異世界の町

第1話 給料日

 美香が週に二回、異世界の町アシドに通うようになっておよそ一か月になる。随分見慣れた異世界の黄色い空には、大きな鳥が日の光を浴びて輝きながら舞っていた。

「こちらのカラスは大きいわね」

「あれはカルラですね。美香の世界のカルラは小さいのですか?」

「カルラ……魔物図鑑の中には載っていなかったわ」

「ああ、そうですね。あれは聖獣と言われています。獣ですから動物図鑑の方に載っています」


 ダダによると、魔物と獣の違いはその生まれ方だ。どこからともなく現れる魔物は、その生まれ方がよくわかっていない。一説によると魔力が溜まっているところから生まれるのだと言われているが、未だその瞬間が確認されたことはない。

 獣は普通に生殖して子どもを産む。カルラは森の中の高い木の上に巣を作るが、その巣の中には虹色の羽を持つ、まるで天使のように可愛らしい子カルラが待っていると言われている。巣をかける場所が場所だけに、生態が分からず、神秘的な生き物だ。



 この一か月、週に二回ではあるが少しずつこの世界の知識を身につけながら、いくつかのドーアの位置を覚える為に歩き回っている。美香がこの世界に慣れたように、アシド近郊の人々も随分美香に慣れてきた。

 ドーアの番人はもうタグをチェックせずに名簿に書き込んでいる。

 そして普段ならここで合流してからすぐに次のドーアに飛んで魔物発生地点まで行くところだが、今日は違う。

 月に一度のギルドでの報告だ。



 この世界は時間や月日の数え方がほぼ、人間界と同じになっている。それはおそらく美香や隆行のような人との交流が昔からあったのだろう。美香にとっては混乱することなく行き来できて、非常に助かっている。


 いつものように先導するダダの後を、ズーラとガットと並んでスキップするようにギルドに向かった。

 今日は初めての、こちらの世界での給料日なのだ。

 毎回時間ぎりぎりまで魔物討伐に携わっているので、帰りはギルドに寄る余裕などなく、いつもダダ達に後処理をお願いしてしまう。そのため月に一日は休み、こうしてギルドに立ち寄って、報告をしつつ魔物を討伐した報酬を振り込んでもらうことにしてみた。



 冒険者ギルドではVIP扱いで、受付を済ますとそのまま二階のギルド長の部屋へ案内される。


「やあ、美香。よく来てくれた。」


 ご機嫌らしいギルド長が、ギャッ、ギャッと笑いながらソファーへ手招いた。


「報告と言っても毎回依頼の度にダダ達に報告してもらっているので、今日は確認だ。今月魔物討伐に向かった日が6日、討伐地区は2か所。

 鉱山のイブリース大量発生については、同行したギルド職員により500匹以上のイブリース及びサキュバス一匹の討伐を確認。鉱山も再採掘可能になった。採取できる素材がないので依頼料のみとなるが、パーティー4人で50万Gの報酬だ。

 もう一か所のアリジゴク大量発生については、採取した素材から16体のアリジゴクの討伐を確認。依頼料として10万G、素材の買取で16万Gになった。」

 

 アリジゴクは鉱山の次に請け負った依頼だ。鉱山から直接行けば4時間くらいの山間の村だが、途中にある村のドーアの位置を確認してから行ったので、初日は本当に移動だけで終わった。

 アリジゴクは、美香は自分の世界では見たことがないのだが、多分サイズも形も全然違うと思う。けれど、地面に大きなすり鉢状の罠を作るのは同じで、そこに落ちた獲物を地面の中に引きずり込むのだ。

 これはどうやって捕まえるか悩んだ挙句、釣り上げることにした。2メートルほどもある巨体だが、身体は軽いので、美香が家から釣り竿を持ってきて、肉をつけて釣り上げてみた。竿には丈夫そうな糸をつけていたつもりだが、何度も逃げられて悔しい思いを。けれど餌にはすぐに掛かる。

 釣りとしては正直微妙だったが、釣り上げて平らな地面で戦えば、殺虫剤が効かず苦戦しつつも倒せた。

 結局、一匹ずつ時間をかけて、3日がかりで16個の巣を潰す事ができた。

 

 

 

 そんな訳で、4人で頑張った6日間の成果がここに提示された76万Gだ。

 それが多いのか少ないのかよく分からないが、全員が美香の方を見て頷いているので、美香もとりあえず頷いておいた。


 貨幣価値、聞いてなかったわね……


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