第10話 魔王と勇者の関係……。(5)

 儂が自身の持つ戟を使用して、喉元を掻っ切ろうとしたら。未だ幼い少女の勇んだ台詞が聞こえてきたのだ。


 と、言いたい所なのだが。今の勇んだ幼い少女の憤怒した声は、何を隠そう。儂と殿の間にできた娘……。ルシファーの怒りに満ちた荒々しい台詞なのだが。


 未だ幼い我が娘の魔力では、この勇者と刃を交えても敵わぬ~。


 只娘は、勇者の持ち握る聖剣にて、返り討ちに遭うだけなのだ。


 だから儂は、自身の首元に戟を当て──。自害をする行為をとどめる。


 でッ、その後は、慌てふためきながら勇者へと、儂の握る大鎌の戟を振るうのだよ。勢い良く──。勇者の気を逸らす為に……。


 でないと? 儂と殿の娘が、親よりも先に冥府へと誘われてしまう。


 だから儂も必死だよ。自身の娘を守らないといけないから。


〈シュン~〉


「あっ?」


 儂が振るった大鎌の戟が、空を切る音と共に。儂の口から驚嘆が漏れるのだよ。


 だって儂は、勇者の背後から戟を振るったはずなのに。


 この世界最強の武士の姿が何処にも見当たらない。

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