第54話 説得
「ティナ、エリー」
「……嫌ですっ。私も一緒に行きますっ。相手が炎属性持ちならば、先生の御役に建てる筈ですっ」
「わ、私も……! アレン先生、お願いします。どうか、どうか、お傍にいさせてください」
これは困った。
どうやら、かなりの部分まで教授から教えられているみたいだ。
……伝えた当の本人は、ニヤニヤ、しているし。事の重大さを理解してないわけでもないだろうに。まったく、この人はっ!
駄目だ、ジト目で睨んでいても埒が明かない。
「教授、ご説明願います」
「何をだい?」
「何をって……」
「さっきも言ったろう、僕は可愛い女の子の味方なのさ。勿論、可愛い教え子でもある、君とリディヤ嬢の味方でもあるけどね」
「それは聞きましたから。理由は何です? まさか、僕への意趣返しをここでしたわけではないですよね? もし、そうなら」
「そうなら?」
「……次回以降は、戦争です……」
「!? ま、まさか、今までのあれで、本気ではなかった、と?? ハハハ、ア、アレン、君も中々冗談が上手くなったね!」
「そう思われますか?」
「……真面目な話をしよう」
「最初からしてください」
この状況でも、物事を楽しもうとするのはある意味で尊敬に値するけれど……そろそろ、僕はリディヤを止めませんよ?
オーウェンに目配せ。ええ、そちらは準備を。すぐに追いかけます。
苦笑しながら、彼と近衛の中隊長達は部屋を出ていった。
「で、どうしてです?」
「アレン、それにリディヤ嬢、君達は優秀だ。とてもとても優秀だ。僕の数十年に渡る教育者人生においても、一番手と二番手だろう」
「買い被り過ぎです。リディヤが一番なのは分かりますが、僕位は何処にでもいますよ」
「だ、そうだが、リディヤ嬢?」
「……私と一緒にいる時点で、有象無象の筈ないでしょう、バカ」
「あー……本題をお願いします」
「何、簡単な事さ。今回の一件、仮に王都で起こったとしても、王国内に人材は数多いれど、解決するのは君達以外にはいまい。君を排斥した筆頭王宮魔法士の彼にどうこう出来る案件ではないさ。何せ……相手は『喪われし大魔法』なのかもしれないのだからね」
「兄さん……さっき、教授からお聞きましたが、本当なんですか?」
「あ、兄様……」
「アレン様……」
ティナとエリーの掴む手が強くなる。
……教授、何で簡単にばらすんですか。事が終わった後に話そうと思ってたのに。この子達を無駄に心配させる必要が何処に?
まぁ、嘘をつくわけにもいかないか。
「本当です。おそらくは……『炎麟』。昔、この東都を吹き飛ばした伝説を持つ大魔法を使ってくる――可能性があります。あくまでも可能性です」
「ならっ、私達もっ!」
「カレン……ごめんよ。今回の相手が仮にそうだとしたら、僕にとっても未知だ。炎を操る事にかけて、王国随一であるリンスター家直系のリチャードですら、手傷を負う魔法が相手……僕の力じゃ、君を守れないかもしれない」
「っ!」
「な、なら、私が行きますっ! 兄様、私だってリンスターですっ!」
「リィネ、ありがとう。でもね……炎の事ならば、今ここにはリディヤがいる。しかも、珍しくやる気になってる、ね。これを活かさない手はないさ」
「……ちょっと、それじゃまるで、何時もは私が適当みたいじゃない」
「適当だろう? まぁ、君が本気を常に出してたら、後始末が大変だけどさ」
まったく、何を今更。
気分が乗らない限り、動こうとしないのは何処の誰なのか。
……今回は、本気で怒ってるから、相手は大変だろう。塵も残らないかも。強く生きてほしい。
まだ、納得していない表情をしているカレン達に微笑みかける。
「細かい話をしていなくてごめんよ。だけど――大丈夫だから、ね?」
「……後で我が儘を、いっぱい言いますから」
「……兄様、姉様。どうか、どうか……御無事で」
「ありがとう。ステラ様も申し訳ありませんでした」
「い、いえ……」
「ティナ、エリー?」
「…………嫌です」
「……本当に、大丈夫、何ですか……?」
「ええ、約束しますよ」
エリーが、手を緩め、身体を離してくれた。その目には大粒の涙。
にっこり、と微笑みつつハンカチで涙を拭く。
そして頭をゆっくりと撫でる。
さて、後は――。
「ティナ」
「……どうしても付いて行っちゃ駄目なんですか?」
「そうですね」
「……リディヤさんだけなんですか?」
「そうですね、今は」
「……『今は』ですか?」
「はい」
「……なら」
ティナが顔を上げ、しっかりとした視線を僕に向けてくる。
……ああ、この子は本当にまっすぐだなぁ。
「今回だけは……納得したくないし、納得してませんけど、リディヤさんに御譲りします。だけど……次は、私も先生の隣に立ってみせますからっ! 絶対、絶対にですっ!」
「楽しみにしてます――教授、結界強化はお任せしますよ? オーウェンにも伝えてありますが、貴方がいればより万全です」
「ああ、分かっているとも。その為に来たんだからね。君もその方が安心出来るだろう?」
……分かってて行動しているのが本当に質が悪い。
『炎麟』が仮に完全発動した時、この人がティナ達の傍にいてくれるのであれば、それは有難い話だ。どうにかしてくれるだろうし、きっと。
――リディヤが無言で歩き出す。やれやれ、置いていかないでおくれよ。
「それじゃ、僕達は行きますね。すぐ解決して帰って来ます――心配しないでください。僕は約束を破った事はないですから」
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