第21話 シベリウスの『樅の木』
刺刺陰風岬岫雲
孤樅抜地葉芬芬
東辺冷露初雷響
小品繊聲若野蚊
上平声十二文
世界史創作企画お題【花】
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作者自身が自作の解説をするのは野暮だと思われるでしょうが、読み方や詳しい意味を知りたい、という意見が無いわけでもないので、ウザいとは思われそうですけど、今回オンリーで解説を付けてみようかと思います。
そんなもの必要無い、という方は、読み飛ばして下にスクロールしていただいてかまいません。
・シベリウスの『樅の木』について。
世界史創作企画のお題は、花、あるいはフリーですが、木ということで、すみません。
シベリウスはフィンランド出身の作曲家。交響詩『フィンランディア』などが有名です。
『樅の木』は、俗に『木の組曲』と呼ばれるピアノ曲小品5作品のうちの第5番目の曲です。第一次世界大戦中に書かれた曲のようです。3分程度の短い曲なので、ぜひ聞いてみてください。
原題はフィンランド語で数字の六という意味もある、kuusi、といってフィンランドの象徴ともいうべき木で、日本でいうところのモミの木とは違ってドイツトウヒ、ヨーロッパトウヒの木かという感じです。大雑把にクリスマスツリーの木、という認識でよさそうかと。
・詩の読みと意味。
剌剌(らつらつ)たる陰風(いんぷう)、岬岫(こうしゅう)の雲
孤樅(こしょう)は地を抜き、葉は芬芬(ふんぷん)
東辺(とうへん)の冷露(れいろ)、初雷(しょらい)の響き
小品(しょうひん)の繊聲(せんせい)、野蚊(やぶん)の若(ごと)し
剌剌は風が激しく吹く様子。溌剌のラツであって、さす、の、刺とは別字。元の王冕の「剌剌北風吹倒人」から。
陰風は北風、冬の嵐。唐の常建の「北海陰風動地来」から。
岬は、みさきではなく、山の片隅の意。
岫は山の洞穴で、ここから雲が出てくるといわれます。
一句目は単純にフィンランドをイメージした情景描写です。
孤樅は一本だけ立っている樅の木。
抜地は、すくっと聳える。清の黄遵憲の「抜地摩天独立高」から。
芬芬は匂いが立つ様子で、葉芬芬は常緑の樅の木の葉が茂って匂い立つさま。芬はフィンランドの漢字表記の略称でもあります。
二句目は本題である樅の木の提示。
東辺は東のあたり。
冷露は字の通り冷たいつゆ。
初雷は春の雷。有智子内親王の「泉声近報初雷響」から。
三句目は単純に情景描写、ですが、字を見れば想像つくと思いますが、フィンランドの東で国境を接しているロシアとの戦争とロシアからの独立の意味も含めています。
小品は文字通り小品。
繊聲は細い声。
野蚊は文字通り野の蚊。
若は、ごとし。◎◎のようだ、の意。同じ、ごとし、でも、如し、だと平仄が合わないので若とした。
四句目はシベリウスの曲について述べたもの。『樅の木』の繊細な音色は、野の蚊の鳴き声のようだ、の意。
・その他
解説を書いてしまうと、詩があんまり大した詩じゃないことがモロバレなので、蛇足な解説を書くのは今回限りにしておこうと思います。
自己評価としてはワンパターン。それしかないです。
でもせっかくなので、ここぞとばかりに自画自賛できる要素を二点挙げておくと、一点は、岬、という熟語として使う機会のほとんど無い語を使うことができたこと、そして岬岫という字面の見た目的に対になった感じの熟語として使うことができたこと。
もう一点は、きれいなものを素直に詠んだ詩では使いにくい蚊という字を韻字として消化できたこと、といったところです。
平仄は以下の通り。韻字は雲、芬、蚊。
●●○○●●◎
△○▲●●○◎
○○●●○○●
●●○○●●◎
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