第12話 ドーア

 村のみんなと時間ぎりぎりまで話し合って、鹿野はこの村にしばらく通うことになった。

 土曜日と日曜日の週に二日間だけ、村の復興を手伝うことにしたのだ。

 運動はあまり得意ではない鹿野だが、踏み荒らした畑を耕したり新しく開墾したり、出来る事を少しずつやっていくつもり。


「村の者はまだ不安に思いますから、出来れば次に来るときだけ、殲滅の毒霧の皆様にも一緒にいていただければ……最初だけでも……」


 申し訳なさそうに言ってくる村人。美香はダダに確認してから、次の土曜にこの村に来ることを了解した。


「俺……天使たん達に信用してもらえるように、どうにかやってみます。おばちゃん、ありがとう」


「怪我をしないように気をつけてね。この世界の事で何かあったら、おばちゃんに相談して!」


 SNSのIDを交換してから、鹿野も最後は笑って手を振って、ドーアを通って向こうの世界に帰っていった。




 余談だが、ドーアはリザードマン一家の家の扉だ。これから何度も鹿野や美香が出入りするのに使うので、不都合もあるだろうと、申し訳ないけれど家を引っ越してもらうことになった。

 ドーアは国とギルドで管理しているので、代わりの家を用意するのも国である。

 ドーアの付いている家は普段は倉庫として使われたりするのだが、このドーアのように鍵の持ち主が個人の場合は、希望があれば家を貸したり売ったりする事もある。

 鹿野も週末だけとはいえこの世界で活動していれば、いずれ金を稼いで、この家を手に入れることになるのかもしれない。


 何はともあれ、緊急依頼のオークの撃退は無事完了し、村は解放され、新しいドーアがひとつ見つかった。

 そしてそのドーアを使い、美香たちは無事アシドに戻った。




 昼の2時より少し前に、第4倉庫から台車に荷物を乗せて美香が出てきた。

 いつものように店の事務所に商品の入った段ボール箱を置き、タイムカードを押して、晩御飯の買い物をヒマワリマートで済ませてから家に帰る。

 やがて、順に子どもたちが帰宅。冬なのでお土産むしを持って帰ることは少ない。美香はおやつを出してから、いつもと違うセリフを言った。


「良平、浩平、お母さんちょっと出かけてくるから。留守番しててもらえる?」


「いいよーーー」


「テレビ見てもいい?」


「宿題済んでからね」


「えーーーっ」「えーーーっ」


 嬉しそうに何度も声を合わせて文句を言う子どもたちに留守番を頼んで、出かけた先はさびれた小さな神社。

 鹿野の家の近くの神社と言えば、ここだろう。

 あまり大きくない鳥居をくぐると、賽銭箱があり、その向こうにやしろがあった。


 美香は財布から小銭を取り出して賽銭箱に放り込み、手を合わせて願う。


「少しお騒がせします。ドーアを見せてくださいね」


 社の扉に美香の持っている鍵をさして開けた。その向こうに見えたのはヒマワリマートの第4倉庫だった。

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