異世界でパート冒険者しています ~ヒマワリマートの第4倉庫~
安佐ゆう
ヒマワリマートの第4倉庫
第1話 第4倉庫
8時半の店内放送がかかり、高梨美香は同僚たちとレジ横のスペースに集まった。
「おはようございます」
「おはようございます」
店長の掛け声に従業員一同が答える。
ここはヒマワリマート。人口3万人の小さな町にある地域密着型のスーパーマーケットだ。
いつも通りの簡単な朝礼が終わり、開店まであと25分。全員で店内の商品を確認する作業に戻る。
「じゃ、行こっか」
同僚に声を掛けて歩き始めた美香に、店長が声を掛けてきた。
「美香ちゃん、今日、第4倉庫から商品出してくれる?」
「あ、はい。分かりました」
「いつものように……」
そこから急に小声になって、店長が耳元でささやいた。
「黒い悪魔が出てくるかもしれないから、いつものように殺虫剤と掃除道具、忘れないでね」
悪戯っ子のように笑いながらウインクする店長。普通の声に戻って、そばを歩く従業員に声を掛けた。
「あ、朝子ちゃん、ちょっと待って。じゃあ美香ちゃん、よろしくね。二箱くらいで良いから。ついでにいつものように掃除してくれると助かるわ。今日は1時から休憩だから、それまで第4ね!」
「はーい」
掃除道具置き場から、少し悩んで竹箒とステンレス製のレーキを選び、殺虫剤と一緒に台車に乗せて、裏口から外に出た。このスーパーは商品の種類によって店内3か所の倉庫と、店外にもうひとつ、第4倉庫がある。裏山の崖を掘って作られたそこは、戦時中は防空壕として使われていたらしい。
ヒマワリマートが小さいながらもこの厳しい時代を生き抜いてきたのは、この第4倉庫に秘密がある。ここは創業者である先々代の店長が、若いころ骨董屋を営んでいた時の商品が仕舞われている倉庫なのだ。骨董屋から始まって、野菜やパンなどを一緒に売り始めたのを転機に、昭和43年に今のヒマワリマートを創業した。今ではほぼ、普通のスーパーだが、日用品を置いている棚と背中合わせに、先々代が集めた骨董品の陳列棚がある。これが一部の客に大好評で、毎月安定した売り上げをたたき出してくれる。
いつものように鍵を開けて入る。倉庫の中は電気もなく、どこから光が差し込んでいるのか分からないがぼんやりと明るい。岩がむき出しの壁はもう、そのまんま防空壕のイメージだ。しかもかなり広くて、美香もまだ一番奥まで行ったことがない。
入り口の段差で引っかかる台車を強引に中に押し込むと、入口の戸を閉めた。
美香がヒマワリマートでパートとして働きだして半年になるが、入ってすぐにこの第4倉庫の担当になって、それ以来ここの掃除と商品を出すのはずっと美香の仕事だ。
「さ、今日も張り切っていきますか」
ステンレス製の重いレーキを持って、美香は奥へと進んだ。
それにしても、黒い悪魔って言ったら、ゴキブリだと思うだろう、普通。
スーパーの評判が落ちたら困るから、見ても絶対外で喋らないでねって店長が言ったが、当然だ。倉庫に本当にまっ黒い悪魔のような動物がいるなんて、誰かに言える訳もない。
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