第19話 エルに御飯をあげよう

「レッド、御飯だよー」

 神果を入れた籠を持って、僕は火の牧場にいるレッドに会いに行った。

 レッドは幾分もせずに見つかった。どうやら僕の声を覚えてくれているようで、僕の呼びかけに応えて向こうから会いに来てくれたのだ。

 この牧場に連れて来た時はよちよちと歩いていたレッドだが、今はしっかりとした足取りで歩いている。

 身体も大きくなっている。前は掌に乗るくらいに小さかったのに、今は両腕で抱えるほどの大きさになっていた。

 牧場に住まわせると成長が早いってメネは言ってたけど、三日でこれは早すぎな気がしないでもない。

 この調子だと一ヶ月も待たずに大人になっちゃうんじゃないか?

「大きくなったなぁ、レッド」

「がう」

 僕が背中を撫でてやると、レッドは気持ち良さそうに目を閉じながら鳴き声を発した。

 鳴き声も生まれたばかりの頃とは違って随分と竜らしくなったね。

 籠から出した神果を、レッドの目の前に置いてやる。

 レッドはすぐに、神果を食べ始めた。

 食べる量も生まれたばかりの頃と比較してかなり増えた。

 大人になったら、一体どれだけの量を食べるようになるのだろうか。

 目の前に苺が山盛りになっている光景を見ることになりそうだな。

「そろそろ、大人用の神果を作り始めてもいいかもね」

 神果を食べるレッドを見ながらメネが言った。

「大人用の神果?」

「神果には幾つか種類があるの。エルの成長に合わせてあげる神果の種類を変えていくものなんだ」

「へぇー」

 僕が今あげている神果は、主に生まれて間もないエルが食べる、いわゆるミルクのようなものらしい。

 今はまだ今の神果でも構わないが、そのうち栄養が足りなくなるだろうとのことだった。

「畑を増やして、新しい神果を育てなきゃね」

 新しい神果か。どんな見た目の果実なのか、見るのがちょっと楽しみだ。

 食事を終えたレッドの頭を撫でて、僕は籠を片手に立ち上がった。

 火の牧場を出て、風の牧場に移動する。

 メロンは僕の姿を見つけると、とととっと草原を駆けて目の前に来てくれた。

 ふわふわだった羽毛が、少しずつ立派な羽根に変わってきている。この分だと、自由に空を飛べるようになるまでそうはかからなそうだ。

「メロン、御飯だよ」

 僕はレッドの時と同じように、メロンの目の前に神果を置いてやった。

 生まれたばかりの頃は神果を啄ばんで少しずつ食べていたメロンだが、少し身体が大きくなった今では果実を丸飲みにすることができるようになった。

 お陰で、食べるスピードも随分と上がった。

「たくさん食べて早く飛べるようになるんだよ」

「ぴぃ」

 今の鳴き声。まるで返事をしてくれたみたいだね。

 こういう可愛い姿が見られるから、生き物の世話はやめられないのだ。

「キラ、これが終わったら畑に行こう。新しくできてる神果を収穫しなきゃ」

「うん」

 エルの世話が終わったら畑の世話。

 本当に、この暮らしは命の温かみを間近に感じられる、いい暮らしだなって思うよ。

 世界の様子はこんなだけど、僕はこの世界に召喚されて良かったって思う。

 身体全体をぐっと伸ばして、僕は空になった籠を手にメネが待つ牧場の外へと向かった。

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