第3話 トカゲ人間

 それから半年、だいたい週1回のペースで第4倉庫に入る美香は、行くたびに色々な姿の悪魔を目にすることになった。ふわふわ揺れる火の玉が近付いてきた時には、本当に怖かった。それに向けて殺虫剤を噴射すると火炎放射器みたいになったのには、さすがの動じない主婦、高梨美香38歳も、少し焦った。


 二足歩行するチワワのような悪魔が来たときは、思わずカワイイ!と飛びかかりそうになったが、冷静に見ればそいつは変な鎧を着て、剣を持っていたので、やっぱり悪魔なのだなあと思い、箒と殺虫剤で追い払った。




「今までの傾向からすると、今日は何か大物が出てくる気がするわ」


 重いレーキを軽々と振り回しながら、美香は奥へと進む。半年前には持つのもやっとだったレーキだが、最近は体調も良いからか、振り回した時の風切り音が気持ちいい。




 壁にあるいくつかの窪みを見れば、先週とは違う商品がいくつも見つかる。


「いったい誰が置き換えてるのかしら。ま、お陰様で奥まで行かなくても済んでるからありがたいけど」




 ふふんっと鼻歌を歌いながら先へ進むと、物陰から1メートルはあろうかと言う巨大なトカゲが、上半身を持ち上げて二足歩行で飛びかかってきた。




「来たわね!」


「イギャー」


 今更トカゲ人間くらいで動じる美香ではない。手に持ったレーキでトカゲ人間の鼻っ柱を叩くと、ソレは目が回ったようで、その場に倒れ込んだ。


 すると後方から、もう一体のトカゲ人間が現れたのだ。


「ギャ、ギャ」


 何か祈るように短く鳴くトカゲ人間。何だろうと思い見ているとフワッと白い光が、倒れているトカゲ人間を包みこんだ。白い光はトカゲ人間に吸い込まれ、少しするとパチッと目を覚ました。


「あら、目が覚めたのね。まだ戦う気?」


 美香が声を掛けると、目覚めたトカゲ人間はギャ、ギャと言って首を振りながら、後から来たトカゲ人間と倉庫の奥へと帰って行った。




「これで諦めてくれればいいんだけどなあ」


 ま、また来たら撃退するだけだけどね。っと軽い調子で言うと、トカゲ人間が落とした剣を拾って、ゴミを入れる穴に放り込むのだった。


 美香によると、トカゲの落とし物は商品ではないらしい。

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