第二七話:試験結果

 ジーー!!

 校内に鋭くアラームが鳴り響いた。

 続けて、アナウンスが流れる。

「17時となりました。試験はこれにて終了となります。繰り返します。17時となりました。試験はこれにて終了となります。」

 卒業試験は全ての時間を消化し、終わりの時間を迎えた。最後まで粘るチーム、覚悟を決めて終わりの時間を待つチーム、様々だったが、皆一様に一縷の開放感に包まれた。

「終わった、ね」

 結有がチームの一同に語りかける。

「ああ。みんな、本当にお疲れ様。2日間ありがとう」

 英二はチームメンバーの労を労い感謝の言葉を伝えた。

「試験生の皆さんは、試験開始場所にお集まりください」

 アナウンスがこの後の集合場所を告げる。

「さあ、最初の広場に移動しようか」

 候補生一同が広場にぞろぞろと集まり始めた。

 疲れた顔、やり切った顔、悔しそうな顔。皆の表情は悲喜こもごもだ。

 やがて教官達が前方に集まり始め、最後に油屋と小柳津が姿を見せた。

 まず、油屋が演説台に上る。

「みんな、卒業試験ご苦労さん。2日間の長丁場、しっかりやり切ってくれたみたいだね。くたくただろうけど、この興奮冷めやらぬ内に結果発表に移りたいと思う」

 油屋はそう言うと後ろを振り向き右手で合図をした。後ろに控えていた教官2人が黒い布の被せられた台を運んでくる。台は演説台の横に置かれた。

「ほいと」

 油屋が台に被せられた布をひと思いに取っ払った。布の下からはパネルが7色に分割された色鮮やかなルーレットが現れた。各色のスペースは綺麗に7等分されている。

 生徒達はみな、場に不釣り合いにポップで色鮮やかなルーレットに視線を奪われた。

「お待ちかね、レインボールーレットだ。こいつが指し示した色の虹玉を持っているチームが、晴れて勝利チームとなる。さて、その虹玉なんだがどのチームがいくつ持ってるか教えてもらってもいいかね」

 油屋が候補生をぐるりと見渡した。しばらくの静寂の後、一番右の列の斉人が油屋に向けてすっと片手を上げる。

「片山チーム、3個です」

 おお、と一体にざわめきが走った。中には悔しそうにうつむく者達もいる。

「7分の3を占めたか、お見事」

 油屋も斉人チームに賛辞を送った。

「他のチームはどうかな?」

 油屋が全体を見渡しながら問いかける。

「はい」

 斉人に続き、英二が手を上げた。

「桜井チーム、4個です」

 先ほどよりもさらに大きなざわめきが起こった。

 英二達は2日間で4個の虹玉を集めていた。勝率は4分の7、50%を超えている。

 きっと勝てる、とチームの誰もが信じていた。

「これはこれは、さらに上を行くチームがいたとは。虹玉を半分以上集めるチームなんか滅多に出てこないからな、これは凄いことだ」

 油屋も驚きの顔を見せる。

 最終試験は結局、7個の虹玉を桜井チームが4個、片山チームが3個ずつ分け合う形となった。残りの5チームは全て虹玉を失うという結果となり、明暗がくっきりと分かれた。

 英二はちらりと斉人の方を見やった。

 運命の悪戯か、英二達は結局斉人チームと合間見えることはなく、結果お互いが虹玉を独占する形となっている。

 果たして試験を突破するのはどちらか。その答えは前方のレインボールーレットに託された。

「さて、それでは勝者を決めるとしようか。ルーレットを回すのは、小柳津学長にお願いする。小柳津学長、こちらへどうぞ」

 後ろの列に控えていた小柳津がゆっくり前に進み出て、ルーレットの横についた。小柳津は右の拳を口に当ててコホンと咳をすると、ルーレットを回す前に一同に話しかけた。

「油屋教官からもあったがみんな、本当にご苦労様。この試験を通して、みんなの成長をまざまざと見せ付けてもらったよ。みんな本当によく成長したね。ありがとう」

 小柳津は一同に向かって軽く頭を下げた。

「しかし、勝負は勝負。勝者はしっかり決めねばならない。僭越ながら私がその役目を果たさせてもらおう。さて、それではいくぞ」

 ごくり。

 英二は生唾を?み込んだ。これまでの数ヶ月の努力が報われるか否か、その答えがこのほんの一瞬で決まってしまう。

 英二の心臓はドクドクと鼓動を早くしていた。

 小柳津がルーレットの端を掴み、力いっぱいぐいっとルーレットを回した。ルーレットは勢い良く回り始めた。7色が空中で溶け合い、混ざり合う。

 誰もがルーレットを穴が開くほど凝視している。

 視線を一身に浴びながらルーレットは回り続けるが、やがて少しずつ回転スピードが落ち始めた。混ざり合っていた7色が少しずつ単色に戻り識別出来るようになっていく。

 英二の心臓はさらに鼓動のスピードを上げた。

 頼む、頼む――

 結有も両手をぎゅっと組み、ルーレットの行く末を不安げに見つめていた。

 いよいよルーレットの回転スピードは落ち、止まるタイミングがまもなくとなってきた。

 赤、白、青――

 ルーレットの針の下を各色が順にゆっくりと通過していく。

 緑、黄――

 紫。

 ルーレットは止まった。

「決まりだ。勝者は紫の虹玉を所持しているチームだ! 該当のチームキャプテンは挙手されたし!」

 英二は両手に握り締めていた虹玉をハッと見つめる。

 青、黄、緑。

 そして、赤。

「はい」

 最右列の斉人が右手を上げた。その手には紫色の虹玉がしっかりと握り締められている。

 英二は絶句した。

「そんな……」

「うそだろ……」

 結有と亨の悲痛な声が後ろから上がった。

 俺達が負けた……?

「紫の虹玉を所有していたのは斉人チーム! おめでとう、君たちは晴れてこのゲームの勝者となった! プロのエージェントとしての立場を保証しよう」

 小柳津が高らかに声を上げた。

 英二は目の前が暗くなるのを感じた。頭の中では落第の2文字がぐるぐると巡っている。

 その後に浮かんできたのは慎の顔だった。

 慎に合わせる顔がない――

 英二の落胆は一層深まった。

「さて……」

 まるで頃合いをはかっていたかのように小柳津が口を開いた。

「それでは続いて、我がエージェントアカデミー95期の卒業生発表に移らせていただこう」

 英二は一瞬、小柳津が何を言っているのか理解出来なかった。

 卒業生発表?

 たった今終わったばかりじゃないか――

 周囲も俄かにざわめき始めていた。

「えー……君たちは何か勘違いをしていないかね? 先ほどまで取り組んでもらったゲームは卒業試験には間違いないが、その勝ち負けと卒業の可否はまた別問題だ」

 ざわめきが一層大きくなり、一面を包んだ。

 生徒達の顔に希望の灯が再び点る。

 やられた――

 英二は思わず苦笑いをしたが、一方で体に力が戻って来るのを感じた。

 まだ、終わりじゃない――

「卒業認定者を発表する! アカデミーの終了成績順の発表とさせてもらう。まず1人目……」

 小柳津は演説台の上に置かれた紙を両手に持って広げた。

「最終試験での勝利は残念ながら逃したが、圧巻のパフォーマンスを見せてくれた桜井英二!」

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