第二十四話 男子高校生は気持ち良くて声が出ちゃう
前話のあらすじ
女性化の影響で胸とか尻が膨らんできて俺ピンチ。体型の変化を止めようと医師に相談したけど、手術やホルモン療法はリスクが高いしいろいろ無理だ。仕方なく過激なダイエットで解決しようと、るちあに助けを求めたら彼女の家で48時間の断食道場。そしてなぜか彼女と風呂に入ることに。
◇◇◇
いい香りを放つヒノキの浴槽に肩まで浸かりながら、俺の視線は眼前に曝け出された巨乳に釘付けになっていた。彼女はゆっくりと体を洗うと、頭からシャワーを浴びてシャンプーを手にとった。
ヒジを突き出し真っ白な腋を晒して、ゆるくウェーブがかかった色素の薄めな長い髪を洗い始める。目を閉じて、厚めな桜色の唇を軽く開く。髪から流れ落ちた泡がゆっくりと鎖骨を超えて胸の起伏に沿って流れた。
その泡が淡い色の突起のすぐ横を通過する。俺の目は彼女の薄い色の突起に釘付けになったまま。
近づいて手を伸ばせば触れられる距離にるちあの大きな胸がある。まるでワザと俺に見せつけるように突き出された起伏の先端に、尖った乳首が揺れている。髪を洗う彼女の動きにほんのわずかのタイムラグをもって追随し、ほんのわずかだけ行き過ぎて、ほんのわずかだけ揺り返す。
ストリップ騒動で見た時は、もっとこう……なんて言うかやわらかそうに、暴れるように形を変えながら揺れていたように思う。でも今は揺れがとても大人しい。
何が違うのだろう?
目の前に置かれた二つの優しい母性の象徴は、俺の意識のほとんどすべてを奪っていく。あの時とても柔らかそうに見えたそれは、今はパンパンに張って苦しそうだ。
そう思ってじっと見つめていると、いつの間にかるちあの動きが止まっていた。
彼女の胸に釘付けになっていた視線を上げると、薄目を開けてこっちを伺っている瞳と目が合った。
見てるのバレてた! え? でもなんで?
知ってたのか? いや、でも、俺がいるのに入ってきたんだから、見られるってわかってるハズだよな。いや、男だったらこういう場合、見ないようにするべき?
るちあは髪を洗うように両手を頭の後ろに当て、両肘と胸を突き出すようなポーズのまま、静かに俺を見つめていた。表情にはなんら変化はないけど、彼女の顔は耳まで真っ赤になっていた。
えーと……。
これは……。
どういうことだ?
まさか、ワザと俺に見せているのか?
でも、るちあは夕夜の彼女だし、二人のステータスはラブラブなハズ。そんな彼女が俺にワザと裸を見せるなんて……いや、確かに今まで彼女は俺に抱きついたり巨乳を押し当てたりしてきた。でも……だからと言って、るちあが俺のことを?
いやいやいや! ソレはナイナイ。だって俺には
じゃあ、この状況はいったいどういうことなんだ。るちあは俺に見ろと言っているのか? でも俺はすでにガン見している。それでもまだ、彼女はなにも言わずじっとしたままだ。まさか、俺が触れるのを待っているのか?
どうして? なんのために?
湯船の底で、迷う指が俺の意思とは無関係にピクピクと動きだす。
触れというのか? てか、触っていいの?
正直言うと興味はある。あの大きな膨らみがどれだけ柔らかいものなのか、見ただけでは判断できない。
夕夜の家で初めてアダルトビデオを観たけど、アレに映っていた女性の胸はペッタンコに近い大きさだった。だから気になる。これだけ大きな胸の弾力はいったいどのくらいなのだろうか。
その純粋で科学的な探究心に抗うことは難しい。
俺の右手がおずおずと浴槽の湯の中を浮上してゆく。
ゆっくりと水面から現れた五本の指が、分厚いヒノキの障壁を容易く突破して目標に向かって伸びていく。俺は今、母性の謎をこの手で解き明かそうとしている探求者だった。
俺の指先はもうすぐ真理に到達する。
そう思った瞬間、廊下から聞き覚えのあるメロディーが聞こえた。玄関チャイムだ。
「パパかな?」
ナンデスト?
無意識のうちに俺の手はまた浴槽の底に沈んだ。
浴室のドアがいきなり開いたりはしないと思うけど、巨乳に触ろうと思っていた自分に罪悪感を感じてしまう。それは俺の心が男だからだろうか?
チャイムを合図にしたように、るちあはシャンプーを手早く流すとトリートメントを済ませて立ち上がった。
ドアに掛けてあったタオルを髪に巻きつけて器用に捻じると、それを頭の上で巻いて固定する。
そして、手を伸ばしてきて俺の目を優しく塞ぐ。なにをするのかと思っていたら、湯船に浸かってる俺のすぐ隣に入ってきた。
俺はまた股間を完全ガードして、るちあからできるだけ離れるために浴槽の端に張り付いた。給湯用の蛇口が背中に当たる。しかし、大きな湯船と言えど一般家庭の風呂である。いくら避けても肌はピッタリと密着してしまう。
春とは言え、洗い場に長く座っていた彼女の体は少しだけ冷たい。
両腕が俺の体に抱きつくように回される。
「あったかぁーい!」
さっき触れようとして触れられなかったものが、俺の肩に、腕に優しく押し付けられる。
ああ、これってなんだか、すっごく落ち着く!
まるで大きなビーズクッションのような柔らかさと弾力が俺の体と心を同時に包み込む。自分の体型の変化で悩んでいたことがまるで些末なことのように思えてくる。
女の子の体って、なんて気持ちがいいんだろう?
心の隅に残っていた猜疑心や警戒心が湯船の中にどんどん溶け出して、流れ落ちる湯とともに音を立てて排水口に飲み込まれていった。
俺は湯気を胸いっぱいに吸い込んでゆっくりと吐き出す。
「あっはぁあぁぁあぁっ……!」
突然、アダルトビデオで観たようなツヤを帯びた女のエロい吐息がすぐ近くで聞こえた。浴室のエコーがかかって一段とエロチックに響く。
今の声、るちあ?
そう思って彼女を見ると、るちあも俺の顔を覗き込んでいた。目をまん丸にして……。
「今のって
そう問いかける彼女の腕から逃れて立ち上がる。
俺の声だったのか?
なんだアレ? 熱い温泉とかに浸かってリラックスすると出てくる『ため息』のつもりだったのに、なんであんな声が出たんだ?
あんな声、どう聞いても女じゃないか!
こんなことで、俺の秘密がバレたらシャレにならない!
俺は両手で股間を完璧にガードすると、未だ固まったままの彼女を残してヒノキの浴槽をまたぐ。
ここにいたらマズイ!
とにかく浴室から逃げ出そうと急いでドアを開けた。
「ギャーーーーーーーーーー!」
浴室のドアの外。脱衣所に見知らぬ男が立っていた。
え? なに? 誰?
頭の中がグルングルン回って思考がグチャグチャになってしまう。
目の前に急に現れた男に驚きながら、頭の片隅では悲鳴が女の子っぽくならなかったことに安堵していた。
男は黒縁の眼鏡をかけた中年で、他に身につけているものはブリーフのみだった。何かの衣類を手に掴んでいる。
明らかに不審者。まごうことなき変質者。
その変質者は俺を頭のてっぺんからつま先まで舐めるように凝視している。
見てる? 俺のことを? なんで?
ようやく、俺の脳が今、るちあの家にいることを思い出した。
……と言うことは、この変質者は彼女のオヤジさんか! だとしたら先ず挨拶すべきか? でも、オヤジさんから見れば、俺は大事な娘と一緒に風呂に入っていたどこの馬の骨ともわからない男。ここは誤解のないようにキチンと弁明しなくちゃならない。
いや違う! そうじゃない。もう一度良く考えてみろ。俺は女の子としてこの家に泊めてもらっているのだ。と言うことは……ええと、ええと。
半ば停止しかけた脳みそで必死に状況判断を試みる。しかし、司令塔がパニックを起こしたせいで硬直した体はまるで動かない。
片手はドアノブをつかんだまま。もう片方の手はバランスを取るように後ろへ回していて、脚は脱衣所に踏み出すために大きく開いたままの状態だった。
さっきからオヤジさんの視線はずっと、固まっている俺の身体の上を行ったりきたりしている。
ええと、男だとバレてはいけないから……俺はいま女の子ということで……ええと、そうだ先ずは体を隠さないと!
数秒遅れて俺は両手のひらで股間を隠す。
いや、違う! 女の子はこうだ!
片手を胸に移動して、手のひらと腕で乳首を隠した。
これで合ってるハズだ。でも、隠すまでの間、ずいぶん見られてしまった。
俺の背中に冷たいものが流れて落ちる。
ここでバレたらどうなってしまうんだ?
目の前のオヤジさんの視線は俺の体に釘付けになったまま。異様に見開かれて瞳孔までも開いた目。この目は前に見たことがある。そう……AVを観ていた時の
それを思い出した瞬間、本能が思考を凌駕する。俺は無意識のうちに肺いっぱいに息を吸い込んで、喉が壊れんばかりに悲鳴を……。
「パパっ! なんでいるのよ? 出てって!」
浴室から、るちあの絶叫が響く。
それはもう、俺の中途半端な悲鳴をも搔き消すほど大音量の超音波で。
るちあのオヤジさんは、弾かれたように廊下に飛び出すと、早口でなんども謝りながら振り返ることなく走り去っていった。
湯船を飛び出してきたるちあが腕を回して俺を後ろから抱きしめる。
廊下を走ってくる足音がして、お母さんが広げたバスタオルで俺たちを包み込んだ。
「ごめんね。お風呂使ってるってパパに言ってなかったの。トイレに行ったと思って……本当にごめんなさい。大丈夫?」
濡れた体を拭きながら前半はるちあに、後半は俺に向かって言いながら何度も謝ってくれる。
ドアを開けてからるちあが叫ぶまで、いったい何秒くらいあっただろう。俺の体を見て男だと疑われなかっただろうか。それだけが心配だった。
後から冷静に考えてみれば……いや、考えるまでもない……女の子のフリをするなら、すぐに体を隠すのが正解だったんだ。恥ずかしがる行為がより女らしく見せてくれる。
それより、俺の裸を見たくらいで娘に怒鳴られてしまったオヤジさんに申し訳なくて……。
もちろんそんなこと、口には出せないけど。
背中でるちあが震えている。
まさか、泣いてるのか? こんな俺のために?
そう思うと、まるで彼女の感情がダイレクトに転送されてきたみたいに胸がいっぱいになってしまう。
俺の体を拭きながら謝るお母さんの顔がいきなりボヤける。ダメだった。俺は必死にこらえたけれど、溢れる涙が次から次へとこぼれて落ちていった。
いったいどうなってるんだ? 俺。
自分では辛いわけでも悲しいわけでもないのに、るちあにつられるように泣いてしまった。
俺が泣くことで、罪のないオヤジさんに重い罰を課すことになるというのに、どうしても自力で涙を止めることができない。
「あのエロオヤジ! 絶対許さない。ブッコロして八つ裂きにしてやる」
るちあが剣呑な言葉を口にする。
でもちょっと待って、るちあ。
殺してから八つ裂きにするのは順序が逆だ。八つ裂きというのはより強く長く苦痛を与えるための処刑方法。殺してから八つ裂きにしても苦痛を与えることはできない。それではただのバラバラ殺人事件じゃないか。
いや待てよ。今夜のような場合はオヤジさんに罪はない。だったら苦痛が少ない方が望ましいから、殺してから八つ裂きにするで正しいのか。
いやいや、
反対に、殺してバラバラにした娘の方の罪状は、殺人と死体損壊になる。ところが、より苦しませるために八つ裂きで殺した場合、罪状は殺人だけになる。うん? てことは、苦しませた方が罪が軽いってことになるのか?
あ! もし殺意を立証できない場合は過失致死となってさらに減刑されるぞ。
と言うことは、八つ裂きの後にオヤジさんには死んでもらって、俺とるちあでSMプレイ中の事故でしたと口裏を合わせて証言するのが最適解ということになる。
「なにブツブツ言ってるのよ」
どうでもいいことを考えている俺の髪がドライヤーで乾かされる。るちあはまるで美容師のように優しい手つきで俺の髪をさばいていった。
「本当にごめんなさいね、東條さん。パパには後できつく言っておくから……」
そう言って、お母さんは手にした着替えを俺に渡してくれた。
例のキャラクターがプリントされたピンク色のパジャマ。その上には、同じキャラクターの描かれたブルーの下着が乗っていた。もちろん、女物だ。
もう、今さら『男でした』なんて絶対に言えない。大人しくこのパンツを履いてピンクのパジャマを着なくちゃならないのか。
「パジャマはあたしのだけど、下着は新品だから気にしないでね」
そう言うと、るちあはバスタオルをガバッとはだけて、自分の下着に脚を通し始めた。
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