公女SS『アレン・ハワードはちょっと意地悪 補』
※ここからは余談です。
※作者的には……まぁ、あの子なら「あわわ」としつつも、結構強かに動くと思うのです、ハイ。
※リンスター、ハワードの席次持ちならこれくらいは児戯です。
※※※
「――それで、リディヤとステラがぶつかって本当に大変だったんです。途中からはリリーさんまでやって来ましたし。挙句の果て、シェリルは『お気持ち表明』の手紙まで送ってきて……わざわざ丁寧文で詰られたんですよ? 『リリー・リンスター公女に道中で妨害を受けました。不公平だと思います。後日、か・な・ら・ず、時間を作ってくださいね?』とまで書いてきて。今から、頭が痛いんです。――フェリシア、この取引は再検討しましょう。条件と僕等に都合が良過ぎます」
週明けの水曜日。
ハワード、リンスター合同商会――通称『アレン商会』の会頭室で書類に目を通していた僕は、隣で仕事をこなす小柄な眼鏡少女へ指摘した。部屋には僕達以外に誰ももいない。時折、アトラのはしゃぐ声が聞こえるので、メイドさん達に遊んでもらっているのだろう。
僕がそんな風に考えていると、妹のカレンとお揃いの薄紫のセーターに長いスカート姿の才媛は、左の人差し指に淡い栗茶の前髪を指に巻き付け、ツンとした。
「つまり……アレンさんは、ステラと結婚式の予行練習をしていたんですね? 私には『仕事を休むように!』とあれだけ強く言っておきながら」
「僕は教授から、ステラはワルター様からの依頼だったみたいですしね、断りようがなかったんですよ」
苦笑し、最後の書類を『既決』の木箱へ。
先程避けておいた提案書にもう一度、目を通す。
――十三自由都市の商人が、わざわざ僕達に接触してくる、か。ちょっと違和感があるな。
隣のフェリシアが荒々しくペンを走らせる。豊かな胸の双丘が拍子で弾み、目に毒だ。ツツツ、と目を逸らす。
「でも、その後、リディヤさんとリリーさんとも撮ったなんて。シェリルさんは間に合わなかったみたいですが……」
「あのですね……フェリシア。僕があの二人、いやステラも含めれば三人に逆らえると思いますか? 全員が『公女殿下』なんですよ??」
「思いません」
「そうでしょう、そうでしょう? 流石は、アレン商会の敏腕番頭さんです。僕は安心して名ばかり会頭を譲れ」
「会頭になるつもりはありません。絶対に嫌です。――これを見てください」
話を遮ったフェリシアが顔を上げた。
少女の地味な眼鏡が妖しい光を放つ。
……嫌な予感が、とてつもなく嫌な予感がするっ!
僕が腰を浮かす前に、眼鏡少女は封筒を滑らせてきた。
咄嗟に手で受け止め、恐々尋ねる。
「こ、これは……?」
「さる筋から入手した、撮影会の画像です」
「なっ!?」
絶句し、慌てて中身を確認。
――……ま、間違いない。
確かに、僕とステラを中心に、その後はわざわざドレスに着替えたリディヤ、リリーさん。アトラとリアも映っている。
ど、どうしてフェリシアが? 『エーテルトラウト』の店長が漏らしたのか?? いや、あそこは北都随一の老舗にして大店だ、と聞いている。そんな馬鹿な事を摺る筈がない。……ま、まさか!
小柄な眼鏡少女が片肘をつき、妖艶な笑みを浮かべた。
「フフ……アレン様もそういう風に驚くんですね」
「……エマさんか、サリーさんがあの場に潜り込んでいたんですね? も、もしや、リディヤとリリーさんも共犯ですか?」
エマさんとサリーさん――それぞれリンスター公爵家、ハワード公爵家メイド隊に所属し、第四席を務める方達で、同時にアレン商会所属のメイドさん達だ。
日頃から『フェリシア御嬢様の為ならば!!』を公言していて、その席次から鑑みても、本気で隠れられたら正体を看破するのは困難だ。
フェリシアはしたり顔。
「半分だけ正解です」
「半分……? つまり」
「――私がフェリシアにお願いしたいんですよ、兄さん」
「!」
会頭室の扉が開き、狼族の少女が中に入って来た。
恰好は王立学校の制服姿で、被っている制帽には副生徒会長の証である『片翼と杖』の銀飾り。灰銀の獣耳と尻尾をゆっくりと動かしている。
――僕の世界で唯一の妹であるカレンだ。
目を瞬かせ、驚く。
「カ、カレン? ど、どうして……」
「どうしてもこうしてもありません」
カレンは大股で執務机を回り込み、僕の頬を指で突いてきた。
頬を少しだけ膨らませ、ジト目。
「シェリルさんから『教授の様子がおかしいの。きっと、アレン絡みよ!』と急報を受けたので、フェリシアと一計を巡らせたんです。兄さんは、私達が動いたら絶対に気づきますから。どうやら上手くいったみたいですね」
「ぐぅ……」
シェリル・ウェインライト王女殿下?
妹と仲良くして下さるのは嬉しいんですけど……ここまで、しますか?? 後日、お説教です。シフォンも!
『わ、私だけなの!?』『!』
脳裏であわあわする王女殿下と白狼を思い浮かべていると、カレンと席を立ったフェリシアが左右から、それはそれは美しい笑み。
「兄さん、寮に戻って以来、ステラは浮かれっ放しです。今日一日だけで、私が何度白氷華を抑えたと思います? ティナ達にバレるも時間の問題でしょう。そうなったら……週末の家庭教師は大変ですね」
「不公平は怒りを招くと思います。物事は少なくとも公平に思えるよう、ですよ? アレン会頭★」
「――……ぐぅ」
僕は呻き、ガクリと、と肩を落とす。
隣の部屋からこの前の映像を見たのだろうか、「まぁ♪ まぁまぁまぁ~♪」アトラ御嬢様、とっても御可愛らしい……」「~~~♪」エマさんとサリーの歓声とアトラの歌声を聴こえてきた。
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