スイーパーキラー、厄介な仕事を引き受ける・前編

「失礼します」

 私、キヨコは表向きは清掃員、裏では殺し屋をしています。どちらもパートタイマー契約です。

 本日はボス直々に呼び出しをされました。いつもは依頼は文書や、仲介者を通すものですが、どうしたのでしょう。


「ああ、キヨコさん。待ってましたよ」

 私よりは年上と思われるこのご老人、表向きは人材派遣会社の社長、裏の顔は刑事的に処罰を加えられない人達を始末する組織『ガーディアン・ジャスティス』を仕切るボスであります。

 私はボス直々にスカウトされたこともあり、パートタイマーでありながらボスと面識があるわけです。

「あの、私何か粗相をしましたか?先日の仕事はちゃんと証拠隠滅して逃亡しましたし、武器も折り畳んで持ち帰ってますし」

「いやいや、そういうことではない。新たな仕事だ」

 新たな依頼?ならばいつも通り文書か仲介者を通すものでは?不思議に思っていると察したのかボスが切り出してきました。

「ただ、今回はターゲットは…残念ながら内部の人間だ」

「内部の人ですか?」

「ああ、先日、ある奴を始末したのだが、そいつは“社員”の恋人だった」

「まあ、そういう接点が強い人って、普通は避けるのではないですか?」

 正規、パート問わず殺し屋の接点がある人は避けるのがセオリーだ。そうしないと今回みたいなトラブルの元になる。たまに殺し屋同士がご近所だったりするケースもあるようだけど、今回の件は始末すると厄介になるはずだ。

「本来はそうなのだがな」

「何か含みがある言い方ですね」

「依頼人がとある官庁だったのでね。官庁名は言えないが、日本の威厳を保っている所とだけ言っておこう」

「ああ、もしかしてアレですか」

「察しが良くて助かるよ。まあ、とある幹部の娘さんが付き合っている男がいて、婚約まで行ったのだが、週刊紙に親子揃って借金トラブルがあるのが判明した」

「あれは単なるガセかゴシップと思ってましたが」

「いや、週刊紙にすっぱ抜かれた後、親子は幹部の家に行き、トラブルを解決したいからと資金の無心にきたのだ」

「まああ、なんと恐れ知らずというか恥知らずと言うか。週刊紙の内容は真実と言っているようなものですわね」

「さすがにまずいと思ったのだろう、うちに依頼が来て始末をしたのさ。今回は自殺に見せかけたが」

「ああ、確かにそれは依頼を受けますわね」

「そして、やはりというかクズであった。そいつは二股しており、相手がよりによってうちの“社員”だったのだ」

「そんな事情が……」

「そんなのと付き合ってるそいつも、ダメ男好きなのかもしれないな。で、うちを恨んできたのさ。逆恨みもいいとこだ、幹部の娘と結婚したら捨てられるのは明白なのに」

「それで、その方を始末すると」

「ああ、その“社員”は組織を摘発しようとマスコミやジャーナリストと接触しているとの情報を掴んだ。元の依頼人の某官庁も抑えてくれているが、このままだと明るみに出てしまうのでな」

 そんな、大きな構図に巻き込まれるのはさすがに躊躇ってしまいます。それに、社員と対決なんて、私で勤まるのでしょうか。

「それで、なぜ私が選ばれたのですか?」

「この組織の“社員”の平均年齢は三、四十代だ。キヨコさんはこの組織でも年配だから、あまり他の殺し屋と接点が無い。つまり、面が割れていないことだ。それに、表向きは清掃員だからどこにでも潜入しやすい」

「なるほど、そういうことですか」

「それに成功報酬もかなり上乗せするが、どうだ?」

 厄介な仕事ですが、報酬上乗せは魅力的です。夫の治療費、デイサービス利用、将来的には私共々、施設へ入る資金……お金はいくらでも欲しいです。

 そういう訳で私はこの依頼を受けることにしました。


 いつものように清掃員として潜入して、動向を探ります。

 ターゲットはこのビルに入っている美容室のスタイリスト。普段はヘアカットですが、裏では命をカットしているようです。

“社員”の方は皆さん自分の仕事に合わせた武器エモノを使います。今回のターゲットはリコさんとおっしゃる美容師で、武器エモノはいろいろありますが、メインはエクステを使って首を絞めるとのこと、気をつけないとなりません。

 通常なら店内にこもりきりでしょうが、この美容室が入っているビルはお手洗いが共同なので店員も客も店の外へ出ます。その時がチャンスでしょう。とはいえ、いつものように昼間に片付けるのは難しそうですね。

 それに、お手洗いは狭いので、いつものモップだけでは動きにくいでしょうから、別の武器エモノを用意します。

 そうして、チャンスは巡ってきました。美容室が終わったと思しき夜の9時。このテナントビルは飲食店は別のフロアなので美容室の入っている階はがらがらです。

 ターゲットが出てきました。ハンドバックの他には美容師さんがよく下げるシザーケースもかけています。恐らくそこに武器エモノを仕込んでいるのでしょう。エクステだけではなく、いろいろ種類を揃えているのかもしれません。来たところを後ろから、まずはモップで襲いかかります。

『パシッ』

 振り返りもせずにターゲットはモップを手で受け止めました。

「こんな時間に清掃員がいるはず無いでしょ。組織が消しにきたのね」

 あらまあ、狙われてるのがわかってたのですね。これはやはり一戦交えることになりそうです。

 ワタシは素早く体勢を整え、予備のモップを持ちました。

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