第9話 料理は褒めて食べよう
まず断っておかなければならない。
美香はさほど料理が得意ではない。
いや、苦手という程でもないだろう。ただ、あまり工夫しないだけだ。煮る、焼く、揚げるの三段活用で毎日の食事をやりくりしている。
「わあ……かわいいキッチンだ!」
今は花と一緒にダダ達が住んでいるので、調理器具も調味料もだいたい揃っている。その一つ一つが、少し形が珍しかったり、綺麗な色ガラスが使われていたりして、何とも異国情緒あふれたキッチン。
それを見た夫の嬉しそうな声に、美香の目がきらりと光る。
「そうでしょう。パパも使ってもいいのよ?」
「え、本当に?ここで料理していいの?」
「もちろんよ」
大量の切り身をクーラーボックスに仕舞い、一匹分だけ取り出す。
まずは簡単にサクサク切って刺身にした。調味料をいろいろと味見て、醤油っぽいものと塩の二つで食べてみることに。
一皿にドンと乗せて、テーブルに置く。ダダ達も刺身は食べないわけではないが、竜魚の刺身は初めてらしく、恐る恐る手を伸ばした。
「あ、あれ。竜魚ってもう少し泥臭かったような……」
一番に食べたのはズーラだ。塩をつけた刺身は歯ごたえがあって、じわっとうまみが口に広がる。ガットとダダも首を傾げながら次々と手を伸ばす。
花はどうやら食べ慣れているらしい。躊躇なく手づかみで一切れ口に入れて、ずっともぐもぐしているのが可愛い。
「普通に美味しいわねえ」
「うんうん」
これはどういう事だろう……
話に聞いていた癖のようなものがない。
「ちょっと他の食べ方してみましょうか」
美香がキッチンに立って、刺身の残りに塩を振って浅い鍋で焼いてみた。
香ばしい匂いが立ち込める。
「塩だけだと寂しいわねえ」
いくつかの香辛料を適当に手に取って、かなり雑に振りかける美香だったが、意外にも良い匂いは加速する。
ふふふんっと鼻歌を歌いながら、雑に魚を焼く美香。これまた、どんと丸ごと皿に盛って皆でつつくことにした。
「わあっ、これ、おいしい」
匂いに引き寄せられるように手を伸ばした花が、端のほうをつまんで口に入れて、ふわっと笑った。
みんなは一瞬、花の笑顔に心を奪われたが、ふと気付いてズーラが慌ててフォークを持たせた。
みんなで美味しい美味しいと言いながら食べていると、夫が立ち上がった。
「じゃあ今度は俺が作ってみるから」
どうやら対抗意識を燃やしたらしい。
残ったもう一枚の切り身を手早く人数分に切り分け、軽く塩と香辛料を振る。その後小麦粉をまぶして、皿の上にいったん置いた。
鍋に多めに油をひき、温め始めると同時に野菜の中から見たことのあるものを選んで切り始めた。
「これは、プチトマトだよね?あと、ニンジンとじゃがいもと……ルッコラかな?ん、そうみたいだね。あ、これはチーズか!少し味は濃いけど良い匂いだ。あとは……この葉っぱは生で食べられるのかな?大丈夫?うん」
時々ズーラに聞きながら、さっとジャガイモの皮をむいて細長く切る。
温まった鍋に小麦粉をまぶした魚をきれいに並べて入れた。
火力を弱めて、ゆっくり中まで火を通す。
「このコンロ、使いやすいね。電磁調理器みたいだけど、少し違う?」
「魔道具ですよ」
「へえ……このぼたんで火力を調節できるのが、分かりやすくていいね」
そう話しているうちにも、ニンジンは細く細く千切り。トマトはスライスしてルッコラも程よい長さに千切った。
大小さまざまな大きさの皿を人数分出して、スライスしたトマトにチーズをすりおろしてかける。ニンジンの千切りとルッコラと名前の分からないサラダ菜をその隣に添える。
魚が焼けてきたので、ひっくり返して反対側も同じように焼く。
魚の身が少し縮んだので、鍋の真ん中でジャガイモを炒める。
火が通ったら魚とジャガイモを皿に盛り、鍋の油を容器に移してから、いくつかの調味料を合わせ入れてさっと火を通しソースを作った
ソースを魚と周りの野菜にもかけて、出来上がりだ。
「美香……パパさんは何者なのですか?」
あっという間にできた6人分の美しい料理に、ダダ達は呆気にとられていた。
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