第2話・ジュリィ、ごねる
名前 ユウ・リディム
職業 見習い勇者
年齢 19歳
所持ゴールド 38000ゴールド
装備 武器→鉄の剣
盾→木の盾
防具→見習い勇者セット
所持アイテム 牛の糞×10、回復薬Lv1×2、石ころ×3、兎の肉×1、手紙セット×2、ブラック・ソード
スキル なし
こんなシケた装備とアイテムの俺ですが。
こんな武装した農民と似たような戦闘力の俺ですが。
「わ、ワタシと結婚してください!」
「「ええええええええええええっ!?」」
どうやら魔王さまに惚れられてしまったようです。
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とりあえず状況を整理して考えてみようか。
まず俺は村で勇者を選定する剣「ブラック・ソード」を引き抜いてしまって、自分では素質ゼロだと思っていた勇者をやることになった。目的はもちろん魔王を倒すため。
そしてヘッポコではあるものの、信頼している仲間とパーティを組んで旅に出た。
村長に最初に目指すべき街への地図を貰って、それを頼りに2日くらいかけて草原や森を歩いてきた。
そうしたら何故か魔王城に到着した。
モンスターにも遭遇せず、レベル1の初期装備のままで。
「あ、あの、勇者どの……?」
目の前では指輪ケースを持った少女、魔王さまが不安そうな様子でこちらを見ている。
申し訳ないが俺の頭はグワングワンなのだ。そしてそれは隣に立っている騎士のクロも同じようなので、しばらく頭を整理する時間が欲しい。
とりあえずデュラハンさんたちに何もされず城の中へ案内されたこととかを考えると、この一通りのおかしな出来事はこの魔王さまたちの仕業なんだろう。理由は分からないが。
「魔王さま」
「は、はい!」
いや、どう考えてもこっちが格下なんだからそんなに畏まらなくていいんだが……。
「俺と魔王さまってどこかで会いましたっけ?」
「え……」
「いや、やっぱり初見でいきなりプロポーズはないだろうからどこかで……」
そこまで言って、俺は魔王さまがどこか悲しそうな顔をしていることに気がついた。
だが魔王さまはすぐに笑顔を戻して、
「ちょっと待っててください!」
そう言ってグッと体に力を込め始めた。ぼわ~っと、魔王さまの体が淡い光に包まれ始める。メルミが魔法を使う時に発する光と似ているから、おそらく何かしらの魔法を使っているのだろう。
しばらくすると、黒かった角は淡いピンクになり、尻尾は細く、服装は白いワンピース姿になった。
「あっ……」
そして、そこで思い出した。
「分かり、ましたか?」
「お前、ジュリィ……か?」
「……うん!」
「おお、ジュリィ! 久しぶりだな! っていうかお前、魔王になってたのか!?」
言いたいことが多すぎて上手く話せない。
姿が変わるまで気づかなかったが、俺と魔王さまは、俺とジュリィは初対面じゃない。
昔、ほんの数週間だったが一緒に過ごしたことのある魔族の女の子。白いワンピースと可愛らしい尻尾、そして何よりも、弾けるような明るい笑顔が印象的だったあの子。突然居なくなってしまった、俺の初恋の女の子。
そのジュリィが、今こうして目の前にいる。その事実が俺から落ち着きを奪った。
「えへへ、色々あってな。ユウも元気そうで良かった」
「お前、急に居なくなっちまうから俺あの時本当に心配で……」
「ごめん。本当はもっと一緒にいたかったんだけど、ギースたちに連れ戻されたんだ」
「ギースって、あのイケメンの側近の人か?」
「うん。ギースとあそこにいるリーマが私の両腕の2人」
ジュリィはそう言いながら、玉座の横でメルミと話す女性を指さした。相変わらず2人は楽しそうに話している。
「そ、それで、ユウ……?」
「ん、どした?」
初恋の女の子との思わぬ再会にテンショングングンマックスパワーの俺に、ジュリィは容赦無く現実を叩き付けた。
「ワタシと、結婚してくれるか……?」
そうだったああああああああ!!
なんかよく分からんがそんなとこまで話ぶっ飛んでたんだああああああ!!
ヤバい、完全に良い雰囲気にして墓穴掘った! どうやって誤魔化せば……!?
いくら初恋の人とは言え、見習いなりにも俺は勇者。軽はずみに魔王と婚約なんて出来るわけがない。そんなことをすれば俺の家族や知り合いが何をされるかわからない。俺だけの問題ではないのだ。
「いや、それは、はは……」
答えに困ってオロオロとしていると、さっきから不満が爆発しそうな目で会話を見ていたクロがとうとう口を開いた。
「いい加減にしろ! 魔王と人間が結婚など出来るわけがないだろう!」
「お、おいクロそんな言い方……」
幾ら何でもキツすぎやしないかと、ジュリィが心配になりクロを諌めようとする。少なくとも、俺の知っているジュリィは決して強気な女の子ではないのだ。
だが、クロの言い分も理解できる。異種族間での結婚なんて聞いたことが無いし、クロは元々国を守る役目の騎士だったのだ。魔族達とも何度も戦っている。仲間たちの命も奪われているはず。
そんな魔族の頂点に位置する魔王が、いきなり俺に求婚したりすればそれは反対するだろう。個人的なアレも含めてるだろうが。
大丈夫だろうかとジュリィの方を見ると、意外や意外、ジュリィはものすごく腹の立つようなドヤ顔を浮かべていた。
「女騎士よ」
「な、なんだ」
「今どきそんな古い慣習に取り憑かれているとは哀れなものだ。それにワタシとユウは、とっくの昔に婚約済みなんだからな!」
「なっ……!?」
「……はい?」
身に覚えのないことをドヤ顔で告げられ、俺はますます困惑する。
そしてクロはと言うと「ば、バカな……」と呟きながら地面に膝をついていた。目をカッと見開き、プルプルと震えている。
「えっ、ごめんジュリィどういうことだ?」
「えぇ~、忘れちゃったのか?」
俺が事情を尋ねると、ジュリィは頬を膨らませながら不満げな声を上げた。可愛い。
「ほら、2人だけの秘密基地で……」
~回想シーン~
10年前。
秘密基地とは名前だけで、実際には夕日の見える丘の上にポツンと建てたダンボールハウス。その基地の前で、俺とジュリィは座って話をしていた。
「なあユウ、なんでユウはワタシなんかに優しくしてくれるんだ?」
「『女の子には優しくするもんだ』ってとーちゃんがいつも言ってた。それに俺達友達だろ?」
「……ありがとう」
「おう!」
「なあユウ」
「なんだ? 次は何して遊ぶ?」
「ワタシは、友達じゃなくてユウのお嫁さんになりたい」
「あー、お嫁さんかー……いいぞ!」
~回想シーン終わり~
『あー、お嫁さんか……いいぞ!』
アレかああああああああ!!
そういえば言ったわそんなこと!
けどあの時は勢いで特に深く考えずに答えちまったんだよな……。
俺的には全然OKだったんだが……今は立場ってのがあるからなぁ……。
パーティリーダーでも勇者でもある。仲間の命を背負ってるんだから軽率な行動はできない。
「うん、確かに言ったな」
「グハアッ!!」
俺がジュリィの言葉を肯定すると、ジュリィに対して明確な敵意を向けていたクロが吐血しながら地面に突っ伏した。そしてそれをジュリィが嬉しそうに眺めている。
「ふははは、分かったか女騎士よ。ワタシこそがユウのお嫁さんに相応しい!」
情けない姿のクロを見ながら、ジュリィはドヤ顔と性格の悪い笑みを浮かべながらバッと両手を広げて高笑いした。
なんかようやく魔王っぽいところが見えた気がしないでもないが、とりあえず俺の意見も聞いてほしい。
「なあジュリィ」
「なんだ?」
「流石にいきなり結婚はどうかと思うんだが……」
とりあえずどうにかしてこの場を平和に乗り切らないといけない。仮に俺がジュリィの求婚を受けたりしたらそれこそクロが死にかねないし、まだ俺の心の整理もついていない。
せめてまずはお付き合いから、と言おうとすると。
「うぅ、ひぐっ……」
ジュリィはポロポロと涙を流していた。
モンスターたちの間にも動揺が広がり、怒りの視線が俺に向けられる。マジでこのままでは彼らに殺されかねない。
「ちょちょちょ、ジュリィ!? どうした!?」
「えぐっ、ユウは、ワタシのこと嫌いか?」
ウルウルと、涙で潤んだ瞳と赤くなった頬。見た目の幼っぽさも相まってこれでは完全に俺が悪者だ。
だが、そんなことよりも。
可愛すぎんだろコイツゥゥウウゥアアアアアアアアアアア!!!!!
俺の脳内で心の声が叫びたがった、というか既に叫んだ。
魔族と人間では寿命がまるで違うからか、ジュリィの見た目は出会った時とほとんど変わっていない。俺が惚れた時のジュリィそのままである。
そしてやはり可愛いのだ。正直言ってジュリィが魔王だということが人間界に広まれば男の半分は魔族になびくレベル。
「嫌いなんかじゃない!」
「じゃあ、好きか?」
なおも目を潤ませて尋ねるジュリィ。正直その聞き方は反則な気がする。
クロはというと、先程までの抜け気が嘘のように立ち上がり、ジュリィの涙を見ながら「ペッ」と唾を吐き捨てながら顔を歪ませていた。これではますます変な事は言えない。
「どちらかといえば、好きだ」
変な事は言えないといっても、ジュリィ相手に嘘をつく気にもなれなかった。いや、実際は嘘をついたようなものだが。
「じゃあ結婚してくれるか!?」
今までの泣き顔が嘘のように満面の笑みで顔を近づけてくるジュリィ。さすがは魔王、やり方が汚い。そして分かっていても引っかかってしまう俺ってホントに情けない。
「いや、だからそれはなんつーか気が早いっていうか……」
「ユウ~!」
まごまごとどうにか誤魔化そうと熟考している俺に、痺れを切らしたジュリィが抱き着いてきた。そしてそれを見てクロが卒倒した。
「お、おいジュリィ!?」
「結婚するの~! ユウはワタシと結婚しなきゃダメなの~!」
「おいおい……」
普段はクールっぽく振る舞うジュリィもまだ子供ということだろうか。いや俺よりは全然歳上なのだが。
クロは卒倒しジュリィは俺に抱き着いたままで、どうしたものかと困っていると。
「何をなさっているのですか魔王様……」
シタについて行ったイケメンの側近さんが歩いてきた。周りのモンスターたちもホッとしたような様子が見て取れる。やはり相当信頼されているようだ。カッコイイ。
「ギース! ユウがワタシと結婚してくれないのだ!」
「あ、いや、その……」
いくら俺にも立場があるとはいえ、こんな強そうな魔族さんに脅迫でもされれば俺も折れるかもしれない。ていうかたぶんソッコーOKする。ビビりだし。
だがそんな俺の不安とは裏腹に、
「いや、幾ら何でもいきなり結婚はしないでしょう……」
やれやれといった様子でギースと呼ばれた側近さんは溜息をついた。
なんだかこの人も色々と苦労してそうだ。ジュリィは言わずもがな、メルミと話っぱなしのあの子も悠々自適っぽいし。
「え!? でもギースが気持ちを伝えろって!」
「『好きだ』と伝えろという話です。ユウ様も急にプロポーズされたら困るに決まってますよ」
「そ、そうなのか?」
すまなそうに尋ねるジュリィ。なんだか生徒と先生のようにも見える。
「ですよね? ユウ様」
「あ、まあ、はい」
「そ、そうか……」
俺の煮え切らない言葉にジュリィはますます残念そうな顔をした。
このままではまずいと思い、俺はゆっくりと本心を告げた。
「いや、ジュリィの好意はすげぇ嬉しいんだけどさ。異種族間での結婚となると色々問題もあるだろうし、なにより俺も見習いなりにも勇者だからさ」
「ということです。ユウ様も魔王様の好意を真剣に受け止めているからこそ簡単には答えが出せないのです。そうですよね?」
そう言いながらギースさんが俺の方を見た。そして俺の近くまで歩いてきて耳打ちをしようとするので、てっきり「話を合わせなければ殺す」とでも言われると思ったのだが。
「本当に申し訳ありませんユウ様、魔王様は拗ねると面倒なので話を合わせては貰えませんでしょうか」
「あ、はい、分かりました」
なんだかこの人とは分かり合えそうな気がする。うん。
「そうなんだよジュリィ。お前の好意は本当に嬉しい。だから、もう少し時間が欲しいんだ」
「わ、分かった。ユウがそう言うなら」
相変わらず魔王とは思えないくらいチョロい。まあたぶん俺限定なんだろうが。いやでもギースさんにも逆らえない風だったな。
そんなこんなで、卒倒しっぱなしのクロを放ってギースさんとは仲良くなれそうな気のする俺なのであった。
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