(19)ちょっとした違和感

 披露宴まで半月強になって慌ただしく過ごす中、沙織は久しぶりに由良を含む愛でる会会員数人とランチに出かけた。


「沙織と一緒にお昼って、かなり久しぶりよね。最近忙しそうにしているけど、披露宴の準備と関係があるの?」

「それは帰宅してからとか仕事の合間に進めているけど、披露宴をするならついでに新婚旅行もしてこようと思い立って、1ヶ月くらい前から色々準備してきたのよ。披露宴の翌日から1週間出かけるから、その日程を空けるために仕事を詰めざるを得ない状況になっているの」

 その説明を聞いた由良は、納得して頷く。


「なるほどね……。でも思い立ったが吉日とも言うし、それで良いんじゃない? 少し落ち着いたら行こうとか言っていると、いつまで経っても行けなさそうだもの。晴れて公認の夫婦になったわけだし、この機会に行ってくれば良いわよ」

「因みに、どこに行く予定ですか?」

「ヨーロッパとかアメリカですか?」

 嬉々として尋ねてきた周囲に、沙織は苦笑しながら告げる。


「プーケット島で過ごしてくることにしたの。移動にあまり時間をかけずに、のんびり過ごす予定よ。それにあそこなら、海の他にも色々なアクティビティがあるしね。退屈せずに過ごせると思うわ」

「良いですね〜、羨ましいい〜」

「新川会長、後がつかえているんですから、さっさと縁付いて後進に後を譲ってくださいよ」

「会長の座を譲り渡したいのは山々なんだけどね。相手がなかなか難攻不落でね」

 そこで由良が肩を竦めてみせると、後輩達が真剣な面持ちで沙織に助勢を懇願してきた。


「結構手ごわいんですね、吉村さんって」

「関本さん、会長のサポートを是非お願いします!」

「私達の未来にも直結しているので!」

 言われるまでもなく、沙織は本心では友人である由良の後押しをしたいのは山々だった。しかし同僚でもある吉村に無理強いはできないため、取り敢えず話の論点をずらしてみる。


「ええと……、縁付く可能性が高い、愛でる会会長の椅子を狙うのも良いけど、今度の披露宴で友之さんの同期とか親戚とか大学時代からの友人を、かなり招待しているのよ。さりげなく聞いてみたら、その人達の既婚者と独身の比率が半々みたいだし、そこで新しい出会いを探してみるのも良いんじゃない?」

 その提案に、周囲は途端に目を輝かせた。


「その可能性は考えていませんでした!」

「やっぱり松原課長に連なる人達ですから、イケメンとか有能とかそれなりの人達ですよね⁉︎」

「だと思うわよ? ……多分」

(どうかな? そこまで詳しくは聞いていないけど……)

 食いついて来た彼女達に余計な事は口にせず、沙織は曖昧に笑って頷いてみせた。すると気合漲る声が上がる。


「よっし! 益々やる気が出てきた! 気合い入れてドレスや小物を揃えるわよ!」

「他の皆にも、今の話を教えておかないと!」

「そうね! LINEのグループトークに書き込んでおきましょう」

「あ、そういえば会長。披露宴の時、愛でる会で出し物をするって話はどうなったんですか?」

「私もそれを確認しようと思ってたんです。全然具体的な話が伝わってこないなと思っていて」

「え? あ、ええっと……、それは……」

 唐突に話の矛先が変わり、周囲からの視線を集めた由良が、何故か狼狽した様子を見せる。それを不審に思った沙織は、何か不都合な事でもあったのかと尋ねてみた。


「あれ? 由良。披露宴の話が出た直後に自信満々で言ってきたけど、まだ本格的な準備に入っていなかったの? もし何かトラブルとかあってできなくなったのなら、無理しないで言って頂戴。時間配分とか当日の進行とかなら、どうにでも調整できるから」

 しかしその申し出を聞いた由良は、笑いながら否定してくる。


「ああ、うん。確かに皆に詳細を伝えるのは遅れているけど、準備ができていないわけではないの。下準備はしているから大丈夫よ」

「そうなの?」

「そうよ。それにマスゲームのように、大勢が長時間練習をして息を合わせる必要があるような類のものではないし。披露宴まで半月程だけど、安心して。皆で揃える衣装とか小物類もないから。ごめんなさい。私も仕事でバタバタして、詳細を伝えるのを後回しにしていて。皆には近日中に伝えるわ」

 最後は同席している会員達に向けて、由良が謝罪しつつ事情を説明する。それを聞いて、その場に安堵した空気が漂った。


「分かりました。当日は、どうしても外せない予定がある人以外は、愛でる会会員が勢揃いですものね」

「ここまで一堂に会する機会って滅多にないですから、その意味でも楽しみです!」

「楽しんで貰えたら嬉しいわ」

(それにしてもさっきの由良の反応、ちょっとらしくなかったな……。無理や無茶な企画を立案するタイプではないはずだけど、本当に無理していないかしら?)

 それからは披露宴や新婚旅行を話題にして盛り上がりながら昼食を食べ進めた沙織だったが、珍しく由良が口ごもった事について若干の違和感が拭えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る