突っ込めないけども。
「ま、縁戚よりは幼馴染みの方が関係としては根強いがな」
「幼馴染みさん?」
「あん中じゃ俺が一番上だからな。エディは今や王とは言え、私的には俺としちゃ弟分に変わりねぇしよ」
「サイお兄様、エディお兄様がお聞きになられたら大変ですわよ?」
「いないからいいだろ? っと、ゼル起こしに行く途中だったな。じゃ、二人とも後でな」
さっ、とサイノスさんは立ち上がられ、軽く腰を伸ばしてから行かれてしまいました。
後ろ姿、マントと頭しか見えないけどかっこいいですな。髪も乱雑に伸ばしているとこも良いですね。
「ゼルお兄様もまた大変ですわね……」
「サイノスさんも言ってましたよね? そんなに寝起きが悪いんですか?」
「一度ご覧になられた方がと申し上げたいところですけれど、お止めになられた方が賢明ですわ」
「はぁ……」
でしたら、無闇に覗きに行こうとかは口に出さないでおこう。
「ふゅぅ……」
ここで黙りしていたクラウが寂しげに鳴いた。
「クラウ、お腹空いたの?」
「ふゅ、ふゅぅ」
「ん? 違うの?」
「ふゅ」
どうしたんだろうと思ったが、ここで立ってる訳にもいかないからアナさんと食堂に向かうことにした。
食堂に向かえば、まだ誰も来ていなかったので僕らが一番乗りだったようです。
なので、裏口を通って僕とクラウは厨房に向かいました。
「おはようございます」
「ふゅ」
あまり大きな声を出さずに言うと、若い男のコックさんのベイルートさんがこっちに気づいてくれた。
「あれ、カティアちゃん。おはよう」
「おはようございます。マリウスさんいらっしゃいますか?」
「料理長ね。ちょっと待ってて」
「あ、カティアちゃん?」
「おはようカティアちゃん」
ベイルートさんが気づかれてから、他のコックさんも僕に挨拶してくださいました。
皆さんライガーさんと同じようにちゃん付けです。
マリウスさんだけは変わらず敬称呼びだけど、特に気にしてない。
皆さんにも挨拶している間にマリウスさんがやって来られました。
「おはようございますカティアさん。どうかなさいましたか?」
「おはようございます。えと、今日のお昼なんですが僕が作ることになりました」
「ああ、わざわざありがとうございます。陛下から伺っておりますよ。今日もピッツァでしたよね?」
「あ、はい。ユティリウスさんが食べたがっていたようだったので」
「ユティリウス陛下……ですか。たしかに、ピッツァはあちらの陛下も大変待ち遠しかったようでしたしね」
「あはは……」
僕は昨日の夕飯やその後の落ち込み具合しか見てないけど、本当にすぐ食べたがっていたからね。
気合い入れて作りますとも!
「材料は取り揃えておきましょうか?」
「あ、えっと……ファルミアさんと一緒に作ることになるんで、とりあえず生地の方だけいいですか?」
「妃殿下と、ですか。わかりました。そのように用意しておきますね」
「お願いします」
なので、ピッツァの準備の方は特に問題なし。
お願いをしてから僕はクラウを抱っこしたまま戻れば、食堂の方にはアナさん以外にヴァスシードの皆さんも来ていて、給仕さんからコフィーをサーブしてもらってるところでした。
「あら、カティ。おはよう」
「おはようカティ」
「おはようございます」
「ふゅ」
この人?達はどこまでも無表情だけど、礼節はちゃんとされているんだよね。
あの妖怪みたいなお姿と今のホスト風なお姿とじゃとても結びつかないけど、悪い人達とは思わないよ?
出来るだけ、元のお姿は見たくないけども。
「お、もう来てたのか?」
エディオスさんご登場。
あとはフィーさんとセヴィルさんに、サイノスさんもだよね? ただ、エディオスさんが来れば朝ご飯開始なので席に着きますとも。
「おふぁよう……」
クラウとオルジェ(オレンジ)のジュースを飲んでたら、フィーさんご登場。
今日もぴょいんと寝癖が目立っております。
一応は身だしなみされてるらしいけど、ああなっちゃうのは仕方ないみたい。時間が経ったら落ち着くんだよね、不思議。
「あとはセヴィルさんにサイノスさんですよね?」
「カティア、サイノスといつ会ったんだよ?」
「ここに着く前です」
偶然ぶつかったことも含めて説明すると、何故かエディオスさん難しいお顔になられた。
「お前のことどこまであいつに話すかだよなぁ……」
「あー……」
それはたしかに難しいことです。
「別にサイノスになら全部話してもいいんじゃない?」
とここで、寝ぼけ眼もコフィーでしゃっきりしたのかフィーさんが会話に入ってきた。
「けど、僕が異世界人のこと含めてってことですよね?」
「まあ、あいつは口固てぇからな」
「エディ、味方は多いことにこしたことはないわ。私もサイノスだったら問題ないと思うし」
ファルミアさんがそう言うなら、信頼の厚いお人なんだ。
僕もお会いして悪い人ではないのはわかってはいるよ? 子供の僕に気遣って、わざわざ目線合わせてくれるのにキツい姿勢とってくれたんですもの。あれ結構腰にくるのに、その後立ち上がられても特に問題なく歩いて行かれたから。
「それと私のことも一緒に話すわ」
「いいのかいミーア?」
「いいわよ。カティのこととなると、後々疑問に思うだろうから一緒の方がいいだろうし」
「あ、ありがとうございます」
サイノスさんにもファルミアさんが異世界からの転生者とはまだお話されていなかったんですね。
普通は信じられないことだから口外しにくいことだ。それをわざわざ僕のためにありがとうございます。
お礼を言うと、ファルミアさんから麗し過ぎる微笑みが返って来ました。
「大したことないわ。それに、今日は超久しぶりにピザが食べられるんですもの」
「なぁ。それ昨日も言ってたがピッツァと同じ意味なのか?」
「ええ、そうよ。ピザ発生の国の方ではピッツァなんだけど、カティがそう言っているのは職業柄が強いかもね。日本だとピザって言う方がほとんどだったの」
「「「へぇー?」」」
獣's以外の男性陣全員が関心されたかのように同じ言葉を呟いた。
「お待たせいたしました」
とここで給仕のお兄さんお姉さんが温かい朝食を持ってきてくださいました。
メインはオムレツじゃなくて、ミネストローネ的なスープでした。丸パンちゃんもあるけど、マカロニ的なパスタも入ってるし野菜もふんだんにあってとっても美味しそう。
しかも、クラウにも用意されてあったというのが驚き。まだ半日足らずなのにもうメンバーとして認識されてる模様。
クラウは熱々のスープが目の前に来ると、湯気の様子にこてんと首を傾いだ。
「ふゅ?」
「これはスープだよ? まだ熱いから、もうちょっと冷めてから食べさせてあげるよ」
「ふゅ!」
なので、クラウは先に出てきたパンにかじりついた。
「お、ちょうど食べてるとこだったか?」
「…………」
僕もいただきますをしていたところで、ようやくサイノスさんとセヴィルさんがやって来ました。
ただ、セヴィルさんいつもに増して眉間の皺が深いのは気のせいじゃないと思うの。
「お、おはようございますセヴィルさん」
「……ああ。おはよう」
なんかお辛そうですね?
心配になってジーっと見ちゃっていたら、セヴィルさんがふっと口元を緩められて僕の頭にぽんぽんと手を置いてくれた。
「そんなにも心配する程ではない」
「そ、そうですか?」
素敵微笑みに今日もドギマギしてしまう。
+α、昨夜知った事実もあるから余計に。
ガシャン!
なんの音?と音の発生源をたどれば、アナさんのお隣に座っていたサイノスさんが机にスプーンを落としていた。
「ゼ、ゼルが笑った……?」
まるで、この世のものでないのを見た!って反応。
琥珀色の瞳が驚愕に彩られ、口もあんぐり開いております。
「まあ、たしかにゼルがこんな風に笑うのは珍しいよね?」
「ええ、事実を知っていればそこまで不思議じゃないけれど。ここ40年の中でこれだけ自然に笑うのはほとんど見たことがないわ」
「俺は珍獣か……」
一変してむすっとお顔を顰めちゃいましたよ。
「事実? どう言うことだ?」
サイノスさんが復活されてこちらも眉間に皺を寄せられた。
「後で話してやるよ。とりあえずは食おうぜ?」
「エディオス、サイノスにすべて話すのか?」
「ああ。お前らが来る間にそう決めたからよ」
「ならいいが……」
「なんで今じゃダメなんだ?」
「長くなっからだ」
エディオスさんがきっぱりと言い切ったので、サイノスさんも口を噤んで朝食再開となりました。
僕はちょこっと緊張したけど、温かいミネストローネスープを口にした途端不安なんて吹き飛んでしまいました!
マトゥラーとポルト(コンソメ)の優しいお味に顔がふにゃって緩むのが自然とわかっちゃう。
美味し過ぎるけど、決してがっつかずに皆さんに合わせて静かに食べますよ。マカロニ的なパスタはもちもちでもアルデンテが絶妙でお腹にたまります。
「ふゅ」
「もうちょっと待っててね?」
「ふゅ」
クラウも食べたいようだけど、湯気がまだ立ってるからダメだと諭した。火傷はしないと思うけど、熱々のスープでむせる事もあるから念のために。
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