第3話 畑作り

 ラファニエルが帰った後、僕は椅子に腰掛けて指南書をじっくりと読んでいた。

 隅々まで腰を据えて目を通したお陰で、エル育成のためには色々と必要なものがあることが理解できた。

 まず、畑。エルが食べる神果を得るために必要な設備だ。

 次に、牧場。卵から孵ったエルが大きくなったら暮らすための場所である。

 エルは小さいうちはこの部屋の中でも育てられるらしいのだが、成長してくると種類によっては大きくなるものもあるらしい。そのために、エルがのびのびと暮らせる場所を用意する必要があるとのことだった。

 この牧場というのが結構厄介で、エルの種類によって作る牧場の形態も変わるらしい。

 エルが宿す神の力には属性があり、要はその属性に合った場所を提供しなければならないとのことなのだ。

 例えば火の力を宿すエルには火の力で満たされた牧場を……という風な具合だ。

 属性云々についてはメネが詳しそうだから、後で教えてもらうことにしよう。

 後作らなければならないのは、交配のための休息地だ。

 神とはいえエルも生き物なので、成長すれば子孫を残す。エルたちが落ち着いて卵を産めるように、整った環境が必要なのだそうだ。

 これは今すぐに必要というわけではなさそうだが、将来を考えたらなるべく早めに作る必要がありそうだ。

 エルを増やすためには卵を孵さなければならない。その卵を産んでくれるわけだしね。

 必要な設備はこんなところだろう。

 それじゃあ、早速畑を作りに外に出ることにしよう。

 指南書を閉じ、僕は席から立ち上がった。

「マスター、何処か行くの?」

 テーブルの上で座っていたメネが顔を上げて問うてくる。

「うん、畑を作りにね」

「それなら、メネも一緒に行くよ。畑を作るにはメネの魔法が必要でしょ?」

 メネは舞い上がると、僕の左肩に腰を下ろした。

 僕はメネと一緒に、部屋の外に出た。

 この世界は荒廃しているとラファニエルが言っていたけど、まさしくその通りの光景が一面に広がっていた。

 立ち枯れした木がぽつぽつと生える大地は罅割れており、大小様々な岩がごろごろと転がって荒れた大地を更に荒らしている。

 遠くに見える山々のシルエットは灰色一色で、植物が茂っているようには全く見えない。

 究極は、この空。

 部屋の中から窓越しに見ていた時は夕焼けで赤いのかと思っていたが、とんでもない。太陽なんて何処にもないのに、赤一色に染まっているのだ。まるで血の海を見ているかのような──そんな不気味さが漂っていた。

 本当に、終末なんだな。この世界は。

 この状態から世界を再生させるなんて──できるのだろうか。

「何処に作るの? 畑」

「──あ、うん。そうだね」

 いかんいかん。僕まで暗くなってちゃいけないよね。

 僕は頭を軽く振って、家の目の前に広がる平地に目を向けた。

 畑は農作物の世話で頻繁に出入りする場所だし、家から近い場所の方がいいかな。

 岩とか罅割れとか凄いけど、何処もこんな感じっぽいし、気にするだけ無駄な気がする。

 僕はメネに目を向けて、目の前の地面を指差した。

「此処に作ろう」

「分かった。それじゃあ耕すね」

 メネは僕の肩から下りて、小さな掌を地面へと向けた。

 彼女の掌が、淡く黄金に輝く。

 その光は地面を撫でるように覆っていき、地面に劇的な変化を齎した。

 罅割れが塞がっていき、転がっていた岩が崩れて砂と化す。地面は盛り上がって畝を作り出し、あっという間に畑が出来上がった。

 広さは学校の教室ほどある。これだけの広さに作物を植えれば、たくさんの神果が収穫できるだろう。

「はい、できたよ」

「ありがとう。それじゃあ、種蒔きしようか」

 そう言って、僕はふと気が付いて小首を傾げた。

「……そういえば、種って何処から調達するんだろ」

「種は家にあるよ。メネが取ってきてあげようか?」

「ううん、僕も行くよ。何処に何があるか分かっておかないと仕事ができないからね」

 畑を作ることに気を取られてて肝心の種を忘れてたなんて間抜けだね、僕は。

 そういえば家の中に何があるかちゃんと確認してないし、それを知るためにも一旦家の中に戻ろう。

 僕はメネを連れて家の中に引き返した。

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