良策
喜雨「じゃあ行って来るね」
霧雨「あっ。う、うん。」
喜雨「私が舞台袖に立つくらいの時に舞台の方くればいいと思うよ」
霧雨「りょ、了解っす」
どうやらまだ話の受け答えをする気力は残っている
喜雨さんの黒髪が舞台の明かりに照らされる。
私はのそりと立ち上がって舞台へ向かう。心臓の動く音は次第に大きなホールに響くまでになり胸から胴、全てが心臓かと疑う。
緊張でもう、お題が何かすら脳のメモリから揮発している。
舞台上手側へ延びる階段。その下で来たる自分の出番を待つ。
階段の上では喜雨さんが大きく深呼吸をしている。深呼吸といえば緊張をほぐす上で重要な行為だ。
少女も真似て大きく息を吸い込もうと口を開く。が、乾いた喉と強張った肺は新鮮な空気の侵入を拒む。
喉と喉、下と口腔がべったりと張り付いて思わず嘔吐いてしまう。
深呼吸をする余裕があるならばそもそも緊張なんてしてない。だから奴らは深呼吸で緊張が取り除かれていると勘違いする。
早くなる鼓動と呼吸は自我を忘れて体を離れていく。
少女はおぼつかない足取りで階段を登り舞台袖に立つ。
頭上から雫が一粒。立派なお堂が雨漏り。
ではない。額を触ると手にはべっとりと塩水がまとわりついている。
少女にはもう自分の体に対する意識はほとんどなかった。
舞台中央で話す喜雨へ視線をむける。
霧雨「あれ、私…….」
喜雨さんの艶やかな黒髪に吸収されて行く光は大きく歪んで円を描く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます